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チーム天狼院

さらば、6万字の原稿ちゃん! その一瞬が、消えないように。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:斉藤萌里(チーム天狼院)
 
 
つい一週間前のこと。
仕事終わり、湘南から池袋に帰るまでの電車の中で、パソコンを立ち上げ、書き進めていた小説のフォルダを開いた私は絶句した。
 
ない。
どこにもない。
小説のデータ。
Wordフィアルで、4月からずっと書き進めて6万5千字ぐらいの文量になっていたデータが。
「いや、そんなはずない」
口には出さないものの、至極冷静に、私はパソコンの中で検索をかけて、いつものフォルダに入っていなかった原稿を探した。
ちょうど今朝も書いていたから、「最近の項目」を見ればすぐに表示されるはずだった。
今朝だけでなく、ほとんど毎日開いているファイルだったので、検索さえすればすぐに見つかる。
それなのに、ない。
ありとあらゆるパソコン上のフォルダを開けてみても、どんなに検索をかけても、見つからない。
 
嘘でしょう。
 
ガタンゴトン。
揺れる電車の中で、徐々に上がってゆく心拍数。
ポケットwifiを持っていなかった私は、スマホで
「Word ファイル 消えた」
「Word 消えた 復元」
と、鬼のように検索を始めた。
インターネットに接続できないパソコンでできることは少なかったので、今できる最大限の努力——つまるところ、電車が到着するまでに再現可能な「データ修復術」を頭に入れようと試みたのだ。
検索をする中で、「データ復元ソフト」なるものがあるということを知った。
よし、家に帰ったらこれを使おう。
家に帰り着くと深夜24時前。
ちなみに翌日も朝8時台の電車に乗らなければならなかったので、できるならすぐにお風呂に入り、ご飯を食べて眠りたかった。すでにこの日、昼間体力を使い果たしていて、本音を言うとお風呂もご飯もすっとばして布団にダイブしたいぐらいだった。
けれど、そんな人間の一次欲求すら吹き飛んでデータを復元したいと願うくらい、消えた小説は私とって大事なものだった。
完成したら新人賞に応募しようとも思っていた。あと1ヶ月も書き続ければ、完結するという計画だった。
 
これは、本気で復元しなきゃまずい。
ふらふらの体で、食事を摂ることも忘れて、とりあえず急いでシャワーを浴び、パソコンを立ち上げた。
十分に乾かすことのできなかった髪の毛から水が滴ってきて気持ちが悪い。
でもそれ以上に、消えてしまったデータを思うと胃がきりきりと痛くて、「このまま復元できなかったらどうしよう……」と不安だった。
泣きそうになりながら、電車の中で調べた復元ソフトをダウンロードし、ファイルの復元を試みた。
まずは、これまでのファイルをスキャンして洗い出す作業が始まった。
画面に表示される残り時間。
5時間以上。
寝るしかなかった。
本当ならば、データを復元したのを確認して眠りたかったのだが、さすがに5時間画面とにらめっこするくらいなら眠ってしまったほうがいい。明日も朝が早いのだ。
すでに深夜1時を過ぎていたし、そろそろ身体も限界だった。
それ以上に限界だった精神を落ち着かせるまでに、さらに一時間は要したのだが。
 
翌朝、データが気になり過ぎて結局安眠できないままに目を覚まし、すぐにパソコンの画面を見た。
ファイルのスキャニングは終了していたようで、緊張しながら目的のファイルを探す。
検索欄に小説のタイトルを入れてみた。
 
「……」
「……」
 
ない。
やっぱり、ない。
どこにも。
他のデータでとっくの昔に消してしまったものも見つかったのに、なぜか目的のデータだけが本当に見つからなかった。
 
ざわ。
ざわざわ。
 
お腹の中で、不安がお化けになって這いずり回っているような気持ち悪さ。
それでもまだ道はあるはずだと諦めずに、再度スマホで打開策を検索した。
池袋から湘南に向かう電車の中で、なすすべもなく自動的に運ばれてゆく時間が、もどかしかった。
 
その日も、湘南天狼院オープンの準備に追われつつ、頭の片隅には小説のデータ。
例えるなら、生まれてから大事に育ててきた愛犬が突然いなくなってしまったときのよう。
巨大なデータの海を彷徨う、私の小説ちゃん。
いくらアマチュアだとて、大事なもんは大事だ。
たとえ新人賞に応募したって日の目を見ることはないのかもしれないけれど、少なくとも一つの小説を「書き上げた」という実感だけは得られるはずだった。
 
それが、一気に、パー。
 
そんな事実、受け入れられなさすぎて、私はいろんな人にデータのことを打ち明けた。
「え〜!」
「それはショックだね」
みんなにそう言って同情してもらいながら、ただ一人だけ、まったく違うことを言う人がいた。
社長だ。
天狼院店主の三浦社長。
 
「データなんか、消えていいよ」
 
はい?
今、なんておっしゃいました!?
 
「消えた方が次にいいのが書けるし」
 
いや、ちょっと待って!
私の気持ちは?
せっかく時間をかけて書いてきた小説が消えてどん底にいる私の心は!?
大好きな恋人に振られて未練たらたら、多大なるショックを受けている上に、さらに「そんな男のどこが良かったの?」と追い打ちをかけられる気分じゃないか!!
 
……。
……。
 
けれど言われてみれば確かに。
社長の言う通りなのかもしれない。
小説なんて、新人賞に応募したって一次選考を通過するだけでも上位5%に入らなきゃいけないし、「落ちて当たり前」の世界だ。一度落ちたら最後、二度と他の賞に応募できない。いや、応募してもいいのだけれど、他の賞に応募しても結果はたぶん変わらない。下読みさんが一緒の場合だってある。
何より成長がない。
一つの作品に拘ってウジウジ悩んで、落ちたことに絶望して前に進めないのだとしたら、それはたぶん時間の無駄としか言いようがない。
社長はそういうことを伝えたかったんだと思う。
 
納得はした。
まだショックな気持ちがあるぶん、少しだけだけれど。
 
ちょっとだけ納得して、「ああもう戻ってこないんだ」と諦めると、なぜだか心が軽くなるのを感じた。
昨晩からずっと、消えたデータをなんとかして「復元しなきゃ」と、心が張り詰めていたんだ。
それが、「もうデータ戻ってこないや」と割り切ったことで、「復元する!」という呪縛から解き放たれたのだろう。
それに、データが消えて、また一から書き始めようと頑張ることで、他の誰かを励ますことができるかもしれない。
自分の失敗をネタにして、また書けるかもしれない。
立ち直るのに時間はかかるけれど、前を向こうと心に決めただけでも前に進んでいると信じる。
 
小説を書く作業に限らず、文章を書く作業って、「一瞬の閃き」だなと思う。
今書いているこの文章を、明日明後日は決して書けない。
感じたこと、考えたことはその日の気分やたまたま遭遇した出来事によっても左右されてしまうもの。
だから何かネタを思いついた時や、「これだ」という一文を思いついたらすぐさまメモをしている。
 
その一瞬を、忘れてしまわないように。消えないように。
 
さらば、私の原稿ちゃん。
 
忘れずに、また前に進むよ。
 
 
 
 
***

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2020-06-20 | Posted in チーム天狼院, チーム天狼院, 記事

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