メディアグランプリ

失敗を責めるということ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Chikako(ライティング・ゼミ6月コース)
 
 
朝から晴れ渡って、絶好のドライブ日和。かねてから行きたかったイベントが、お隣富山県で開催されるので、夫と連れだって出かけた。イベントの詳細をよく知らないのに、とにかく行きたい衝動に駆られた。そんな私のあやふやな説明にも関わらず、運転手を買って出てくれた夫は、かなりお人好しだと言わざるを得ない。
 
ところがだ! イベント会場に着くと、がらんとして誰もいない。急いで検索してみると、なんと、なんと、開催は来週だったのだ。
 
1週間、間違えた!
 
穴があったら入りたいとは、まさにこのこと。日程の勘違い、こんな単純なミスをするなんて。だが夫は慌てず騒がず、「そうか、今日はやってないのか。じゃあ、県立美術館にでも行こう」と言う。
 
この人のこういうところに救われる。私は子どもの頃、ミスや失敗をすると激しく叱られた。そのせいか、失敗が怖くて絶対の勝率がなければ、なにもチャレンジしない大人になった。今でもおかしなミスを犯すと、きゅっと縮みあがってしまう、叱る人などもういないというのに。
 
15年くらい前、私はボヤを出しかけたことがある。塾で1日頑張った娘が、もうすぐ帰ってくる。きっとお腹も空いているだろうから、おやつにトウモロコシを茹でておこうと、鍋に水を張って火にかけた。ちょうどその時、当の娘からお迎え要請のコール。そのまま家を出てしまった。
 
鍋!…と気がついたのは、自宅から車で15分の塾に着いた時。大急ぎで娘をピックアップすると、ビュンビュン車を飛ばした。
 
ヤバい、ヤバい、ヤバい! 火事になったらどうしよう。
 
普段、火の始末には人一倍神経を使ってきたのに、今日に限ってなぜ? だけど普段は関係ない、この1回が取り返しのつかないミスなのだ。早く帰らなくてはという焦りと、事故を起こしてはいけないというギリギリの冷静さ、二つの気持ちに引き裂かれ、心臓は早鐘のように打っていた。
 
自宅に着き玄関ドアを開けると、家の中には煙が立ちこめていた。そして、そこに夫の姿があった。一足先に帰宅した夫が、煙に驚いて鍋の火を消したので、幸い大事には至らなかった。焦げ付いた鍋、炭化したトウモロコシ、興奮して吠えまくる愛犬。本当に大惨事の一歩手前だった。
 
その時、私が一番に感じたのは、火事にならなくてよかったという安堵ではなく、夫に怒られるという恐怖だった。
 
どう考えても、これはおかしい。叱責を受けることのほうが、火事を出すことよりも怖く感じるなんて。だが身に染みついた条件反射が、私の思考を狂わせた。これが醤油差しを倒しただけで、ガミガミ叱られたり、叩かれたりした子どものなれの果てだ。そんな些細な失敗のため、一晩外に出されたこともあった。
 
失敗を責めることは、宿題の答えを写すことに似ている。自分で問題を考えることなく、とにかく回答欄を埋めて宿題が終われば、それで良しとする。もちろん自分の学びにはならない。ミスを責め立てれば、相手は萎縮して、本当に必要な反省や今後の改善に目を向けられない。学びと反省、つまりどちらも大事なポイントが抜けてしまう。
 
子どもに躾は必要だ。だが冷静な躾と感情的に怒ることは、似て非なるもの。わざとやったのではない失敗を、執拗に責めてはいけない。アンガーコントロールができない大人が、立場的に弱い子どもをサンドバッグ代わりにしてはいけない。原因を究明し、「次は同じ失敗をしないように気をつけようね」くらいでいいのだ。失敗した本人が一番「しまった……」と思っているのだから、わざわざ塩を塗り込む必要はない。
 
煙の臭いが残るキッチンで、夫は私を怒鳴りつけなかった。なんでこんなことになったのか私の説明を聞き、家を出る時はガス台をダブルチェックすることを約束させた。
 
「危なかったな。気をつけろよ」
 
なんとそれで終わったのだ。どんな激しい叱責よりも、これは効いた。私はその時、絶対に絶対に絶対にボヤを出さないと心に誓い、外出の際の火の元チェックは、家族がうんざりするほど慎重になった。
 
今でもなにかミスを犯すと凹む。だけど人は失敗をする生き物で、どんなに気をつけていても、誰でもミスはすることを、もう知っている。その認識があれば、自分のミスを、あ~、またやっちまったと苦笑い程度で受け入れることができるし、なにより他人の失敗に寛容になれる。誰かが失敗した時も、相手を責めることではなく、どうフォローできるかにエネルギーを向けられるようになるのだ。そっちのほうが断然建設的だし、全体としての傷も浅くてすむと思う。
 
起こってしまったミスは、それが故意では無い限り、責めるものではなく、フォローしあうもの、私はそんな共通認識のある職場で働きたいし、そんな社会で暮らしたい。
 
 
 
 
***
 
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2023-06-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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