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ふるさとグランプリ

「昼は淑女、夜は娼婦」そんな桜に出逢える場所~京都・半木の道~《ふるさとグランプリ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:あやっぺ(ライティング・ゼミ)

「今日はどんなお色にしますか?」

「桜が咲く前に、木全体がふわっとピンク色に見えるような、そんな色にしてください」

行きつけの美容室で、私は担当のスタイリストMさんにそう告げた。

「うーん、わかるようなわからんような……。難しいなぁ」

そう言いながら、Mさんは私に色見本のファイルを差し出した。
私のイメージにピッタリな色は、なかなか見つからなかった。
しかし、諦めきれない私は、

「桜の花のピンクと、木の幹の茶色、そこにちょっと赤ワインのボルドーが入ったような。
そんな感じになるようにお願いします」

素人なりに何とかイメージを伝えるべく、思いつく限りの言葉を並べてリクエストした。

私は小さい頃から、髪が太くて多くて、しかも真っ黒なのがコンプレックスだった。
オギャーと生まれた瞬間から、まるでたわしのような剛毛だったらしい。
見かねた看護師さんが、病院内で散髪をしてくれたそうだ。
前代未聞のエピソードを持つ、伝説の赤ちゃんだったのだ。

小学生の頃、茶色くてふわふわした髪の友達がポニーテールをしているのが、うらやましくてたまらなかった。
私は、髪の量が多すぎて、高いところで一つにまとめるのは困難だった。いくら結び直しても、すぐに中途半端な位置にずり落ちてくる。何より、見た目がもう全然違うのだ。ポニーテールには似ても似つかない。その姿は、まるでオフィスで書類を綴じるのに使われる、あの黒い紐の束が頭からぶら下がっているようにしか見えないのだ。

どうして私はこんな剛毛に生まれてしまったのだろう。神様は、何て不公平なことをするんだ。
ヘアカタログを見ても、なりたい髪型に向いているのは、

髪質: 細い・やわらかい
髪のボリューム: 少ない~普通

と書かれているものばかり。
いくら憧れても、太くて、硬くて、量が多い私には無理な髪型だった。
10代後半からパーマは当てていたが、初めてカラーリングをしたのは、社会人になってからだった。
以来、できるだけ重く見えないように、髪色を明るくしていたものの、お気に入りの色にはなかなか出会えていなかった。

そろそろ、美容院の予約せなあかんなぁ。
桜の時期にはまだ少し早い、3月のある日。
半木(なからぎ)の道を歩きながら、私はふと思った。

京都人のオアシス・賀茂川の左岸、北山大橋から北大路橋にかけての遊歩道は、「半木(なからぎ)の道」と呼ばれる。
ここは府立植物園にほど近く、知る人ぞ知る、お花見スポット。
紅しだれが本当に見事だ。

・人ごみと無縁なので、空気が美味しい
・手で触れられるほどの近い距離で、桜の下をゆっくりと歩ける
・枝越しに、花越しに、賀茂川が見える
・借景までが素晴らしい(民家の洗濯物などがほとんど見えない)
・地下鉄の駅から徒歩圏内
・観覧無料

これだけの条件が全て揃うお花見スポットは、京都じゅうを探してもなかなか無い。
私は、誰が何と言おうと、ここで見る桜が京都で一番だと思っている。

あっ、そうや!
桜の開花前の、あの何とも言えない妖艶で愛らしいピンク色。
あんな風な色にしてもらいたいなぁ。

私は、確か中学校の国語の教科書に載っていた、染色家で人間国宝の志村ふくみさんのお話を思い出した。
志村さんが美しい桜色に染め上げた生地は、桜の花びらを煮詰めて取り出したのではなく、黒っぽくてごつごつとした桜の木の皮を煮詰めて取り出した色であるという内容は、とても意外なものだった。
さらに、その色は桜の開花直前の桜の木の皮からでなければ出ない、とても貴重な色なのだという。

桜の花のピンクは、表面にあらわれたほんの一部に過ぎず、桜は木全体で最高のピンクになろうとして、懸命に命を輝かせている。
花が咲いてからの見頃は短く、満開の時期はほんの一瞬だけれど。
もしかしたら、満開の桜を眺めるよりも、開花直前の桜の木全体を間近でじっと見るのが、桜の生命のエネルギーを最もたくさん浴びることができるのではないか。

「半木の道」の紅しだれの開花直前は、少し離れたところから眺めると、ハッとするくらい色っぽくて愛らしい、胸がきゅんとするような濃いピンク色に見える。

昼は淑女、夜は娼婦。
そんな女性が理想だという男性が多いと聞くが、「半木の道」の紅しだれは、まさにそんな桜かもしれないと思う。

昼間の太陽の光の下で見ると、健康的な美しさ。
夜の月明かりの下で見ると、妖艶な美しさ。
そんな二面性を持つ、キュートでセクシーな、色っぽくて愛らしい紅しだれ。
何て素敵なんだろう。

私も、「半木の道」の紅しだれのような女性になりたい!
そんな想いで、スタイリストのMさんにカラーリングの要望を伝えたのだった。

「できる限り、イメージに近づけるようがんばってみます」

Mさんはそう言って、いくつかのチューブを絞って、丁寧に色を混ぜた。
髪に塗布してからの時間も、今まで以上に細かく調整してくれているようだった。
カラーリングは何度もしているのに、私は初めての時よりもドキドキした。

カラーリングが終わり、洗い流して、ブローしてもらって。
大きな鏡の前に映る私の髪は、確かにピンクブラウンと赤ワインのボルドーが、光の当たり具合によって見え隠れする、「半木の道」の紅しだれを思わせる、イメージ通りの色だった。

髪は女の命。
髪質は簡単には変えられないけれど、色なら変えられる。
理想の女性に近づきたい一心で、私はいつも「半木の道」の開花直前の桜の木をイメージした色に染めてもらうよう、リクエストしている。

そろそろ、美容院に行かなきゃ。
「半木の道」の桜の木が、一年で一番美しい色に染まる季節が訪れる、その前に……。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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