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暗闇が教えてくれたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:成澤ゆう(ライティング・ゼミ10月コース)
 
 
暗闇は人間にとって恐怖の対象であり、可能な限り避けたいものだと思います。でも、私は、最近、暗闇からとても重要なことを教えてもらいました。それは、誰しもが人生を豊かにするために必要なことで、もしかすると読者の皆さんのお役に立つことかも知れません。
 
カッカッ、カッカッ
 
私は手に持つ棒を左右の地面に打ちつけながら、地面の感触を確かめて、一歩を踏み出した。いつもの半分の歩幅で。上げた足を地面につける時も、地面の感触を確かめながら足裏にゆっくり体重を広げる。そこに安全な地面があることが分かるまで油断できない。足を降ろして安堵しても終わらない。次の半歩も踏み出さないと。
怖い。この先に何があるか分からない。もしかしたら、何もない奈落なんじゃないか。足元だけじゃない。頭や顔の高さに尖ったものがあるかも知れない。不用意に進むとタンコブではすまないかもしれない。でも、進まないと置いていかれる。
 
これは、暗闇を体験した最初の数分間、私が感じていたことです。その時私は、視覚を完全に遮断されていて、瞼を上げようが下げようが何も変わらない完全な暗闇にいました。
体験したのは「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」というドイツ発祥のソーシャル・エンターテイメント。視覚障害者の方がガイドとなり、みんなが白杖を持って暗闇に入って、いくつかのワークをやる。ワークは誰しもが一度はやったことのあるシンプルなもので、目が見える状態でやったら簡単過ぎると思うようなもの。
このエンターテイメントの不思議なところは、最終的に楽しく感じるだけでなく、出てくる頃には一緒に入った人たちと仲良くなっているということ。入る前が初対面でも仲良くなる。私が体験した時は、全員が初対面同士でしたが、出てきた時には数年来の仕事仲間のような気心の知れた感覚で話していました。大したワークをするわけでもなく、ワーク以外は歩き回るだけ。それなのに、仲良くなる。暗闇があるだけで、仲良くなる。不思議な体験でした。
 
専用スタジオに入るのですが、中に入ると視覚が奪われるので、今までなら簡単に回避できた物や人との衝突が、声を上げないと回避できなくなるという恐怖を感じます。だから、初対面でも声を掛け合い、名前を頻繁に呼び合って移動していきます。
 
「〇〇さん、今どこにいますか?」
「はーい、ここに居ますよ。分かりますか?」
「あ、ありがとうございます。今そちらのほうに向かいますね。△△さんは、後ろからついてきていますか?」
「はい、大丈夫です。□□さんのすぐ後ろにいますよ」
 
10メートル進むだけでも、こんな調子です。もし、つまずきそうなものを見つければ、お互いに注意を促します。
 
「あ、今、足に何か当たりました。なんだろ、これ? とりあえずデコボコしているので、□□さん、気をつけてください」
「了解です。ありがとうございます。……、あ、ほんとだ。△△さん、僕の声聞こえますか?この辺りにデコボコがあるので気をつけてください」
「ありがとうございます」
 
歩みを止める時は、
 
「〇〇、止まりまーす。前がつかえているみたいです」
「はーい、了解です。△△さん、□□も止まります」
「はーい」
 
しゃがむ時は、
 
「あ、何かある。〇〇、ちょっとしゃがみまーす」
「はい、じゃあ、□□、一旦止まります」
「了解です。△△も止まります。動いたら教えてください」
 
お互いがぶつかることを避けるために、自分の動きの変化を一々声に出して伝えるので、コミュニケーションの量は多くなる。
コミュニケーションは量だけでなく、質も変わります。
 
「右に行ってくれる?」
「え?! 右ってどっち!」
「あ、そうか。今、どっち向いてる? 私の声が聞こえる方に向いた状態で、右に二歩行ってもらえる?」
 
「右は、右だよ!」ではない。お互いがどちらを向いているか分からないから、ただ「右」と言っても分からない。電話で道案内をする時と同じで、相手の状況を確認しながら具体的に順を追って説明しないといけない。全ての会話において。
一見すると面倒な応対に感じるかも知れませんが、声を掛け合い、情報を丁寧に提供することを繰り返すうちに、不思議と相手に対する感謝と優しさが湧いてきて、気づくと最初に感じた恐怖はどこかに飛んでいっていました。そして、上下や優劣のない仲間がそこにいる。もうそこは恐怖が漂う空間ではなく、信頼と安心が滲む空間になっていました。
 
この暗闇体験をした上で、日常の自分のコミュニケーションを振り返って、気づきました。これまで何と雑な対応をしていたのかという事実と、ワクワクする自分に。
日常には、暗闇の中にいるような先の見えない課題が沢山あり、一緒に解決に取り組む仲間もいる。であれば、この仲間たちと暗闇でしたようなコミュニケーションを行えば、今よりも仲良くなって仕事が楽しくなるのかも知れない。もっと良い成果を、一緒に上げることができるかも知れない。そんな風にワクワクする自分がいました。
このワクワクをもとに、最近では、日常のやり取りに一言加えるようにしています。
 
「おはよう。今日は早いね」
「おはようございます。いや、ちょっとバタバタしていて」
「あらま。大変だね。なんか手伝おうか?」
 
相手のちょっとした変化を捉えて一言表現を加えるだけで、相手との距離がだいぶ近づきます。これを色々な場面でやっているので、日々仲間との関係性が深くなっているように感じます。現状では、形になるような成果には結びついていませんが、取り敢えず仕事は以前よりずいぶん楽しくなりました。形ある成果もそろそろ訪れそうな予感がし始めています。
 
視覚が無いせいで怖い感覚もありましたが、暗闇はコミュニケーションの重要性を改めて私に教えてくれました。
 
 
 
 
***
 
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2022-11-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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