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私をコミケに連れてって

第4回 後日談――C98の行方――《WEB READING LIFE 連載「私をコミケに連れてって」》


記事:黒崎良英(READING LIFE公認ライター)
 
 
階段を下り、道を抜け、駅に着く。
暑く、重く、体力の無い私にとって、コミケ4日目は散々であった。
不自由な足にも少し痛みが走る。それだけ歩き回ったということだろう。
だが、そこまでなっても、私の口元には常に笑みがあった。マスクをしていなければ不審者まっしぐらである。
 
帰りの電車で私は思い出す。
話をさせていただいた方、写真を撮らせていただいた方、見ただけだがとても興味深い数多のサークル、そして手に入れた戦利品。
どれもこれもが、膨大な熱量を持っていた。
一つ一つが、疲労を吹き飛ばすほどの幸福感を私に与えてくれる。
コミケで過ごした時間はとても濃密で、矛盾した言い方だが、マナーを守りながらも欲望に忠実になれる場所であると思う。
 
私は決意する。
また来ようと。
また次回もコミケに参戦することにしよう。膨大な熱量を持った同志とともに。
 
そのように決意したC97から早3ヶ月。事態は急変した。
そう、コミックマーケットC98の中止が決定したのである。
世間を騒がせている新型コロナウィルスの影響だ。
 
例年、夏のコミックマーケット、すなわち夏コミは、8月の下旬に行われる。だが、今年はオリンピックが東京で開催される予定だったため、混雑を回避するため、ゴールデンウィーク中の開催となっていた。
 
様々なイベントが中止や延期を決める中、最後まで開催を宣言していたコミケだが、ウィルスの脅威は日に日に増して行き、実行委員会は遂に中止を余儀なくされた。
 
もちろん異議はない。事態が事態なので、参加を決めていた同志も同じ気持ちであろう。
だが、この昂ぶる気持ちを放っておくわけにはいかない。野放しにするわけにはいかない。
中止は仕方がない。だが、コミケにかける熱い思いは、燻らせるにはあまりにも大きすぎる。
 
各地で同人誌や同人ゲームの展示(即売)会が中止される中、このまま同人イベントの火を絶やすわけにはいかない、ということで、コミックマーケット準備会は『がんばろう同人』プロジェクトを立ち上げた。
 
これはこの困難な状況をがんばって乗り切ろうという意志と、状況が改善された暁には必ず作品を発表・入手すべくがんばろう、という目標を込めたプロジェクトである。
 
その一環として「エアコミケ」という企画が開催されるという。
実際に販売予定だった、参加サークルをまとめた案内「コミケカタログ」の販売、各サークルでの同人誌の通信販売応援、準備段階での紹介、そして本来開催されるはずだった、2020年5月2日から5月5日を「当日」として、動画投稿サイトでの番組企画など、様々なイベントが開催される予定だという。
 
もちろん現地であるビッグサイトに行っても何にもない。が、そこで発揮するはずだった熱量は、全世界につながっているインターネット上で大いに解放されるはずだ。
 
各ジャンルの同人即売会にも同じような傾向はあり、ネット上での「エア」イベントを計画している。インターネットという性質上、全世界から容易に参加ができることが嬉しい。
もちろん実際のイベントと全く同じとは言い難いが、それでもこれからコミケなどに参加してみたいと考えている未来の同志には、その入り口としても面白いのではないか。
 
そして状況が回復し、現地での開催が可能となった際、ぜひ手元に持っておきたいのが、先ほども少し触れた「コミケカタログ」である。
今回はそれに触れたい。
 
どのようなサークルが参加しているか、そのブースはどこか、それを含めた会場の地図等が、記されている。
それがコミケカタログである。
マナーや注意事項などもマンガでわかりやすく書かれているので、初参加の方も安心だ。もっとも、これら注意点のようなものは公式サイトにも掲載されている。必要に応じて、ということになるのだろうが、コミケカタログの役割はそれだけではない。
 
カタログには冊子版、DVD—ROM版、そしてweb版がある。
このうち、冊子版には全日程の入場券が付属しており、すなわち入場料込みの値段となっている。全日参加を予定する方は、購入を考えても良いだろう。
会場でも売っているのだが、戦利品でただでさえ重くなる荷物が、さらに重量増しになるので、あらかじめ買っておくことが前提となる。
 
DVD-ROM版は、それを電子化したものだ。入場券は付いていないが、会場地図等、印刷できるのが便利で、売り切れるのが早く、C97では手に入れることができなかった。
 
そこで、webカタログである。これが実に使いやすい。
サークルの詳細や会場地図があるのはもちろんだが、もっと便利な機能が搭載されている。
イラスト投稿サイト「Pixiv(ピクシブ)」とIDを連携することにより、「Pixiv」でお気に入りにした作者のサークルには、自動的に印がつくようになっているのだ。サークル紹介ページにも、そして会場地図にも、同様だった。
私はPixivで新たにお気に入りの作家さんを見つけ、そしてwebカタログで印がついた位置を確認する、ということを準備段階でしてみた。
とても便利な機能なので、オススメしたい。
 
ところでこの地図というのが大事で、印刷されたものを持っていく方が良い。先ほど言ったように重たい冊子版を持っていくわけにもいかないし(冊子版を購入したならそのページをコピーして持っていくことが妥当だ)、ネットで見るには電波が悪い、いや掴めない。何せあの大勢の人々が使うのだから。
 
そこで地図の印刷であるが、web版では細かい表示形式の設定が用意されている。お気に入りのサークルの名前だけ地図上に表示、とか、サークル紹介の表紙も表示するなど、細かいところに手が届く仕様になっている。
 
また、web上のサンプルを見ることもできる。電子書籍のように、用意してあればサンプル冊子が読める。あらかじめ内容を確認できる場合もあるので、よく見ておきたい。
 
ただし、このwebカタログ、嬉しいことに無料で使えるのだが、それはそれで制限がある。操作ができる回数が限られていたり(時間を置けば操作可能回数は回復する)、印刷ができなかったり、データダウンロードができなかったり、といったようなものである。
この制限を解除するには、月額課金をすれば良い。それも数百円なので、かなりお得と思われる。
私は当月だけ課金したが、それも月単位で決めることができる。
最初は無料で使っていて、より仕様頻度が上がったら、課金すると良いのではないだろうか。
 
DVD-ROM版との連携機能もついており、両方のお気に入りを統合させることもできる。自分の使い方にあった選択をしたい。
 
今回のC98コミケカタログは、DVD-ROM版の販売は中止になったが、冊子版は発売するらしい。
中身のクーポン券や入場券は当然無効だが、それはそれで良い記念品になると思っている。
気分を味わうためにも、ぜひとも購入したいところだ。
 
コミックマーケットC98は確かに中止となった。
だが、同人誌を愛する者たちの思いは、そう簡単に止まらない。
ネットを見れば、この困難な状況にも負けず創作活動をしている人は多い。
インターネット上で、次々とイベントが開催されることであろう。
同人誌に限らず、同人ゲームやアナログゲームなど、ゲーム関係もエアイベントは熱そうだ。
 
「エアコミケ」は自然発生的に現れた言葉らしいが、それは燃え盛る同志たちの、同人誌への、いや創作物全体への愛情から生まれた言葉であろう。
C98の「エアコミケ」、私も「当日」を楽しみにしている。
そしていつの日か、この状況が打破される日は必ず来ると信じている。
その日のために、今は最大限の工夫をして、今回の「エアコミケ」を楽しみたいと思う。

 
 
 
 

❏ライタープロフィール
黒崎良英(READING LIFE編集部公認ライター)

山梨県在住。大学にて国文学を専攻する傍ら、情報科の教員免許を取得。現在は故郷山梨で、国語と情報を教えている。また、大学在学中、夏目漱石の孫である夏目房之介教授の、現代マンガ学講義を受け、オタクコンテンツの教育的利用を考えるようになる。ただし未だに効果的な授業になった試しが無い。デジタルとアナログの融合を図るデジタル好きなアナログ人間。趣味は広く浅くで多岐にわたる。

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2020-04-13 | Posted in 私をコミケに連れてって

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