真夜中のダンジョンの先で、見つけたものは。《ふるさとグランプリ》
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記事:福居 ゆかり (ライティング・ゼミ)
「今日、どう?行かない?」
いつも始まりはその、一通のメールだった。手帳で明日の予定がないことを確認し、「いいよ」と返信する。
そうして私は、用意をして静かに夜を待った。
彼女と真夜中のダンジョンへ出かけるために。
夜も更けた頃、私たちはめいめい荷物を持って一台の車に乗り込んだ。荷物、といってもごく最小限のものをビニール袋に詰め込んだだけである。飲み物、食料、着替え、地図。
寒くないか、装備のチェックをする。OKだ。貴金属類は全て外して来たかのチェックもかかせない。
そうしてガソリンを満タンにし、私たちは暗闇の中へと出発した。
夜の山道は街灯も寂しく、時折動物がライトの前を横切るので運転するのは一苦労だ。おまけに、対向車もない上に道はくねくねと曲がり、視界が悪い。
お互いに運転は苦手ではなかったが、先は長い。用心のために交代しながら進む。
「友達から聞いたんだけど、今日はね、新しい場所に行ってみない?」
楽しそうに彼女は言った。
「えっ、ほんと?」
どのあたり?と、話をしながら場所のあたりをつける。けれど、あくまでぼんやりとなので、実際に行ってみないと辿り着けるかどうかわからない。そのスリルが、私たちを動かしていた。
「……今日は、何かあったの?」
嫌な事が、と続くのを飲み込んでそう訪ねると、彼女はそんなことないよ、なんで?と笑ったけれど、目は笑っていなかった。
大体いつもそうで、遠くに行きたい時には理由があった。私も、彼女も。
「……あいつね、また他の女の子と遊んでた。信じらんない」
しばらくの後、ぼつりと、呟くように彼女は言った。窓の外にどこまでも続く暗闇を見つめながら。
目的地まではまだ、遠い。着くまでにはきっと、彼女の話も一通り終わるだろう。そう思いながら、ハンドルを切った。
車のドアを開けると、独特の匂いがした。
荷物を持ち、その場所へと向かう。寂しく街灯がついているくらいの中、曲がりくねった狭い道へと進む。まるで、RPGのダンジョンのようだ。
この辺りだって話だけど、こっちに行ってみる?と、さらに曲がる。しばらく彷徨った後、私と彼女のパーティーはやっと目的地に辿り着いた。
古びた引き戸をそろりと開ける。音が、妙に大きく感じる。
そうっと、中を覗き込む。真っ暗なのを確認すると、ほっと溜息をつく。
「誰もいないみたい」
「やったね」
暗闇の中、小声でそう交わすと壁沿いを探り、スイッチを押す。ぼう、とオレンジ色の小さな電球が辺りを照らした。
さて、ここからが本番だ。
上着に始まり、一枚、また一枚と脱いでいく。
「先に行くよ」
そういうと友人は扉の向こうへと消えた。
私も急がないと、と慌てて全てを脱ぎ捨て、友人の後を追う。扉を開け、足から腰、胸にかけゆったりと熱を伝え、最後にえいやっと一気に中に飛び込んだ。
「あーー、温泉、最っ高!!」
2人の声が重なって響いた。
車に乗っている時間が長かったため、伸びをする。体の隅々まで熱が行き渡り、ほうっとため息がこぼれる。
湯船に入った瞬間の、この開放感は他では味わえない。硫黄の香りも、湯の花も、全てが心地よかった。
群馬県は全国でも有数の温泉地である。中でも、草津温泉は有名だ。地理に疎い私ですら、名前だけは知っていた。
「草津よいとこ 一度はおいで」という言葉に惹かれ、大学に入るとさっそく友人と訪れた。そして、その雰囲気にすっかりハマってしまった。
住んでいる市より、車で数時間。観光地なので土日は混んでいたため、空いている平日の夜に来ることが多かった。
嫌な事があったら、温泉でリフレッシュしよう。いつしかそれが当たり前になり、数ヶ月に一度訪れているのだった。
草津温泉には大きな湯畑がある。
深夜でもライトアップされ、ぼんやりと光が揺らめく中、お湯が流れていく様はとても美しい。その様子を見ながら、足湯に入ることも出来る。
湯畑の周囲には、無料で入れる浴場がいくつかあった。今でこそ、スマートフォンで情報は簡単に手に入るが、私が学生だった当時は口コミか地元のガイドマップでしか場所がわからず、苦労して探した。あちこち彷徨い、『回復の泉』を見つけた時の達成感はひとしおだった。
通ううちに知った事だが、湯畑に近いほど浴場の湯温は高く、肌が真っ赤になる所もある。また、草津は強酸性の硫黄泉なので、アクセサリー類は外さないとたちまち変色してしまう。注意は必要だが、それも味の1つだった。
深夜は地元の方の入浴率が高く、交流も楽しみの1つだった。温泉に毎日入っているから元気なのだ、と笑うおばあさんたち。「あたしゃーそこの角で中華料理屋やってるからさ、湯で会いましたよね! って言って話しかけてくれればサービスするよ」と言ってくれるおばさん。初対面でも、風呂という開放的な空間で会えば、隠すものもなくもはや友達のようだ。同性同士、ワイワイと盛り上がるのが常だった。
夜中はもちろん、お店は閉まっており道は暗い。けれどその時間に来るのはただ、お風呂を楽しみたかったからだった。
のぼせないように気をつけながらあたたまり、いくつかの浴場を回る。数件回った後には体が芯からあたたまり、ポカポカしていた。顔が火照っているのがわかる。
温泉街の向こうから、朝日が少しずつ顔を出そうとしていた。暗かったダンジョンに日光が差すと、日常の色に塗り替えられつつあった。
「少しはスッキリできた?」
友人に問いかける。
彼女は携帯電話を見ながら、上の空で返事をした。
あれ、と思い顔を見つめると、来る時とは大違いの輝く笑顔で彼女は答えた。
「浮気してたのは誤解だって……。夜中なのにわざわざ心配してくれて、メールが何通も来てた。だから、彼がそういうなら、今回は信じてみようかなって」
私から見るとその選択は到底お勧めできないが、楽しそうに返信している姿を見ると、とてもそうは言えなかった。
お医者さんでも 草津の湯でも ほれた病は 治りゃせぬよ
「草津節」の一節が頭を過ぎる。
ほれた病にはやっぱり、どんなに熱いお湯も、苦言という薬も効かないようだった。
***
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