ふるさとグランプリ

悩んだときには、京都のアノ場所へ行けと言い伝えられていた。《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田中 洋輔(ライティング・ゼミ)

京都の大学へ入学してしばらく経った頃、教授からこんな話を聞いた。
「もし、しんどくなったら、あの場所へ行くといいよ」

4月当初は混んでいた教室も、日が経つにつれて次第に人数は減っていく。ゴールデンウィークを過ぎると、今まで席に座ることさえ困難で、外で食べていた学食も、空席が目立つようになっていた。

いわゆる、5月病というものなのだろう。だんだん、大学へ来なくなる人が増えていった。

僕も同じだった。

4月は、新入学ということもあり、張り切って学校へ通う。しかし、だんだん、しんどくなってくる。辛くなってくる。

出席が関係ない授業は、休みがちになり、次第に必修の授業も行かなくなっていった。

そんな時期だった。つかれたとき、しんどいときに行ったらいいよと、大学の裏にある寺の話を聞いたのは。

高校のとき、その寺は日本史の授業で習った。
資料集で見たことはあったし、何度もテストに出てきたこともある。

実家が大阪の僕は、まだまだ京都には慣れていなくって、どこもかしこも日本史で習ったことがあるところで、すごくワクワクしていた。

歩けば、知っている寺や神社がある。歴史的な場所(たとえば、坂本龍馬で有名な池田屋とか)もたくさんある。

そんな中の1つ、有名なお寺が、学校の裏手にあった。

ゴールデンウィークが過ぎ、学校の授業が再開したものの、僕はだんだん休みがちになっていった。

入学したときの興奮はとっくに冷めてしまい、「大学ってこんなにもおもしろくないのか……」と、幻滅していた。

7月下旬。
なんとかテストやレポートを終えて、夏休みをむかえた。

友人たちが楽しそうに夏休みの計画を立てる中、僕の心は沈んでいた。

この大学で得られるものはなにもない。
辞めよう……

「辞めようと思っている」と、両親に相談したのは、夏休みがはじまって間もなくの頃だった。

正直、行きたいと思って入った大学でもない。京都という土地に魅力はあれど、それほど大学への思い入れもない。辞めるなら早いほうがいい。

そんなことを話すと、「焦って決める必要はない。あと半年続けてみて、それから結論を出したらどう?」と、説得され、しぶしぶ学校を続けることにした。

モヤモヤしながら過ごした夏休みが終わり、秋学期が始まった。

授業へ行くこともなく、僕は、ただダラダラと家で過ごしていた。

そういえば……
春に聞いたあの寺のことを不意に思い出した。

行ってみるか……

重い腰をあげ、自転車で“きぬかけの路”を走る。“きぬかけの路”は、3つの世界遺産をつなぐ路だ。仁和寺、金閣寺。そして……

目当ては、庭だった。そこの庭が癒やしのスポットだという。

自転車を止め、少し登ったところに小さな山門があった。入場料を払い、中へ入る。寺内は思った以上に広かった。池を横目にグイグイ進む。参道を通り、石段を上がる。

「まだ着かないのか……」
そう思ったとき、目の前に見たことのある景色が飛び込んできた。
資料集に載っていた、あの庭だ。

縁側に腰をおろす。

水のない庭で、石や砂などによって山水の風景を表現する庭園様式。知識としては知っている。

でも、写真集で見たものとは全く違っていた。

景色は一緒。庭にある配置も変わっていないだろう。
なのに、見え方が違うのだ。

「なんだろう……」

すごく落ち着く。ほっとする。
あたたかくて、まるで温泉に来たような気分になった。

体から全ての疲れが流れていくような、浄化されているような気持ちになる。

木々のざわめき。不均等に並べられている石。
どれだけの時間いても飽きない。

しばらくの間、なにも考えず、ぼーっとする。

どれくらい時間がたっただろうか。

ふと、教授が言っていた言葉を思いだした。
「あそこは、気持ちによって見え方が変わるんだよ」

聞いたときは、「そんなハズないでしょ?」と思っていたけど、本物を目の当たりにした今、その言葉を信じている自分がいた。

「しんどいとき、うちの学校の生徒はあの石庭を見に行くんだ。あそこは、気持ちによって見え方が変わるみたいなんだ。同じだけど、同じじゃない。縁側に座って庭を見る。すると、自分自身とゆったりと対話することができるんだよ」

湯船に浸かると、リラックスして考え事ができる。疲れがとれる。お湯はないのに、ここはまるで温泉に入っているような、そんな感覚に陥る。ほっこりする。

「来てよかった……」と、心の底から思った。

学生時代、悩んだときは、何度も石庭へ足を伸ばした。その度に、僕の心は救われた。心の疲れがとれ、次の日からまたガンバることができた。前を向くことができた。

あの場所がなかったら、僕はきっと大学を卒業することができていなかっただろう。

温泉療養のように、石庭が僕の心をじんわり温めてくれた。心のモヤモヤを晴らしてくれた。

気がつけば、最後に行ってから10年近くがたつ。
また、久しぶりに行ってみようか。

今の僕には、龍安寺の石庭は、いったいどんなふうに見えるのだろうか?

***

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