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老舗料亭3代目が伝える 50までに覚えておきたい味

第1章 冒険する京料理、さゝ木《老舗料亭3代目が伝える50までに覚えておきたい味》


記事:ギール里映(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「さあ、始めてまいります、今日もお付き合いください!」
 
威勢のいい大将の一声で夜の部が始まります。
時は18:30、1分の時間も逃すまいと、客は全員居住まいを整え、ウェルカムドリンクのお酒を飲みながら食事が始まるのをまっています。祇園さゝ木では、みな一斉に食事が始まります。
 
ほんまもんの京料理、食べたことがございますか。
感動で心が震えるぐらいの、和食を食べたことがございますか。
京都にはそういう、心にぐいぐい入り込んでくるような料理屋が、ちゃんと存在しているんです。
 
和食の店は全国に5万軒、京都だけだと1500軒あまりの店があります。一流から大衆向けまで様々ですが、この中でほんの一握りの料理屋だけが、予約の取れない料理屋として、別格の存在感を放っています。
 
なかでもダントツなのが祇園さゝ木。ここは京都人はもとより、全国の食通なら知らない人はいないというぐらい、有名な店になりました。誰もが一度は行きたいと思う特別な空間で、普通に予約をとることが本当にできません。なぜなら、一度訪れた客が必ず次回の席を予約して帰るので、空きがあることがめったにないからです。席を確保するには、まず誰か常連と仲良くなって、一度食べに連れてもらわないといけません。そうして次の自分の予約を入れて帰るしか、予約をとる方法がないのです。2ヶ月前から電話にて予約受付がスタートすると公には言われていますが、現実には毎月1日、電話をかけてもなかなか出てくれません。やっと出たと思ったら、すでにその時はほぼ全ての席が埋まってしまっているという状態です。つまり予約開始までに常連たちが席を全て押さえてしまっているので、文字通り一元さんお断りな状況になってしまっているのです。
 
このように予約が途切れない状態が、もう10年以上続いています。
なぜこの店だけ、このように人から愛され、愛され続けるのでしょう。
 
祇園さゝ木は1997年から祇園にて店を出し、2002年に現在の、大和大路から八坂通りの坂を東に登ったところに移転をいたしました。当時、バブル経済が弾けて経済不安があるなか、ばたばたとなくなっていく料理屋を尻目に、祇園の一等地の一軒家をまるまる、膨大なコストをかけて作り上げられオープンしました。
 
「一番お金がかかったのが、このピザ窯なんですわ」
 
さゝ木のオーナーである佐々木浩氏は、新しいおもちゃを手に入れた少年のように、ピザ窯の話をしてくれます。
「これで、魚をまるごと焼いてみたい、そう思って迷わず入れました。おかげでものすごい借金になって、嫁から呆れられました」
 
京料理屋であるにもかかわらず、店は20人ほどが横並びで座れる長いカウンター席がメインで、奥にテーブル席、2階に御座敷があります。2階は個室になるため、特別な人たちがいつ来てもいいよう、席があけてあるという噂があります。そしてカウンターの向かいには、あのピザ窯がどんと置かれているのです。
食事は18:30に一斉にスタート。予約客だけしか受け付けない。そんな特別なスタイルを打ち出し、それでなくても高い京料理屋の敷居を、さらに上げたのがさゝ木でした。
 
ところが、敷居が上がれば上がるほど人気も鰻登りになります。
この店で一度食べてみたいと思う人が増えに増え続け、全国、遠いところからも毎日多くの客が訪れます。
 
「今日のために、半年前から席をとってたんです」
「毎年この日は、ここで食べると決めているのです」
 
と、くる客の意気込みは半端ない。
この店で食べたい、大将の佐々木さんに会いたいと思う人が、連日途切れることなくつめかけているのです。
 
「今日の蟹は香住です。大きいのが入りました。こんな大きいのはぼくもめったに見たことありません」
 
始まる直前に大将は、大きなお皿に山盛りのった巨大な蟹を、お客様一人一人の目の前で見せていきます。客もこれから自分が食すであろう食材の’まだ生きている姿’を見ることで、これから始まろうとしている特別な時間への期待が高まります。
 
全国から訪れるのは客だけではありません。食材も全国から、最高なものだけが集まってきます。大将自ら全国をめぐり、一軒一軒すべての取引先と交渉を自分で行って、よしとするものだけを選んできました。食材の目利きは真剣勝負で、魚屋も大将も、見ただけで食材の良し悪しを嗅ぎ分けてしまいます。大将の鋭い嗅覚にかなった魚だけが、お店では使われています。
 
大将の掛け声で、厨房が一斉に動き出します。きびきびと仕事をする板前、見習いたちは、大将の指図で店の隅から隅までに目を光らせていきます。必要なときは客と会話をし、食材の話をすることもあれば、また何気ない会話を交わすこともある。大将自身はもちろんですが、板前たちも本当によく気が付きます。客のことを本当によくみているのです。
 
すごい料理屋は、料理で勝負をしません。なぜなら、料理の腕がいいことはもう、当たり前だからです。和食の場合、よい材料にであったら、それだけで買ったも同然。そこに修行をしっかり積んだプロの腕前があったら、料理は美味しくならない理由がないのです。だから、ある基準を満たした料理屋の料理は、美味しくて当然なのです。
 
本格的な差は、料理ではなく、気配に生まれます。そしてその気配は、大将のあり方と、人柄から生まれます。料理はその気配を伝える触媒にしか過ぎないのかもしれません。
写真でも、同じ機材で同じライティングで同じ被写体を撮っていたとしても、シャッターを切る人が違えば必ず違う写真になります。料理も同じで、同じ食材、同じ調理器具、同じレシピで作ったとしても、料理人によって味は天と地ほどに変わります。さゝ木の料理が何か他の京料理と全然違うのは、外でもない大将の、なんとも言えないお人柄によるものなのです。
 
通常同じ料理人なら、彼のような才能を嫉妬し、妬むものですが、いけずな京都の住民でさえ、彼のことを尊敬と敬愛の眼差しでみつめ、その料理を食べたいと切望します。料理人が惚れる料理人が、このさゝ木の大将なのです。
 
カウンターで一斉にスタートすることなど、京料理のサービスではあり得なかったことをやり、カウンター越しに見えるのは大将の劇場。包丁で刺身を切る様、蟹をさばく様、盛り付ける様、どれも客の目をとにかく楽しませる。
 
「ちょっとお付き合いください」
といいながら、最高の鮪のお寿司を1貫ずつにぎり、自分の手から直接客の手に渡していきます。
 
「こんな大きいの、食べられへんわ」
という女性客もいらっしゃるぐらいです。しかし、
 
「とにかく、お腹いっぱいになって帰ってもらいたいんです。京料理言うたら、なんや、お腹も中途半端で、家に帰ってからお茶漬け食べたりしはるでしょ。ぼくはそれが嫌なんです。だからここでは、たっぷり食べていってもらいたいんです」
 
と、京料理界の常識をことごとく無視して、独自の世界観を貫いていらっしゃる。しかしそれが決して、やり過ぎて外連味があるものでなく、客も同業者も魅了して、京都料理界のうるさ方まで惚れさせてしまうのだから、それは化物級としかいいようがありません。
 
「京料理は、変わっていかなあかん。伝統を守るだけが京料理やない。
常に新しいことにチャレンジせんと、あかんようになる」
 
ただ食事をする、というだけの体験ではない料理が、このさゝ木にはあるのです。そのチャレンジをする心が料理だけでなく、その空間の隅々にまで行き届いているから、お客は食べることを通して、大将の懐に足を一歩踏み入れさせてもらって、大将のチャレンジを、一緒に体験させていただいているのでしょう。だからここの体験に、皆が病みつきになってしまう。
破天荒な大将の目を通して見たものを、自分が見たような気になれるし、また大将の経験の一つ一つが、料理という、口に入れるものになることで、客である私たちは大将の世界を、少しお裾分けしてもらえているんじゃないかと思います。
 
料理というのは、ただ食べてお腹を満たすものではありません。また美味しいか不味いかを論じるだけのものでもありません。料理は、食べるという体験を通して、私たちが一人では体験しえない新しい世界への扉も開き、自分の枠を大きく超えさせてくれるものなのです。
 
 
<第2章につづく>
 
 

□ライターズプロフィール
ギール里映(READING LIFE編集部公認ライター)

食べかた研究家。京都の老舗料亭3代目として生まれ、現在は東京でイギリス人の夫、息子と3人ぐらし。食べることが好き、が仕事になり、2015年にゼロから起業。現職は食べるトレーニングキッズアカデミー協会の代表を勤める。2019年には書籍「1日5分!子どもの能力を引き出す!最強の食事」、「子どもの才能を引き出す!2ステップレシピ」を出版。

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