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カメはかすがい


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記事:溝口弘子(ライティング・ゼミ2月コース)
 
 
先日、我が家で長年飼っていたミドリガメのカメ吉(カメキチ)が天寿を全うした。
22歳だった。
 
カメは30年くらい生きると聞いていたので一緒の生活がもっと続くと思っていたが、2023年4月初旬、我が家の庭にあるレンガ作りのカメ吉専用プールの中で動かなくなっていたのを夫が発見した。
今は空になったプールを見ると「別れって本当に突然だなあ」と思いながら、カメ吉との思い出が浮かんでくる。
 
カメ吉が我が家に来たのは息子が5歳のころ。
最初は手のひらをコソコソと動き回るくらいのかわいい大きさで、息子も手にのせて喜んで話しかけていた。ポッキーの10分の1くらいの長さの緑色のカメ用のエサを指に持ってカメ吉に近づけると、じわ~っと寄ってきてパクっと食べる姿がかわいかった。
 
名前をつける時、家族3人の意見が合わずにとうとう3人それぞれが1匹のカメに向かって夫は「カメ吉」、私は「カメゾウ」、息子は「シールド」と、バラバラの名前で呼ぶという暴挙に出た時もあった。
(息子が大学進学で家を出たあと、なんとなく夫の発案の「カメ吉」に落ち着いた)
 
飼い始めた時はテラスハウス式のマンション住まいだったので、大きなプランターに水を入れてベランダで飼っていた。
エサやりやプランターの掃除は主に夫と息子がやっていた。
カメ吉はカメ吉で人の違いが多少分かり、よく世話をする夫が近づくと水面から顔を出すが、私が近づいてもシカトだった。そんな平凡な日々の中、カメ吉はすくすくと成長していった。
毎年しっかりちゃんと脱皮して破竹の勢いで成長していった。
 
気がつけばカメ吉の甲羅は直径10cmほどになり子供の頃のあどけなさはどこへやら。
「ああ、ガメラってこんな形相よね」と思わせる大人になっていた。
 
カメは、吠えない。尻尾で感情が分かるわけではない。毛が抜けるわけでもない。散歩の必要もないし、よくよく考えたら手間はかからない方かもしれない。
ただ、カメ吉は巨大化していった。甲羅の直径は15cmくらいなったと思う。
 
今の一軒家に引っ越す時、設計士さんが「カメを飼っているなら」と庭の一角を掘ってカメ吉専用の1m正方形のレンガ作りのプールを作ってくれた。専用プールまで手に入れるとはさすがカメは強運だと思った。
冬になれば、水をはったそのプールで冬眠し、気候が暖かくなれば水面に顔をニュっとだして春を教えてくれた。
 
社会人になった息子も帰省のたびにプールのそばにしゃがんで「相変わらずデカい」と言いながらカメ吉を眺めていた。
 
新築祝いで遊びにきた友人たちはカメ吉の大きさに驚きの声を上げながらも甲羅をなでたりする者もいた。カメ吉はされるがままだった。
 
そんな人間慣れしてしまったカメ吉のズッシリビッグボディは、いつも水中に沈んでたゆたっていたのに、今年の春はピクリともせずに水面に浮いていた。命って重いのだ、と改めて感じた。
 
夫が市内の動物霊園に電話をして、翌日カメ吉をバスタオルにくるんで持っていった。
カメ吉の葬儀の日は平日で私は仕事で行けなかったので、夫が葬儀の様子を教えてくれた。
人間と同じように大きな祭壇があり、白いレースの布団をかけられた動かないカメ吉にお焼香をしてその後敷地内の火葬場へ見送ったとのこと。
 
係の若い男性と話していて「22歳だったんですか。僕より年上ですね」の一言にちょっとほっこりしたこと。
四十九日までは、24時間好きな時にお参りに来て良いとのこと。動物霊園って手厚い。
 
中でも我が家が驚いたのは、葬儀費用。
動物の大きさで費用は異なるらしく、夫は「小鳥と同じくらいの費用かな」と思っていたらしいがそこは巨大化したカメ吉のこと、思っていたより倍の子犬と同じ費用がかかったらしい。
よく食べたもんなあ、カメ吉。
 
次の休みの日に夫と動物霊園へお参りへ行った。
そこにはたくさんの動物(主に犬と猫)の骨壺があった。写真をつけているものもあった。
調べてみると、動物霊園という職業は昭和20年代からあったらしい。もしこの空前のペットブームを予感していたらその経営者すごい。
 
納骨堂で「溝口カメ吉」と書かれたシールが貼ってある手のひらサイズの白い骨壺に手を合わせると、改めてなんとも言えないじんわりとした気持ちになった。納骨堂を出る時に「今までありがとね、バイバイ」と小さく手を振って動物霊園をあとにした。
 
その後、骨壺の写真を家族のグループチャットに送った。
息子からは「葬儀ありがとう。ところでカメの名前はシールドじゃなかったっけ」と返信があったが、すっとぼけた。
「ペットは家族」と改めて意識するというよりも「なんだか一定の距離感でいつもそこにいる」不思議な存在だったカメ吉との22年間だった。
 
先日まで「ゴールデンウィークは仕事で帰ってこれない」と言っていた息子が急にゴールデンウィーク後半の数日間、帰省すると連絡がきた。
もしや、カメ吉のお参りのための帰省?
そんな事をドンズバで聞くと照れながら怒るので聞かないけれど、そうかもな。
 
「子はかすがい」と言うけれど、カメ吉も我が家のかすがいであることはまちがいなかった。
 
 
 
 
***
 
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2023-04-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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