ふるさとグランプリ

夜空を歩く、西荻窪の守り神《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:千代子(ライティング・ゼミ)

たいそう冷え込んだ、真夜中のお話。

ふと見上げた空に、私は動くものを発見した。
真っ暗闇の中、何かが、真っ直ぐ、一定のリズムで歩いている。
おしりを左右に振りながら、ちょっぴりセクシーに、前へ、前へ、進む。

周りには人がいない。
時たま自転車に乗ったおじさんが通りかかっても、その生きものには気が付かないようだ。
私にしか見えない特別なものを見つけた気がして、目が離せなくなった。

暗くてシルエットしかわからないけれど、その姿は猫にも似ている。
はて、空飛ぶ猫……? 小型のねこバスだったらどうしよう!
はたまた、文福茶釜(ぶんぶくちゃがま)の狸だろうか。
メイとサツキがトトロに出会った時のBGMが、頭の中で再生される。どきどき、わくわく。
もしかしたら、西荻窪の守り神かもしれない。

そんなことを考えながら上を向いて歩いていると、私は何かに激突した。
じんじんと痛む鼻を抑えながら、もう一度空を見上げると、あいつは器用に「ツナギメ」を乗り越え、またモデルウォークで前進している。

やっと、電線を渡っていることに気が付いたその時。
頭上の生きものは回れ右をして人家の塀の中へ姿を消してしまった。
電線が右に分岐していて、塀の中にのびている。
しばらくその場で様子をうかがっていたけれど、二度と姿を見せることはなかった。

家に帰って調べてみると、その正体は簡単に突き止められてしまった。
目と目の間に白いラインが入っているがために白鼻芯(ハクビシン)と命名された動物だった。
(白尾神であってほしかったけれど、どうやらしっぽは白くない。)
木登りが得意で、夜行性の雑食。
ブタとネズミとリスと狸をあわせたような、お茶目な顔をしている。

未だに在来種か外来種かもわかっていないらしい。
毛皮用に中国から輸入され野生化したという説や、それ以前の古文書や蒔絵に姿が記録されていることから元々自然分布していたとする説があるようだけれど。
杉並区や中野区でハクビシンを目撃する声が多く、専門の研究者まで存在している。
昔からずっとこの地に存在したのに、猫や狸ほど多くの人に認識されているわけでもなく、だいたいの目撃者は「闇を駆け抜ける姿」に驚き、インターネットや図鑑でその正体を知るのだ。

存在を認識されずににひっそりと生きる暮らし方が、なんだか西荻窪の街みたいだ。
西荻窪は、今でこそ『住みたい街ナンバーワン』なんて言われるけれど、少し前は隣駅の吉祥寺のおまけみたいな認識だった。古い喫茶店や居酒屋は以前からたくさんあったのに、若い人がデートに使いたがるおしゃれなカフェや、テレビ映えする陽気なバーとして紹介され出したのは、最近のことだ。
西荻窪を特集している雑誌を見ると、プロのカメラマンが撮った、いかにもおしゃれな街の風景が切りとられている。ほの暗い中、生の演奏を聴きながら食事ができるネパールカフェ、石釜で焼いているクリスピーピザが食べられるイタリアンバール、週や月単位で展示の変わるギャラリー、エトセトラ。フォトジェニックな食と景色が並び、まるで異国のようだ。

でも。
西荻窪の魅力って、そんなおしゃれさだけじゃない。
駅から少し離れると、骨董や古い着物、古本、古道具を売っている店がひしめいている。
新しさや珍しさではなく、ずっと昔から受け継いできた人の温かさ、良い品、記憶こそ、この街の魅力だと私は思う。
最近になって盛り上がってきたんじゃなくて、昔からここにある、素敵な西荻窪を、ちゃんと知ってほしい。

西荻窪には、骨董市や骨董屋、リサイクルショップの類がたくさん存在する。
家具や家電、日用雑貨、服や靴に至るまで、中古品をリユースすることを街全体で受け入れている。
誰かが大切に使っていたものを、これからは私が大事に使おうと思って引き継ぐのだ。
「新品がいい」という気持ちもわかるけれど、家族のお下がりをもらうような気持ちに街全体でなっていると思うと、なんだかあったかくて、優しい気持ちになる。

骨董屋や骨董市と言っても、そこにあるのはお宝鑑定団に鑑定を依頼するようなお宝ではない。
明治時代や大正時代に作られて大切に使われてきたお皿や、おばあちゃんが若い頃に使っていたスカーフや着物の帯、デッドストックのアクセサリーなど、誰かの宝物が並んでいる。
その中からどれかひとつを、私の宝物として引き継げるように手渡す役目を担っているのだ。

私の部屋にある年季の入ったちゃぶ台も、西荻窪で手に入れた。
「そんな中古品……」と言われてしまうこともあるけれど、一人暮らしを始めた頃のがらんどうの部屋は寂しくて、少しでも人のぬくもりが残っているものを手元に置きたかったのだ。

西荻窪は、流行に乗ったおしゃれな街になったのではない。
古き良きを大切にするこの街の生き方は、大昔から引き継がれてきた。
これまでに受け継がれてきた西荻窪の暮らし方を、私はこれからもハクビシンと共に紡いでいきたい。

*『西荻窪観光手帳』を発行している『西荻窪案内所』のロゴマークには、守り神『ハクビシン』が描かれている。
西荻窪では、守り神としてずーっと昔から認識されていたらしい。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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