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週刊READING LIFE vol,106

私の小説に100円の価値はあるのか《週刊READING LIFE vol,106 これからのお金の使い方》


記事:吉田けい(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
天狼院書店の新講座、「1シート・コンテンツ」の課題を今しがた提出したところだ。
 
この講座、ライティング・ゼミやライターズ倶楽部のように課題を添削してくれるわけではない。なので課題という言い方は適切ではないかもしれない。「1シート」の名前通り、A4一枚に取りまとめた自分の作品を、全国展開する天狼院書店の店頭にて販売する、という、今までにない新しい取り組みなのだ。ライターズ倶楽部で課題を提出して合格して、自分のFacebookに載せて、友人からいいねをもらったらそれでおしまい。その流れにマンネリを感じていた私は、ワクワクしながらこの講座に申し込んだ。
 
講義当日、通信受講の配信画面の中で、見慣れた三浦氏が開始早々不敵な笑みを浮かべた。
 
「やってみるといいですよ、ぜんっぜん売れないから」
 
画面越しにも、受講者が緊張に包まれる空気が伝わってくるようだった。私のように通信受講する人も多いだろうから、それらまでネットワークを通して共有されたのかもしれない。姿勢を正して講義を聞くと、買い手へのメリットや価格設定など、マーケティング論とも言えそうなコンテンツ構築の肝が駆け足に解説されていく。作る側が思うより、物を売るのは本当に大変なのだ。だからこそ、これをこうして、あそこに気をつけて……講義の解説は割愛するが、大変な苦労をしながらも作品を作り対価を受け取る楽しさと、どんな未知の作品が出てくるのかという期待が入り混じり、賑やかに講義は終了した。
 
私は自分の小説を売ってみたかった。ライターズ倶楽部の課題やら何やらでたくさん文章を書くようになったが、その中でも一番評価されるのが小説だったからだ。小説家になろうというわけではないけれど、自分の作品が多少なりとも金銭的価値があるのかを試してみたかった。
 
一方で、三浦氏のいう「ぜんぜん売れない」もどこか納得がいった。友人に付き合って同人誌即売会に出た時は、フリーペーパーが何枚か手に取られただけで何一つ売れなかった。おもちゃの販促アルバイトも全然見向きもされなかったし、ブライダルの営業成績はぶっちぎりで最下位だった。ティッシュ配りでティッシュを配りまくって生保レディに勧誘されたことはあるが、それが何かを販売したかというと、首を傾げざるを得ない。商品そのものにも何か優れたポイントが必要だし、商品の見た目や陳列にも工夫がいる。「1シート・コンテンツ」に出品するからには、商品としてのコンテンツと、マーケティングとしての紙面、2つの側面が求められる。
 
果たして皆さんにそれができるかな。
 
そんな意味を含めた三浦氏の言葉と、あの笑みだったのだ。そう思い当たると、自作小説をコンテンツにして出品することがとてつもなく難しいことのように思えてきた。A4用紙1枚に記載できる文字数は、文字の大きさが10.5ptとすれば4000字前後。両面なら8000字。「1シート・コンテンツ」で定められた最低料金は100円。文庫本1冊、6〜8万字前後がぎっしり詰まった小さな本がワンコインの500円で売られていることを考えると、100円で8000字はかえって割高だ。しかも、ただ文字が印刷されただけの文書にしか見えない紙を、わざわざお金を出して買うだろうか。難しい。ある程度覚悟していたつもりだったけど、この課題、それ以上に難しいぞ。
 
ブライダルの営業成績が振るわなかったのは、価格設定に自信が持てなかったからだというのが、いま振り返ってみての反省点だ。まだ簿記などの知識からは縁遠い状態で商品の仕入れ値を知ってしまい、売価との価格差に愕然とした気持ちが拭えなかった。実際には施設管理費や私自身に支払われる給料など、原価以外にもたくさんの費用が発生していて、それらを上乗せしてほんの少しキャッシュが残る程度の価格設定なのだが、そこに独学で思い至るほど私は賢くはなかった。そんな気持ちで接客されても、顧客の購買意欲が高まるはずもなかったのだ。
 
同じような話をインターネットでも時々見かける。特にハンドクラフト界隈で、作品の原価がいくらなのだからこの価格設定はぼったくりだ、とごねる人がいるそうなのだ。そういう人に向けて、手間や技術、デザインなど目に見えない価値があるのだよ、と説く投稿がバズっているのをよく見かける。こうしたトピックが話題になりやすいのは、現代日本には、大企業が工場で作った安価で品質の良い製品がたくさん出回っていて、私たち自身がその安さに慣れてしまっているからだろう。安い製品は、企業が大規模生産することで商品一つあたりのコストを抑え、安価を実現しているのだ。同じものを誰かが手作業で作ったとしても、工業製品と同じ価格ではとてもじゃないが販売できないだろう。
 
ものを買うというのは、材料費だけではなく、その商品ができるまでの全てに敬意と金銭を払う行為なのだな、とぼんやりと思った。
 
そう考えると、コンテンツでも作品でも、何かを創り出すという行為はなんて尊いのだろう、という気持ちになってくる。丹精込めた作品には正当な対価を支払わなくては申し訳ない。また、時間とお金をかけつつも、どこかに売るわけでもなく趣味で作品を作るということは、最高に贅沢なことなのではないか。知り合いが出版した本、友人が出演するライブのチケット、どれもこれも、価格の裏に、目には見えない努力や苦労がぎっしり詰まっているような気になってくる。日常生活でも、食べ物の生産者がいて、衣服を縫製した人がいる。私が買い物することによって支払われるお金が、彼らの報酬となり、給料となっていくのだ。
 
これからお金を使う時は、この商品の向こうにいる人への感謝を込めて使おう。
 
1シート・コンテンツを受講して、そんな思いがけない決意を得てしまったのだった。

 

 

 

肝心の1シート・コンテンツは、当初の予定通り小説をしたためて出品した。価格は100円だが、紙の面積が許す限りの価値をありったけこめたので、単なる紙の価格以上の仕上がりになっているのではないかと自負している。

2020年12月1日より1ヶ月間、天狼院書店様の店頭に並ぶ予定なので、もし見かけたら、手に取ってみてほしい。そして価格と同等、それ以上の価値があると思っていただけたら、購入してくださるととてもとても嬉しい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
吉田けい(READING LIFE編集部公認ライター)

1982年生まれ、神奈川県在住。早稲田大学第一文学部卒、会社員を経て早稲田大学商学部商学研究科卒。在宅ワークと育児の傍ら、天狼院READING LIFE編集部ライターズ倶楽部に参加。趣味は歌と占いと庭いじり、ものづくり。得意なことはExcel。苦手なことは片付け。天狼院書店にて小説「株式会社ドッペルゲンガー」、取材小説「明日この時間に、湘南カフェで」を連載。
https://tenro-in.com/category/doppelganger-company
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2020-12-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol,106

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