メディアグランプリ

走ることは自分のためだけじゃない「応援ランナー」が教えてくれたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:小池恵美子(ライティング・ゼミ11月コース)
 
 
「あと少し、最後に楽しみましょう!」
 
ゴール前の激坂で声をかける。周りを走るランナーはみな苦しそうだ。私だって苦しい! 
 
ここにいるランナーは5時間の壁に挑戦し、何度も歩きそうになりながら、それでも足を前に出し続けた。
 
限界に近いはずなのに、私たち応援ランナーの声に励まされるように再び走り出すランナー、声援に無言でうなずきガッツポーズをするランナー。いろんなドラマがあった。
 
そしてゴール後。ひとりの女性が涙を浮かべながら駆け寄ってきた。
 
「みなさんのおかげで、初めて5時間を切ることができました! 本当にありがとうございます!」
 
彼女の喜びが、そのまま私の胸にも広がっていく。
 
走ることは、自分のためだけじゃない。誰かを応援することで、生まれるものがある。
 
このとき、私は初めて「走る意味」が変わったことを実感した。
 
私は、いわゆる「市民ランナー」だ。最初のフルマラソンでは「とにかく完走」が目標。そこから少しずつタイムが伸び、2年後には「サブ4」(4時間切り)を達成した。
 
でも、それでも満足できなかった。「次は3時間50分を切りたい」「もっと速く、もっと速く……」記録を追いかけるのは楽しい。けれど、ふと疑問が生まれた。
 
「一体、どこまで行けば満足するんだろう?」
 
「もっと速く、だけが正解なのか?」
 
そんなモヤモヤを抱えていたとき、私は「応援ランナー」という新しい役割を知った。
 
「応援ランナー」とは、自分のために走るのではなく、誰かの完走や目標達成をサポートしながら走るランナーのこと。
 
マラソンには、目標タイムごとに「ペーサー」と呼ばれる先導ランナーがいる。例えば、4時間以内(サブ4)を目指すなら、サブ4のペーサーについていけば、安定したペースで走れる。
 
でも、制限時間ギリギリで完走を目指すランナーには、ペーサーがつかないことが多い。
 
今回、ご縁があり湘南国際マラソンで4時間から6時間のランナーをサポートする応援ランナーをすることになった。私も5時間チームの一員として、総勢30人の応援ランナーと共に走ることになった。
 
この日の湘南は快晴。コース沿いの134号線からは富士山がくっきり見えた。最初は、周りのランナーも元気いっぱい。
「応援ランナーって何をするんですか?」と質問されたり、雑談をしたりしながら、にぎやかに進んでいく。
 
しかし、20kmを過ぎた頃から、状況が変わってきた。足をつるランナーが増え、歩き始める人が目立ち始める。無言になり、つらそうな表情を浮かべるランナーが増えてきた。
 
そりゃそうだ。フルマラソンの半分を超えた地点。一般の人からしたら「意味のわからない距離」を走ってきているのだから。
 
それでも、私たち応援ランナーはとにかく声をかけ続けた。
 
「ファイトー! ナイスランです!」
「もう半分過ぎましたよ! もうここまできた、私たち凄くないですか?」
「あと少し、楽しみましょう!」
 
すると、不思議なことが起こる。うなずいたり、ガッツポーズを返してくれたり、「応援ランナーについていきます!」と言ってくれる人が増えていった。
 
もちろん、中には「うるさいな」と思う人もいたかもしれない。
 
でも、私たちが声をかけたことで、一瞬でも苦しさを忘れられるなら、それでいい。
 
制限時間ギリギリで走るランナーは、心も体もボロボロだ。
 
「なんで走ってるんだろう……」
「なんでエントリーしちゃったんだろう……」
「もっと練習しておけばよかった……」
 
そんな後悔と闘いながら、それでも一歩ずつ前に進んでいる。そんなとき、応援ランナーが近づき、声をかける。
 
すると、不思議と止まっていた足が動き出すことがある。「走らなきゃ」という気持ちになるのかもしれない。
 
でも、私たちは無理に「走れ!」とは言わない。ただ、自分たちが楽しそうに走る姿を見せることで、「よし、もう少し頑張るか」と思ってもらえたら、それでいい。
 
最後の一歩を後押しする存在になれたらいいな。
 
5時間の道のりを終えてゴールしたとき、涙ながらに感謝を伝えてくれた女性ランナーがいた。
 
彼女の頑張りを間近で見守り、ほんの少しでも背中を押せたこと。それは、どんな記録を出したときよりも、心に響く経験だった。
 
そして、制限時間ギリギリのランナーたちをゴール手前で迎えたとき、私は驚いた。「優勝したランナーよりも、感動している自分がいる」
 
トップ選手の華やかなゴールも素晴らしい。でも、限界を超えて最後の一歩を踏み出すランナーたちの姿は、それ以上に胸を打つものだった。
 
きっとそれは他人事ではないから。
 
実は、私が初めて「サブ4」を達成したのも、この湘南国際マラソンだった。思い入れのあるこの大会で、新しいマラソンの楽しみ方に出会えたこと。まるで、湘南の風に呼ばれたような気がした。
 
「自分が走ることがすべてではない」
「誰かを応援することで生まれるものがある」
 
それを教えてくれた「応援ランナー」という経験。これからも、マイペースに楽しみながら走っていこうと思う。
 
そしていつか、また誰かの背中を押せるランナーになれたらいいな……
 
 
 
 
***

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2025-03-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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