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中国で私が日本代表の気持ちになって戦っていたら警察沙汰になったお話


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記事:TAOZI(ライティング・ゼミ特講)

私が中国に留学していた時の話なので、この事件はもう7年ほど前のことになる。
中国に滞在して1年ちょっと経った頃のことだった。
その頃には私はもうかなり中国に馴染んでおり、感覚もどちらかというと中国人寄りになっていたと思う。

行列にちゃんと並ばない人がいれば物申す。
値切り交渉ありきの買い物だと現地の人が顔負けするくらいの値段で交渉する。
どローカルの人しかいないような小さな食堂で地元の人と並んで8元くらいの炒飯を食べる。
郷に入れば郷に従えではないが、やはりその土地の言語を習得するにはどうしても文化的背景を得た方が身につくのが早いため、出来るだけその文化に溶け込めるように私は歩み寄っていたのだ。
街を歩いていたら中国人と勘違いされるくらいに流暢な中国語を話せるようになりたかった。

しかし、どんなに文化に溶け込んでも、中国人からすると“私が日本人であること”が見た目や所作ですぐに分かってしまうらしい。
“外国人であること”ではなく“日本人であること”がポイントだ。
これは、その頃の中国人が抱えている《日本人のイメージ》によって起きた事件だったのだと思う。

私は家の近所にある大きなスーパーで買い物をしていた。
30元のお買い上げだったので100元札を渡して70元のお釣りをもらう流れのはずが、20元しか渡されていない。どう考えても50元足りない。

「お釣り、50元足りないんですけど」
と、私はレジの店員に声をかけた。

するとなんと
「いいえ! 私はちゃんと渡しました。あなたが50元勝手になくしたんでしょ。
ポケットにでも入ってるとか、落としたとかしたんじゃないの。私は知らないわよ」
と言い返されたのだ。

おかしい。
そもそも私はレジでお金を受け取って財布にお金を入れようと手元を見たら、20元しかなかったのだ。レジの前から離れてすらいないしポケットに入れた可能性もゼロ。

しかしそれを訴えても、店員は「レジの金額は合っています。なんなら今から数えましょうか?」と言ってレジの金額を数えだした。そしてなぜかレジの金額はぴったり。誤差はない。

「ほら、合ってるでしょ? あんたが失くしたんだから、諦めなさい! ほら次の人が待ってるから早くどいて!!」

ははーん。私はピンときた。

おそらく彼女は私より前のお客さんの時にお釣りを間違え、後からそれに気付いて私でその採算を合わそうとしてきているのだ。
当時、日本人はお金持ちだというイメージが根付いており、タクシーやいろんなお店で日本人が本来の金額以上にお金をとられるケースも多かったので、今回もそれなのだと直感した。
さらに日本人はあまり文句も言わないし、モメることを嫌う。その日本人の性質を知っていて、日本人の私であれば簡単に諦めてくれるであろう、と確信を持ってやっているのだ。

50元といえば、当時日本円に換算すると700円くらい。
確かにモメるくらいならこっちが引いて、700円くらいくれてやろうかと一瞬考えた。

……いやいやいや。
私は普通に買い物をしただけで何も悪いことはしていない。
なぜ買い物をしただけで黙って50元むしりとられなければならないのか。
それにここで私が引いたら、今後日本人は中国人にずっとボラれ続けることになる。
そもそも日本人が言い返さないからターゲットにされるわけで。

……これは私が食い止めねば。
まるで日本代表さながらの気持ちを持って、私は戦うことにした。
1年半、中国で培ってきた根性をなめるなよ。

まず私はケータイを取り出し、上海の友人を呼んだ。
事前に電話で事情を伝えていたため、彼は到着するなり上海の方言で店員と口論を始めた。
(私は標準語しか学んでいないので、方言は一切わからず、未だに彼らが何を言い合ったのかは不明のままである)
一通り口論した後、友人が「埒があかないから警察を呼びましょう」と110にコールを始めた。

警察官二人が到着した頃には、辺り一面野次馬に囲まれており、結構大きな騒ぎになっていた。
その真ん中に立ってバチバチと火花を散らす、日本人と上海人VSレジの店員。
まるでリングで戦うボクサーのようだった。

警察に事情を話すと、すぐに防犯カメラで事実を確認することになった。
確認してもらうとやはり私は50元を受け取っていない。落とした様子もなく、受け取ってすぐに店員に声をかける様子が記録されていた。

「確かにあなたの言っていることは正しいと思うよ」
と警察官の一人が言ってくれたので私はほっとした。

しかし、防犯カメラの画質が荒すぎて50元札の緑色が私の手元にないのはわかるが、はっきりと断言することはできず、どうしようもないとのこと。
モメだしてからすでに2時間ほどが経過していたが、私はごねるのをやめなかった。

「私はただ買い物をしただけなのに、なぜお金を取られないといけないのか?
50元返してください。返してくれるまで私は帰りません」

……我ながらしち面倒くさい日本人である。
しかしレジのお金はぴったりなのでそこから調整し直すことも出来ないし、警察もお手上げ状態。
結局、店長がポケットマネーから50元を私に返してくれることになった。
長い戦いの末、ついに私の勝利である。

最後にレジの店員が叫んだ。
「日本人でいくらでもお金を持っているはずなのに、なんでたった50元に固執するの?
100万円とかならまだしも、700円くらいなら譲ってくれてもいいじゃない!! 」

決して私は700円をおしんで2時間も戦ったのではない。
そう、考え方が根本的に違うのだ。
もちろん、今後中国へ来る日本人のためでもあったが、私が一番嫌だったのは
“何も自分に落ち度はないのに、濡れ衣を着せられたこと”だったのだ。

しかし中国人の考え方は
“お金をたくさん持っている人から、ちょっとくらい分けてもらってもバチは当たらない”。
お金持ちの日本人からちょっと多めにもらうことは当然のことであり、この私の50元の戦いに理解が出来ないようだった。

「クレイジーな日本人だよ、あんたは」

私は間違いなく彼らの記憶に忘れがたい日本人として刻まれただろうし、
少しは“何も言い返さない日本人”のイメージを覆すことはできただろうと思う。

現在、電子決済や配車アプリの普及により、中国ではぼったくりは非常に少なくなっている。
来日する中国人の増加により、中国人の日本人に対する考え方も大きく変わった。
また、当時はこの50元の戦いを中国人に話してもなかなか理解をしてもらえなかったが、今では共感を得ることの方が多い。

あれから7年、時代は流れている。

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2018-10-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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