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プロフェッショナル・ゼミ

社会貢献よりもお金が大事《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高橋和之 (プロフェッショナル・ゼミ)

「今シーズンはインフルエンザの流行が早いようです。去年に比べて今月の売り上げがいいです」
「よし、ガンガン売ってこい」

隣の営業部門から声が聞こえる。
私が働いているのは医療機器の会社。
インフルエンザを5分で診断するキットも売っている。
今シーズンはインフルエンザのピークが去年よりも早いため、患者数が増えており、インフルエンザの診断キットも売り上げがよいようだ。

人の健康に貢献しているとはいえ、不健康な人が増えると医療機器の売り上げが上がる。
少し複雑な会社で働いているなと思ってしまう。

私の仕事は、新しい医療機器を日本市場に販売するための許可をとること。
医療機器を日本で販売するには、事前に厚生労働省などの行政側の許可が必要となるからである。

医療機器と言っても様々なものがある。
健康診断の時に、胸部の写真を撮るために使うレントゲン、血液検査の時に採取した血液を保管する細い採血管。
身近な例でいうと、コンタクトレンズも医療機器だ。
しかし、眼鏡は目の中に入れるものではないので違う。

他にも、血圧計やマッサージ器、一家に一つはある体温計も該当する。
ついでにいうと、夜の営みに使うカタカナ5文字のゴム製品も医療機器である。
お世話になっている人も結構いるだろう。

ざっくり定義すると、医療機器は人の病気の治療や予防、診断に使う機械や器具のことである。

これから、営業部門の橋本さんと、新しい医療機器の導入についての会議がある。
今日はどんな新しい医療機器の話になるのだろうかと、期待をしながら会議室へ向かう。
部屋に着き、橋本さんと挨拶をする。
部屋には二人だけがいる。

「この新製品オーファンはすごいのですよ、入院中の患者様の健康を促進することができます」
橋本さんが新製品オーファンについて、興奮気味に説明をした。
「確かに、すごい製品ですね」
説明を聞きながら、非常に斬新なものであることが分かり、私も興奮してきた。

「オーファンを1年後に市場に出したいのだけど、可能ですか?」
橋本さんは質問してきた。
「製造元からの情報入手に2ヶ月、書類作成に2ヶ月、行政とのやり取りで8ヶ月、時間的には可能です。ただ、今まで市場にない製品ですので、やり取りは1年以上かかるかもしれません。トータルで1年半くらい見た方がよいかもしれません」
「分かりました、1年後でなくてもいいので市場に出す許可をとっていただけますか?」
「大丈夫です。ところで、どれくらい売れるのですか?」
「正直なところ、ニッチな製品なのであまり売れないと思います。数千万円位でしょうか。でも、この製品は今まで市場にない製品です。ですので、社会貢献の意味も込めて売り上げは度外視で市場に販売したいのです!」
「分かりました、必ず市場に出しましょう!」
「ありがとうございます!」
橋本さんは笑顔でお礼を言っていた。
オーファンに対する思い入れがとてもあるようだった。

自分としても新しい製品を世の中に出す、これまで誰も行ったことのない仕事をすることにやりがいはある。
だが、この仕事はあまり売り上げに結びつかない。

ニッチな製品を販売し、数少ない患者様の役に立つということも大切であるが、会社としては売り上げを出し続けなければならない。

売上をとるか、貢献をとるか。

医療機器の会社にとっては、永遠の命題のような気がする。

会社は売り上げを優先させることが多い。

この会議の結果を上司に伝え、優先順位が低いとはいえこの新製品オーファンを市場に出すことになった。
まずは、行政に提出する情報を製造元からもらうところからはじまる。

オーファンについての製品の原材料情報や、使用期限、図面など、色々な情報を製造元に請求する。
製造元との細かいやり取りの結果、予定通り2ヶ月で必要な情報がそろった。

「高橋さん、書類の作成は順調ですか?」
橋本さんが進捗を気にして質問をしてきた。
「順調ですよ、今のところは。これから書類作成に入ります。大体2ヶ月後には提出します。そこから約8ヶ月で許可がもらえると思います」
「ありがとうございます、引き続きお願いします」
嬉しそうに言いながら、橋本さんは何かを言いたそうな顔をしていた。

「どうしました、橋本さん? 何か追加でお話がありますか?」
「実は、また新しい製品がありまして、MONEという製品です」
「どんな製品ですか?」
「すでに競合が販売している製品ですが、少し安く、しかも品質が良いものを提供できそうなのです。正直なところ、うちが販売しなくても競合がいますが、安いからお客がついて売り上げになるだろうとのことで、営業部門としてはラインナップに加えたいのです。これも販売許可を行政からとっていただけますか?」
「大丈夫ですよ、既存品があるのであれば1年位になると思います。オーファンより時間はかからないと思います」
「来週上司と打ち合わせて、正式にMONEについても依頼をすると思います」
「分かりました、今のところはオーファンの準備を進めておきますね」
「ありがとうございます」

オーファンの準備は順調に進み1ヶ月ほどで書類は作成できた。
しかし、MONEについては、橋本さんから連絡がなかった。

「明日、オーファンについての書類を行政に提出します」
書類の準備が終わったので、行政へ書類を提出することを上司に伝えた。
「お疲れ様、8ヶ月の行政とのやり取り頑張ってね」
上司は嬉しそうに明るく回答してくれた。

行政への書類の提出は、マラソン大会で言うなら、

「よーい、スタート!」

のピストルが鳴るところである。
データの取得や書類の作成はいわば、マラソンに向けての準備期間なのだ。
本番はこれからである。

なぜなら、行政が製品についての質問をたくさんしてきて時間がかかるからである。
そして何より、行政からの質問がとても細かい。
製品の性能から、この製品を日本で販売する意義が本当にあるのか、なんてことも聞いてくる。
8ヶ月というのは平均的な期間である。
運がよければ6ヶ月で終わることもあるが、やり取りにてこずると1年以上かかることもある。

行政は、新製品を日本で販売してもよいのか、製品の安全性や有効性について念入りに確認をする。
場合によっては、許可を出してくれないこともある。
医療機器の使用法を間違えることによって、人の健康を損なう副作用が起きる場合もあるから、行政が慎重になるのは無理もない。

ピストルが鳴った日、つまりはオーファンについての書類提出を終えた日、橋本さんが私の席までやってきた。
「オーファンの提出ありがとうございます。許可を得るまで引き続きよろしくお願いします」
「ええ、頑張ります。ところで、MONEの件はどうなりましたか?」
「それですが、こちらも準備をお願いできますか? できるなら、オーファンよりも優先順位を上げて下さい。お金になるので」
「分かりました、今のところオーファンが先に許可を得られると思います」
「分かっています。でも、MONEを急いでいただけると嬉しいです」
「お金になりますからね」
「本当は、オーファンに力を入れたいのですが、売り上げを上司に話したらMONE重視だと言われたので」
そう言って、橋本さんはうつむいた。
その声には元気がなかった。

お金になるものを優先する、会社としては無理もない。
だが、売上優先の仕事になると、少しだけ切なくなってしまう時がある。
売り上げにはあまりならないが、今まで市場になく患者様の役に立つようなオーファンのような製品を市場に出すことの意義を、橋本さんから聞いて感動していたからである。
売り上げに貢献できること自体嬉しいことなのだが。

MONEについての準備は順調に進み、行政に書類を提出することができた。
そして、オーファンと同じく行政とのやり取りが始まった。

MONEも提出をした旨を橋本さんに伝えた。
「高橋さん、MONEの提出ありがとうございました。ところで、オーファンの進捗はどうですか?」
「正直なところ、時間がかかっています。やはり今まで市場にない製品ですので、行政側の質問が多いし厳しいですね。MONEと同じタイミングで許可が出るかもしれません」
「なるほど、無理はないですね。本当のところ、早くオーファンを市場に出したいのですが、会社としてはMONEの許可を早くとる方が優先です。だから、オーファンが遅い分には気にしないと思います」
「なるほど、どちらも急げるだけ急ぎます」
「ありがとうございます、オーファンまだかなぁ」
橋本さんはオーファンの市場への導入が待ち遠しそうだった。

オーファンを行政に提出してから1年後、日本で販売をする許可を得ることができた。
同じ日にMONEについても許可が下りた。
2製品同時にゴールテープを切ることができた。

後は、営業部門に販売してもらうだけである。

「橋本さん、オーファンもMONEも日本で販売できるようになりましたよ!」
橋本さんの席へ直接報告に行った。
「ありがとうございます!! さっそく販売できるよう宣伝をします。特にMONEの方は嬉しいですね」
「そういえば、橋本さん。最初はオーファンの販売にとても意欲的だったと思いますが、最近はMONEばかり気をかけてませんか?」
「そうですね。本当は、私もオーファンに力を入れたいところなのですが、やはり会社としては売り上げ重視だと上司に怒られてしまいまして」
「そうですか」
「それで、今回同時に許可が取れましたが、やはりMONEメインで販売を開始すると思います。両方とも許可をとる仕事をしてくれた高橋さんには申し訳ないのですが」
「いえいえ、お気になさらず。私にできることはこれまでですので、販売頑張って下さい」
「ありがとうございます」
橋本さんは、嬉しそうに、でも少しだけ悲しそうな顔をしていた。

「やっぱり会社としては、利益優先になるんだよな」
そう、独り言をつぶやきながら、自販機でコーヒーを買い自席に戻った。
コーヒー缶には、甘さMAXと書いてあったが、そこまで甘いようには思えなかった。

少しして、上司が席にやってきた。
「MONEとオーファンの許可取得、おめでとうございました」
「ありがとうございます」
嬉しいが、橋本さんにつられて少しだけ悲しい気持ちになる。

「なんかあまり嬉しそうじゃないね?」
「いや、嬉しいですよ。長い戦いが終わりましたし。ただ、オーファンはあまり販売しないと聞いたので残念に思いまして」
そういいながら、橋本さんのオーファンへの情熱と売り上げにならないことについての経緯を説明した。

すると、上司は大笑いをした。
「なんで笑うんですか?」
少し怒りながら上司へ言った。
「申し訳ない、橋本さん勘違いをしているね」
「勘違い?」
「会社だから売り上げを出さないといけないことは分かるよね」
「当然です」
「売り上げを出さないと会社はどうなる?」
「潰れます」
「その通り」
何を当たり前のことを言ってるんだこの上司は。
少しあきれ気味に答えた。

「問題はその先、会社がつぶれるとどうなる?」
「我々の仕事がなくなります」
「そうだね、それ以外は?」
「うーん、なんでしょう?」
「既存のお客様、患者様に対して迷惑が掛かってしまうよね。製品を安定して供給できなくなるから」
「!!」
「今我々は、これから販売しようとするオーファンやMONEだけじゃなく、たくさんの製品を売っている。インフルエンザの診断キットもその一つだ。それを供給できなくなったら競合品があるとはいえ、既存のお客様、病院や患者様は品薄になって困るよね」
「そうですね」
「だからこそ売り上げは大事だ。お客様に安定して製品を出し続けるためにも、お金はたくさん稼がないといけない」

確かにそうだ、医療機器の品数が少なくなれば困るのはお客様と患者様だ。
だから、安定して供給を続けることが医療機器会社の大事な役割だ。

「それに、安い製品を市場に出すことは大きな意義がある。日本の医療費がかかりすぎている問題はもちろん知っているよね?」
「当たり前です、医療機器の会社で働いてますから」
「安い製品を市場に出すということは、お客様、患者様のためだけではなく、医療費の削減にもつながる。間接的に日本に貢献できるのだよ」
「確かに」
「橋本さんはこのあたりを考えていないようだね。他にも社会貢献の仕方はある。それに、インフルエンザの診断キットやMONEのような売れ筋の製品で、たくさん利益を出すことにより、オーファンのような売り上げにはあまりならない製品を売る余裕ができる。だから、売り上げを立てること自体が社会貢献なのだということを自覚しないと」
「社会貢献をするにはお金が大事なのですね」
「そうそう、継続的に貢献をするには、継続的に収入を得ないといけない。自分の収入がないのに社会貢献をすることは、美しいことかもしれないが、自己犠牲となるし、単発の行為にしかならない。本当に貢献をしたいと考えるなら継続させないと」
「ありがとうございます、ちょっと橋本さんの所に行って今の話をしてきます」
「いってらっしゃーい」
上司は笑いながら手を振っていた。

この話をしたら、橋本さんは元気になってくれるだろう。
きっと、MONEもオーファンも、両方とも情熱的に販売をしてくれるだろう。

私自身はお客様に直接販売をするわけではないから、売り上げに貢献はできない。
でも、橋本さんのような営業をサポートすることはできる。
橋本さんにたくさん売ってもらえば、その分社会貢献ができる。
私は間接的に世の中に貢献できる。
そのためにも、今は橋本さんを元気づけたいと思う。

そう思いながら、橋本さんの席へ駆け足で向かった。

駆け足で向かうこの一瞬も、社会に貢献できているのかもしれない。
なんて尊大なことを考えてしまい、自分にあきれて笑ってしまった。

注記
・インフルエンザの診断キットは、医療機器というカテゴリーでない場合もありますが、理解をしやすくするため医療機器としています。
・製品名や製品の特徴は仮です。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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