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天狼院通信

SONYの新型カメラ「α7RⅢ」のマーケティング戦略を、『殺し屋のマーケティング』で読み解く〜「コンテンツ主義」時代のマーケティング〜《WRITING LIFE》


天狼院書店店主およびプロカメラマンおよび、きたる11月9日に発売となる『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)の著者の三浦でございます。

昨日、SONYのプロサポート(プロカメラマンが加入できるサービス)から一通のメールをもらいました。

それは、待ちに待ったものでした。

SONYが、11月25日(土)に、新型カメラα7RⅢを発売するというものでした。

*詳細はこちらから▶SONY公式ホームページ「α7RⅢ」

僕は今、「秘めフォト」という女性のセクシー専門のフォトサービスを提供しているプロカメラマンとして活動しているのですが、少し前にSONYが発表した「α9」という機種に関しては、大変魅力的だったのですが、買うのを控えました。

α9は、とても優れていて、連写に強かったりするのですが、画素数が2,430万画素と、ポートレート系のカメラマンとしては、ちょっと物足りなかったんです。

プロサポートにも相談してて、

「三浦さんの場合はα7RⅡのままでいいと思いますよ」

という話になっていました。なぜなら、α7RⅡの場合、画素数は4,240万画素で、上位機種に位置づけられる「α9」よりも、遥かに画素数が高かったからです。

α9は、被写体が動く、スポーツやモータースポーツ、野鳥などを撮影する際には、とても効果があると思うのですが、僕ら、スタジオをメインとするポートレート系のカメラマンには、それほどの連写機能は必要なかったのです。それよりも、女性を極めて綺麗に描き切らなければならないので、画素数の方を優先しました。

α9は、マーケティング的に言えば、おそらく、報道系に強いニコンのカメラマンや、スポーツ関連のカメラマンを、SONYに乗り換えさせるための「必殺兵器」だったのではないかと思います。東京オリンピックを前に、東京オリンピックでは、SONYのカメラが競技場に並ぶことを想定されての投入だったのではないでしょうか。

それで、α9が発売されてから、ずっと、待っていたのです、「R」の紋章が刻まれたSONYの新型カメラを。
「R」は、画素数を究極的に高めた機種に刻まれるエンブレムです。ちなみに、「S」はISO感度を究極的に高めた機種への紋章です。

プロカメラマン界隈では、様々な噂が出回りました。

「もしかして、8,000万画素クラスのα9Rが秋に出るのではないか」
「秋にα7Ⅲが発売されて、そのあとにRとSが順次市場に投入されるのではないか」

そもそも、僕らカメラマンとしても、正直言って、8,000万画素なんていらないんですよね。壁一面に引き伸ばすことなんてないですし、普通のポスターでも、α7Ⅱクラスの2,430万画素で十分です。8,000万画素だと、連写も遅いでしょうし、書き込みするSDカードも、かなり高価なものを買わないと読み込みがとてもストレスになって、テザー撮影(大きなモニターに映しながら撮る方法)も、とても時間がかかるでしょう。

そう、4,240万画素で、僕らは満足なのです。これで、ある程度連写ができると、たとえば、ひらひらのドレスなどを着た女性モデルさんが、Profotoのストロボの中で回転しても、すべてのショットを狂いなく綺麗に連続的に撮ることが可能です。(*スタジオ天狼院にあるProfotoのD2、B1は連写にも対応しています)

しかし、「R」系のカメラが出ると思っていても、まさか、「α7RⅢ」が先に出るとは、考えてもみませんでした!!

すぐに、僕のカメラの師匠のひとりであるプロカメラマンのSさん(*Canonのプロサービスの方なのでイニシャルでいきます笑)からメッセージが飛んできます!

「でたー!! まさか、RⅢから出るとは! これでプロはみんなSONYに雪崩込みますね!」

Sさんのおっしゃるとおりでした。
普通なら、α7Ⅲを出して、それでα7RⅢ、α7SⅢを出すという順番だったはずが、上位のⅢよりも専門性の高い「R」から出るとは、衝撃でした。

しかも、僕らポートレート系のカメラマンは、この「R」をこそ待っていたからです。

SONY、さすがだな、と思いました。

順番を無視してまで、SONYが成し遂げたかったことがあったということです。

それは、すなわち、Sさんが言うように、ポートレート系のカメラマンを一気にSONYに雪崩込ませる戦略に打って出たということでしょう。

僕の印象ですが、ポートレート系のカメラマンは、Sさんもそうですが、Canonに多いように思います。
もちろん、SONY系のポートレート系のカメラマンも多いのですが、まだ、圧倒的にCanonの5D系や1Dx系を使っているプロの方が多い。
このCanonのポートレート市場を、一気に取ろうというのが、この「α7RⅢ」なのだろうと思いました。

そのために、去年からSONYは本格的に戦略展開をはじめていました。

ポートレートに絶大なる力を発揮するGマスターレンズ(GM)やZeiss(ツァイス)レンズの展開です。

24−70mm/F2.8 GM
85mm/F1.4GM(単焦点レンズ)
70−200mm/F2.8GM
Planar 50mm/F1.4Zeiss(単焦点レンズ)
16-35mm/F2.8GM

これは、Canonのブランドレンズ「レッドライン」シリーズに、完璧に対抗して、凌駕してしまうほどのレンズのラインナップです。
しかも、SONYの主力は、今やα7やα9などのミラーレスなので、アダプター(SIGMAのMC11)をかますと、なんと、Canonのレンズまで使えてしまうのです!

今回の新型機種「α7RⅢ」では、僕らプロが、日々、

「ああ、こうなったら、もっとαシリーズは最高なのになー」

と思っていることを、ほぼ、全部、解消して来ている。
完璧に、「顧客視点」で作ったのが、わかる機種なのです!!

もう、かゆいところに手が届くとは、このことか!と思うほどに、ユーザー目線で、しっかりと創り込んでいる。

まず、「α7RⅡ」では、たしかに「瞳認識(*顔ではなく人の瞳を認識する機能)」がありましたが、やや、精度に欠けていたので、実際は僕はマニュアル操作で、瞳にピントを合わせて撮影していました。なので、撮影の際に、大きくモデルさんが動くと、

「ちょっとまってね、瞳に完璧に合わせるんで」

と、ややタイムラグがありました。(*置きピンしてもいいんですが、モデルさんが素人さんが多いので、二度といい表情が撮れない場合があったので、ほとんど”あたり”にする必要があったので、丁寧に撮っています)

しかし、デモ動画をみると、もう、顔を伏せても、「瞳認識」が追ってしまう!もしかして、もう、このオート機能にある程度任せてもいいのではないかと夢が膨らみます!連写で瞳認識を使ったらどうなるだろうと!

また、連写をする際の書き込みスピードが遅いのが気にかかっていました。
でも、なにせ、4,240万画素をRAWデータと大きめのJPEGデータで同時に保存しようとすれば、時間がかかるのは、当然です。
しかし、これの書き込み速度が、二倍近く、早くなると言う!!

さらには、バッテリーの容量が小さい買ったので、僕は予備を2個用意して、撮影中は、2個とも充電して、交換しながら撮影していたのですが、これも、二倍くらいの容量になるという!!

しかもしかも、SDカードを、2個、入れられるという!!!!

なんということでしょう!!

これで、僕ら、ポートレート系カメラマンの悩みも解消です!

そもそも、ファインダーとか、センサーとか、質が良かったので、上の不満点も、メリットに比べると小さかったのですが、今回は、弱点を完璧に塞いで来たという印象です。

あと、写真でちょっと、もしかして、と思うのは、ジョイスティックらしきも装着されているような…。(*ジョイスティックがあるとピントを合わせるときに、斜めとかもカーソルを移動できて、早くピントを合わせられる》

さて、ここからが本論です。

この究極のポートレートカメラ「α7RⅢ」を、市場に展開するSONYのマーケティング戦略を、『殺し屋のマーケティング』の「7つのマーケティング・クリエーション」で読み解いていきましょう!

7つのマーケティング・クリエーション(『殺し屋のマーケティング』より)

 

ちなみに、『殺し屋のマーケティング』とは、「受注数世界一の殺しの会社」を創ろうとしている女子大生が主人公の本格マーケティング小説で、世界一売ることが難しい「殺し」を自在に売ることができれば、最強のマーケティング技巧を手に入れることができるという話です。
「殺し」は、もちろん、「営業」も「広告」もできないでしょうし、ましてや「PR」も不可能です。

この『殺し屋のマーケティング』では、最強のマーケティング技巧の中でも、特に重要なのは、「コンテンツ主義」の考え方で、まさに、今回のSONYの「α7RⅢ」は、完璧に「コンテンツ(商品)の質」に重きをおいた、とてもSONYらしい、もっといえば、日本の起業らしいマーケティング戦略を取ったと推察されます。
それなので、「α7RⅢ」は、徹底して、ユーザー視点で「スパイラル」的に「コンテンツの質」を上げて行き、カメラにおける「世界一のブランド」の地位を、今まさにCanonから、奪取しようとしていることがわかります。
たしかに、様々なマーケティング戦略を駆使しているでしょうけれども、その根幹にあるのは、徹頭徹尾、「コンテンツの質」を上げて、ユーザーの満足度を高めること。
この物づくりを徹底して、そこにマーケティングを乗せるというあり方こそが、これから世界に通用する唯一の方法であって、日本はそれが得意ゆえに、世界のあらゆる市場を、再び席巻するのではないかと僕は考えています。

これを『殺し屋のマーケティング』の「7つのマーケティング・クリエーション」で読み解いていきましょう。

まず、SONYさんは、「αシリーズ」の展開において、おそらく、こんなSTORYを置いたのではないでしょうか。

 

1.STORY「カメラ市場で世界一を奪取する!」

 

そのSTORYを実現するための「コンテンツ(商品)」を、創り上げた。それこそが、フルサイズのミラーレス・カメラ「αシリーズ」だった。

 

2.CONTENTS「αシリーズ」

 

ただし、SONYの前には、Canonやニコンなどの世界ブランドのカメラメーカーがあった。

SONYのセンサーが世界一なのは、もう当たり前のことだった。しかし、Canonやニコンの、SONYに対する参入障壁があった。それは「コンテンツの質」ではなくカメラ特有の「モデル」にあった。その「モデル」とは、機種が変われども、レンズは何十年も使える、というものです。
たとえば、Canonのプロは、Canon系のレンズを揃えます。マウントが違うので、通常、Canonのレンズはニコンでは使えません。しかも、レンズはとても高価なので、一旦、Canonでレンズを揃えてしまうと、なかなか、他に移行できない。しかも、Canonの「レッドライン」のシリーズや、ニコンのブランドレンズのシリーズは定評がありました。
そして、何かあれば、たとえば、機材が不調のときに、代替機を用意してくれるなどのプロサービスがCanonなどは充実していました。
そこで、対抗するために、SONYはブランドレンズのラインナップを揃えます。そして、プロサポートのサービスを充実させて、それを身近に感じてもらうために、銀座や福岡などに、直営のSONYストアを展開して、プロを完全にサポートする体制を築き上げます。
僕も、SONYのプロサポートに入ってますが、この会員になると、急にレンズが使いたくなったときにも、銀座のプロサポートに電話一本入れると、早ければ、翌日、レンズを送り届けてくれます。しかも、会費以外に費用はかかりません。
つまり、SONYは、こうしたビジネス「モデル」を早急に大展開したのです。

3.MODEL「Gマスターレンズのラインナップ」「プロサポート・サービス」「SONYストア」

 

さらに、SONYは、世界中の様々な一流プロカメラマンと契約し、徐々に「エビデンス」を高めています。
鉄道写真家の中井精也さんやポートレート・カメラマンの魚住さんなどは、SONYのカメラを使っています。ポートレートの大御所、渡辺達生さんもαシリーズを使っていると聞きました。

4.EVIDENCE「一流カメラマンにαシリーズを使ってもらう」

 

そして、プロやアマチュアカメラマンからのフィードバックで、α7、α7Ⅱ、α9と、徐々に「スパイラル」的に「コンテンツの質」を高めていき、ついに、今回、「α7RⅢ」を発表するに至りました。

5.SPIRAL「αシリーズの『コンテンツの質』をユーザーの要望に合わせて徐々に高めていった」

 

その先にSONYが狙っているのが、もちろん、「ブランド」の確立でしょう。それも、単なるブランドの確立ではありません。そもそも、SONYはすでに世界的なブランドですが、このカメラの場合、もっと具体的なブランドを狙っているはずです。

6.BRAND「世界一のカメラブランドにする」

SONYが最終的に目論んでいるのは、「SONYのカメラは世界一だという空気の醸成」です。つまり「アトモスフィア」を創り上げることです。これによって、カメラの世界シェアナンバーワンという目標の実現を目指しているのだろうと思いました。

 

7.ATMOSPHERE「SONYのカメラは世界一」

 

そして、近い将来、SONYは、必ずそれを実現するのだろうと、僕は思います。

このように、『殺し屋のマーケティング』の「7つのマーケティング・クリエーション」では、1枚でマーケティングを説明できるようになります。
また、『殺し屋のマーケティング』は、世界初の「3次元小説」です。

「マーケティング」

「ミステリー」

「人間ドラマ」

の3つの次元において、「コンテンツの質」を究極までに高めました。

読みやすく、面白く、読むのが止められなくなると思います。

それでいて、多くのことを学べるだろうと思います。

ぜひ、手に取ってみてください。また、全国の書店さんで、ご予約ください。

11月9日発売です。(*11月8日配本で全国で順次発売になります)

どうぞよろしくおねがいします。

『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)

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2017-10-26 | Posted in 天狼院通信

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