メディアグランプリ

ライティングで引き出された、わずか5文字の威力


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田盛稚佳子(ライティング実践教室)
 
 
エントリーシート。
就職活動の経験がある方ならば、一度は目にしたことがあるだろう。
まさか46歳で、改めてこれを書くとは思っていなかった。
10月初旬、派遣先の上司に声をかけられたのだ。
「今後、直雇用という道もあるんですが、どうですか?」
そのためには必要書類を出し、筆記試験と面接を受ける必要があるのだという。
今の仕事は秘書と庶務だが、仕事内容も職場の人間関係にも満足している状況だった。
だから、その話を聞いた時は派遣社員のままでもいいなと思っていたのだが、考えを巡らせていくうちに徐々に気持ちの変化が現れた。
万が一失敗しても、ライティング課題のネタになるんじゃない? と思ったのだ。
採用する側からすれば「なに? そんな不純な動機で受けたのか?」と怒られそうだが、私は嘘がつけない性格なのである。せっかくのチャンスだと受けることにした。
 
そしていざ、空白のエントリーシートなるものを見て、私は思った。
「うわ、こんなに文字数少なくていいんだ!」
採用関連の質問については守秘義務によりここでは書けないが、ごく一般的な「志望動機」や「自己PR」など、どれも文字数制限が300字程度だったのである。
おそらく今までの私であれば、
「えーっ。300字って何を書こう。書きたいことがまとまらない」
と右往左往しながら、1枚仕上げるのに数日はかかっていたに違いない。
ところが、ライティングゼミを受け始めて2年が経過しようとしている今、文字数の捉え方が変わっていたのである。300字、少ない……。
通常、ライティングゼミでは毎週2,000字、ライターズ倶楽部では毎週5,000字、さらに天狼院書店ホームページの「WEBリーディングライフ」に連載も持っている時は、通常の課題に加えて3,000字程度の原稿を書く。
他のゼミ生もそうだが、月曜から金曜までフルタイムで仕事をしながら書くのだから、ライティングに充てる時間もエネルギーも必要になる。
 
おそらく以前、受講した「時間術講座」の成果もあったのだろう。
通勤時間を記事のネタを考える時間に充てるのと同様に「志望動機」や「自己PR」を頭の中で組み立て、ランチで空いた時間に文字にして推敲していった。
仕事は普通にしながらも、その裏側で「あの部分はもう少し平明にしたほうがいいな」と別の作業が動いているようなイメージで日々が過ぎた。
次第に自分の中で、こう書きたいという内容が明確になってきた。
 
そこで提出締切の数日前に、集中して書き上げることにした。
「すみません、今から1時間だけ会議室にこもって資料作ります!」
その日の仕事を早めに終わらせていたので、誰も私のことは気にせずに各自の業務に集中している。
よし! 今日の15時59分を課題締切だと思って書こう!
ノートパソコンを持ち込み、腕時計を左側に置く。ストップウォッチ代わりだ。
よーい、スタート!!
カタカタカタカタ、タンッ! カチカチッ。
広い会議室に私のタイピングの音だけが響く。
書く内容はもう頭の中に入っている。それをただトレースしていくように打ち込むだけだ。
集中しているせいか、課題提出の時より熱を帯びているのがわかった。
文字変換や言い回し、文字数がオーバーしていないかを確認して、ふと腕時計を見ると15時50分。できた! とほっと胸をなでおろした。
 
無事に必要書類を提出し、筆記試験と面接は3週間後だった。
仕事をいつものように粛々と進め、当日は心身共にに準備万端で臨もうと意気込んでいた。
ところがである。
当日の1週間前から胃腸の具合がすこぶる悪い。食欲がなく、吐き気もする。消化のよいものを食べてもすぐにお腹をこわすほどだった。薬を服用しても全く改善の兆しが見えない。
それに加えて試験の2日前、ある社員からの一言に呆然としたのである。
ちょうど秘書の仕事について話していたところ、
「そもそも、あなた秘書っていうほど秘書らしい仕事していないでしょ」
ショックだった。
本人は何気なく言っただけかもしれない。
しかし、秘書経験ゼロの私が努力してきた2年間を、思いきり蹴とばされた気持ちになった。
私の2年間って何だったの……? 心身ともに打ち砕かれた私はトイレで号泣した。
いっそのこと筆記試験も面接も辞退しようかと思った。
しかし、せっかく推薦してくれた上司の顔を潰すわけにはいかなかった。
 
そして当日。筆記試験はお世辞にもいいと思えない出来だったので、面接で挽回することにした。
面接会場に入ると、不思議と和やかな雰囲気だった。想像していたのとかなり違ったのだ。
仕事内容を聞かれると思い、想定問答を用意していたのだが、ほとんど聞かれなかった。
「仕事内容はエントリーシートで理解できました。それよりも……」
と、ライティングについて面接官が食い気味で聞いてくるのである。
具体的にどういうものなのか、どういう内容を書いているのか、等々。
その説明ならお手の物だと言わんばかりに、饒舌に話せてしまう自分がおかしかった。
「個人的にもっと深掘りして聞いてみたいです」と相手に言わせることができた。
そして、最後に聞かれた。
「どうして、仕事をしながらでもそんなに頑張れるんですか?」
私は笑顔で答えた。
「職種は違えど、各地にゼミの仲間がいるからです。何かを始めることに年齢は関係ないって思わせてくれるからです」
「それはいいことですね」
終わってから、話し過ぎたかなと思った。でも、これで不合格でも後悔はないとも思った。
 
そして、その2週間後。
私を推薦してくれた上司から、1枚の書類を手渡された。
「おめでとう」
わずか5文字がこんなに嬉しいなんて……。思わず、目頭がじわりと熱くなった瞬間だった。
 
 
 
 
***
 
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2022-12-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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