ふるさとグランプリ

リア充高校にあこがれ続けてもいいですか?《ふるさとグランプリ》


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記事:かほり(ライティング・ゼミ日曜コース)

 

 

「開始まであと5、4、3、2、1!」

文化祭の開会直前、全校生徒によるカウントダウンが鳴り響いた。

 

中学1年の夏休み、私はある高校の文化祭に来ていた。

このとき私は、絶対ここで高校生活を送りたい!!! と思った。

 

奈良県北部、お城の跡地にある高校。

石垣や池に囲まれており、歴史ある雰囲気。

自然にも恵まれていて、春には桜並木が連なる。

部活もできて、勉強もできて、制服もかわいい。

奈良県民なら誰もが一度はあこがれると言っても過言ではない。

まさに、リア充高校。

何をしても器用で、彼氏彼女もいて、リアル(現実生活)が充実している。みんなのあこがれの的、「リア充」を学校に仕立て上げたらこんな感じだろう。

ここに入ったら、勉強も部活も恋愛もして、キラキラした生活が送れるんだろうな……中学生の私はそう思っていた。

 

 

でも、行けなかった。

 

 

中学3年の春、私は部活を辞めた。

引退目前にして。

 

吹奏楽部だった。

理由は、練習について行けなくなったとか、受験勉強に専念するため、とか言ったが、本当は、居心地が悪くなったから。友人との関係がこじれてしまったのである。

 

 

中学生の私はプライドが高かった。

自分が一番えらいと思っていた。本気で。

だから、「ここをこうした方がいいよ」って言われても、それを素直に聞き入れられなかった。先輩がいる間は、まだ素直に「はい」と返事をしていたものの、先輩が引退してから、同級生に指摘されるのが許せなかった。

例えば、「ピッチ(音程)が合ってない」と言われても、「自分も合ってへんやん」と思っていた。

「曲を合わせよう」と言われても、「そんな練習意味ないわ、それやったら個人練したいし」と思っていた。

思っていることを口にできたらまだよかった。しかし私はタチが悪いことに、思ってることを口にしなかった。

めっちゃ言い返されたらどうしよう、とか、喧嘩になったらめんどいな、とか思って、はっきりものを言えなかった。

 

たぶんムスッとした顔で部活に来ていたと思う。次第に休みがちになった。

徐々に潮が引いていくように、友人との関係も少しずつこじれていった。そして、気が付けば、友人との信頼関係はカラッカラに枯れてしまっていた。

 

 

私はめちゃくちゃ悔しかった。

純粋に最後まで部活を続けたかったから、ではない。

 

負けたと思ったから。

色紙とか花束とかもらって引退していく他の同級生に。

 

途中で辞めた根性無しと思われるのが、ものすごく嫌だった。

せめて、せめて受験だけは成功させよう、と思った。偏差値の高い高校に行くことを目標に、私は死にものぐるいで勉強した。

最後のコンクールに向けて、練習に行く友人を横目に、私は塾に行った。

 

部活を続けることができた同級生よりも、「いい高校」に行こうと決めた。絶対。

私は高校を、偏差値というものさしで測るようになった。

 

県で偏差値がトップレベルの高校を目指した。

ここに行かなければ、一生の恥だ、と思っていた。

 

あんなに憧れていたリア充高校には、全く魅力を感じなくなっていた。

それよりも、「いい高校」、「いい高校」

自分に言い聞かせた。

 

その結果、無事に偏差値のトップレベル校に合格することができた。

 

でも、なんだか、もやもやしていた。

 

いや、もやもやなんて、気のせいだ。

新たに始まる高校生活を存分に楽しもうではないか。

そう思い込ませて、自分の高校の制服に袖を通した。

 

でも、リア充高校の制服をまとった同級生に会うと胸がざわざわした。

駅の反対側のホームで、その高校の生徒を見ると気になった。高校の名前がローマ字で書かれたエナメルバッグをじっと見つめている自分がいた。

 

 

もやもやは、いつまで経っても消えることはなかった。

 

 

あれから10年ほどの月日が経った。

つい先日、偶然その高校の近くを通りかかったので、ちょっと寄ってみようと思った。

校内に入ることはできないので、周りのお城の跡地を歩いてみた。

 

犬の散歩をする人、地元の小学生、観光客がぽつぽついるだけで、静かな空気が流れていた。

 

高校のプールが見下ろせた。

水泳部だろうか、体操服姿の男子生徒らがプールサイドで腹筋をしていた。

 

私はやっぱり、もやもやしていた。

 

このもやもやは何? 目の前の、リア充高校に行けなかった悔しさ?

そんな気もするけど、そうではないのだ。

じゃあ、なんなんだ?

私はぐるぐる考えながら歩いた。

 

教室の窓から、ホルンの音階が聞こえてきた。

その時、私は唐突に「申し訳ない」と思った。

 

そう、私はわかってしまったのだ。このもやもやの正体が。

それは、まぎれもなく、吹奏楽部の同級生たちに対する申し訳なさだった。

 

当時友人たちは、私に対して直球でぶつかってきてくれた。

「もっと、ここは力強く吹いた方がいいんちゃう?」

「部活終わってからも、公園で練習しようや」

「かほりはどう思う?」

「体調悪いん? なんか相談あったらして」

「かほりにはもっと協力してもらいたいと思ってる」

こんな言葉の数々に、私は背を向けていた。

どうせこんな奴らに本当のこと言ったってわからない。

部活は無駄な時間だ。そう信じて疑わなかった。

私は自分だけが周りよりも優位に立ったつもりでいて、実際のところ、逃げて、逃げて、逃げていた。

 

そして、真正面から向き合ってくれていた仲間を裏切った。

 

この裏切りは、自分のリア充高校へのあこがれをも踏みにじった。

あんなに行きたくてたまらない高校だったのに、友人を裏切ることによって、あこがれがあこがれでなくなった。退部して、友人たちよりも「いい高校」に行こうと必死だった。自分の高校生活をどうしたいかなんて、正直どうでもよかった。偏差値の高い高校に入ることがすべてだった。

だから、この高校の制服を見るたびに、罪悪感に侵されていたのだった。

私にとって、この高校の制服を着ていないという事実は、友人を裏切った証だった。

仲間を捨てていなければ、部活を辞めていなければ、この高校で生活していたかもしれない……という思いがずっと心の奥にあった。

やっぱり、みんなと一緒に部活を引退して、この高校に行きたかった……!

 

でも、私は思うのだ。このリア充高校の存在がなければ、自分が部活を辞めたことへの後悔に気が付けなかった、と。

きっと、自分は誰よりもえらい、周りと自分のレベルが合わなかったのだ、と退部を正当化したままだったと思う。本当は、仲間とまっすぐ向き合えなかった自分を悔いていたのに。

 

もう私は、逃げたくない。これから先、人とまっすぐ向き合わなければならない時がやってくるだろう。家族や友人、恋人、職場の人。そのときは、ちゃんとぶつかりたい。

笑ってごまかすことも、表面だけうまくやりこなすこともできるだろう。思い切って縁を切ってしまうこともできる。

でも私は、部活から逃げたときのように、人から逃げたくない。

腹が立ったら、腹が立ったと伝えたい。おかしいと思ったら、おかしいと伝えたい。

反論されて、また反論して、ぐちゃぐちゃになりたい。心から嫌い合ったり、心から信頼し合ったりしたい。

 

リア充高校へのあこがれは、私の中で永遠のあこがれだ。

友人とまっすぐ向き合えなかった後悔からくる、あこがれだ。

私は一生あこがれ続けてやろうと思う。

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