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ふるさとグランプリ

私の、「あたらしいふるさと」《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:芽れんげ(ライティング・ゼミ)

その町と縁を持つようになったのは、ひょんなことからだった。

「ちょっと! 二年続けてセンター試験のこの点数。二次受ける大学、どうすんの」
自己採点を済ませた娘、二浪はないと言い渡す私の前でうな垂れる。
理想は高く、でも点数は伴わず、こんなに大学がたくさんある町に住んでいるというのに、娘の希望する学部のある大学は少なく、どこも高根の花だ。
「でもやっぱり、第一志望はあきらめられない」という娘。
「選ぶべきは、やりたいことができるところでしょ」と、偏差値表と点数分布を穴があくほど見比べて、「ここしかない」と決めたのは遠くの町にある大学だった。
地元を離れることなど考えていなかった娘。
この点数じゃ絶対無理、と言い放つ予備校の先生。
でも、やるしかなかった。

二次試験の前日。
娘と私は、生まれて初めて島根県に出かけた。
山陰であること、宍道湖があること、出雲大社があること。そうそう、シジミが美味しかったっけ。
二人とも、知っていることはそれくらいだった。
島根へは新幹線と在来線特急とを乗り継ぐお得な切符が発売されていて、岡山での乗り換えも迷わずうまくできた。
しかし特急やくもは最悪だった。振り子電車で山越えを繰り返し、中途半端に暑い暖房とあいまって、私たちはすぐに乗り物酔いに見舞われた。
京都から四時間。そのほとんどが特急やくもに載っている時間で、まるで修行のよう。
飛行機にすればよかった、ちょっと後悔した。
そして、こんな思いをして行かねばならない場所を選んだことにも、ちょっと後悔した。

松江につくと、冬の山陰では珍しいと言われるような青空が広がっていた。
ここまでの四時間の修行のことを、忘れさせるような清々しさ。
その空を見て、すぐに感じた。「この町にはきっとご縁がある」

「ちょっと勉強するから」と、殊勝なことを言う娘をホテルに残し、私は散策に出かけた。
映画Alwaysのモデルとなった一畑電車。
思っていたより大きく静かな宍道湖。
美しくそびえる松江城。
お城の堀からのびる水郷。そこに浮かぶ遊覧船。
京都より明らかに広い空。
半日も経たないうちに、私は松江がお気に入りになっていた。

四月。
入学式のために、私は再び特急やくもの車中の人となっていた。
今回は不思議とやくもの揺れが気にならない。駅に着いたら、と心だけは先に松江に飛んでいるからだろうか。
そして駅に降り立つと、なぜか帰ってきたという気持ちになっていた。
「ただいま、松江」

雪のちらつく二月とは違い、春の松江は京都では出会わなかった風景にあふれていた。
満開の桜に囲まれた天守閣。
大学のキャンパスに群生するツクシ。
雪の季節を越え、新芽を出す木が林立する大学実習林。
そして、娘の住む新しい部屋。
先に引っ越しを済ませていた娘が、晴れやかな顔で言った。
「ママ、わたしここでやっていけると思う。だって、天下一品があるから」

ああ。
なぜ「帰ってきた」という気持ちになったのかがわかった。
高層ビルとかが無い駅前の景色。
古い家屋を改装した店で手作りパンを売る、赤ちゃんをおぶったお母さん。
ほぼ碁盤の目に通る道。
道を聞くと、聞いていないことまで教えてくれるお年寄り。
和菓子の聖地と言われるほど美しいお菓子。
そして、京都北白川が本店のラーメン店「天下一品」
松江には、私の記憶の奥底にある「昔の京都」と「今の京都」のかけらが、あちこちにちりばめられていたのだ。
「住めば都だよ」
引っ越しして一週間も経たない娘が、得意そうに言う。
そりゃそうだ。
ここはあなたが生まれ育った町と同じににおいがするのだから。

そしてまた四月がやってくる。
島根で就職を決めた娘は、この春、本当の意味で島根の人となる。
数年前、あきらめなかった「やりたいこと」、そこからつながる仕事を、島根の地でやり続けるために。
生まれ育った地元を出て行き、新しい土地の人になり「ふるさと」を持つ。
娘にとっては、京都がふるさとになる。

私は、生まれてこの方京都を離れたことがない、ふるさとを持たない人だ。
幼友達の帰省もいつも迎える側で、「自分のふるさとへ帰省する」という経験がなかった。
遠くで暮らすことは寂しさもあるのだと思うが、帰る場所がある幼友達が羨ましく思っていた。
結婚したら、夫の田舎が私のふるさとになるのかな? と考えたこともあったけれど、やっぱりそうはなり得なかった。
私には帰る場所というのはできないんだなあ。そう思って過ごしてきただけに、ふるさとを持つことになった娘を少し羨ましく思った。

娘は島根の人となる。
そして、疲れたとき、羽根をのばしに帰ってくるのだろう。
旧友たちと集まっては、昔話に花を咲かせるだろう。
少し長いお休みがもらえた時には、ふるさとを満喫しに帰ってくるのだろう。

私も娘を通じて得たものがある。
ふるさとではないが、どこか懐かしい同じにおいがする町。
初めての時、「ご縁がある」と感じたのは、あながち外れてはいなかった。
少し長いお休みがもらえた時には、羽根を伸ばしに訪れよう。

松江。
帰省する場所を持たない私の、「あたらしいふるさと」

***

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