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メディアグランプリ

至らない母親でごめんなさい、という地雷はもういらない


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:櫻井由美子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
咳と鼻水の出る2歳の娘を連れて小児科に行ったときのことだった。
 
「熱はありますか?」
 
と小児科の先生から尋ねられ、わたしはドキッとした。
 
「熱はない、と思います」
 
歯切れ悪く答えたわたしに向かって、先生は
 
「じゃあ測ってみましょうか」
 
と言って、そうしたら後ろに控えていた看護師がすぐに体温計を持ってきて娘の耳にその体温計をいれ、ものの3秒ほどでピピピピと娘の体温が測られた。娘の熱は36度でまったくの平熱だった。聴診器をあてられ、喉が少し赤いねと言われて、薬を処方されて帰ってきた。
 
 
 
あのときのドキッとした感覚はいったいなんだったんだろうか、としばらく考えていた。その日の夜、仕事から帰った夫に小児科に行ってきたよとそのときの話をしていて、
 
「熱を測っていかなかったこと、先生にばれちゃった」
 
と無意識に言っている自分がいた。
 
そうだ。「熱はありますか?」ときかれたとき、わたしの頭の中には、「しまった。熱測ってこなかった! まずい。小児科受診するのに熱も測ってこないなんて、ふつう母親なら子どもが咳やら鼻水やら出してたら熱くらい測るでしょ? って思われるかも。あーーーなんで熱測ってこなかったんだろう。いやでも何回か手でおでこを触ってみたけど熱はなさそうだったんだもん……」というようなことがぐるぐるぐるぐると一瞬で駆け巡ったのだった。
 
だから、「熱はない、と思います」と答えたわたしに先生がすぐに「じゃあ測りましょう」と言ったとき、わたしはドキッとした。熱を測ってこなかった自分を責められたような、落ち度がばれてしまったような、母親失格だよって言われたような、そんな気が勝手にしてしまった。熱も測って来なくてごめんなさい、と謝りたいような気持ちにすらなってしまった。
 
 
 
「手で触ってみた感じ熱くなかったので熱は測ってきていません、ってそのまま言えばよかったんじゃない?」
 
と夫から言われて、言われてみたらほんとうにそのとおりだなと思った。思ったのだけれど、その場では、どころかその後も、自分ではまったく思いつかない言葉だった。
 
 
 
おそらく小児科の先生はわたしのことを責めるつもりはぜんぜんなかったのだと思う。熱は測っていなければその場で3秒で測れるわけだし、きっとわたし以外にも熱を測ってこないひともいると思う。この場面でわたしがドキッとしたのは、自分自身が熱を測っていかなかった自分を責めていて、母親ならこれくらいやって当然なのにやっていない自分はなんて至らない人間なんだと思っていて、だから小児科の先生の言動も、わたしを責めているように感じ取ってしまったのだろう。至らない自分のことはふだん皆に見せないように隠しているのに、それがばれてしまったような気がしてドキッとしたのだろう。
 
 
小児科でのことだけではなく、よく考えればわたしの中には「至らない母親でごめんなさい」みたいな気持ちが常にあるような気がしてくる。
 
 
 
こんな手抜きなごはんでごめんなさい。
 
こんなにだらしなくてごめんなさい。
 
毎日絵本読んであげてなくてごめんなさい。
 
お散歩いけなくてごめんなさい。
 
こんな暑い日にモコモコの服を着せてしまってごめんなさい。
 
 
 
数え上げたらきりがないくらい、ごめんなさいの種が埋まっている。もっともっとたくさん埋まっている。埋まっているからふだんは見えないのだけれど、なにかの拍子にそれを踏まれると暴発する。まるで地雷のように。自分でもふだんは意識していないから、いったい何が起こったのかすぐには理解出来ず、ただただ相手に責められたような気がしたり、自分の至らなさに落ち込んだりして自分の感情に翻弄されてしまう。「ごめんなさいごめんなさい、わたしがわるいんです」そんな風に自分を責めたり、あるいは逆に「わたしは悪くない!」と相手を攻撃しはじめたりしてしまう。相手にしたら八つ当たりもいいところだろう。
 
 
 
どうしてもわたしの中に「ちょっとでも本当の自分よりもよく見せたい」という気持ちがあることも、地雷を増やす原因になっているように思う。頭の中に理想の母親像があって、そのひとはなんでもちゃんと理想的にこなしていて、わたしもその人に近づかなくちゃと思っている。だから出来ない自分は隠してちゃんと出来たところだけを見せたい、って思っているのに、実際にはどんどん理想からかけ離れていく。あれもこれも出来てなくてごめんなさいごめんなさい、とどんどん隠さなければいけない自分が増え、地雷が増えていく。
 
 
 
でもよく考えたら、その「出来ていないところ」が本当のわたしだし、ありのままのわたしなのだから、きっとわたしが思う以上に皆にはその「出来ていないところ」は見えてしまっているのかもしれない。頭隠して尻隠さずとはまさにこのことだ。「地雷だ! 大変だ! 爆発だ!」なんて大騒ぎしているのは自分だけで、まわりの皆は「今さらなにを言っているの? もうとっくに知ってるよ」と思っているに違いない。
 
 
 
自分自身の中にある地雷なら、それはきっと自分で取り除くことが出来るんじゃないだろうか。というよりも、自分にしかそれを取り除くことは出来ないような気がする。到底手の届かない理想の母親像も、もういい加減あきらめて手放そう。わたしにはムリなのだから。そうすればきっと、娘の熱を測っていかなかった自分を責める声もきこえなくなるはずだ。
 
 
 
自分を責めるのは、いつだって自分が一番容赦ない。だから自分を責める声がやむこと、それはきっとわたしにとって何よりもホッと出来ることだ。めんどうだし時間もきっとかかるけれど、ひとつひとつ、もう要らなくなった地雷を探してみようと思う。
 
 
 
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2018-04-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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