チーム天狼院

一刻も早くこの服を脱ぎ捨てたいと思った、去年のお花見の出来事について《海鈴のアイデア帳》


せっかく、お花見の席に来ているというのに……

ため息をついた。
咲いている桜が、ぜんぜん目に入ってこない。
頭の中でふつふつと沸く欲望は、もっと別のものだった。

この服を早くぜんぶ脱ぎ捨ててしまいたい。
そう渇望している自分がいる。

人がこんなに大勢いる花見の席ではできないから、家に帰って、早く、早く。
じゃないと、もう耐えられない。

ーーーこれは、2016年、お花見の会において実際に起こった、ノンフィクションの一部始終である。

 

3月になると天狼院のスタッフは、そわそわしはじめる。春の暖かさに身をよじらせる芋虫のように。
誰もが、同じある事柄について考えを巡らせているのだ。
どこか期待しているような、ワクワクした雰囲気がただよう。
この独特の感覚がやってくると、「ああ、今年ももう春なんだなあ」と時の流れを感じずにはいられない。

それこそが、「天狼院の大お花見会」の存在である。

天狼院書店の1号点がオープンした2013年9月26日の、すぐつぎの春から開催されている。もはや伝統の行事である。

その日だけは天狼院書店が外部にできあがる。
お店からほど近い、桜の咲く公園にシートを広げるのだ。

花見の席には、マックスで50名ほどのお客様がいらっしゃる。
天狼院に来たことのある方ばかりなのかと思いきや、そうではない。
毎年、半数ほどが「天狼院のイベントに参加するの自体、初めてなんです」という方だ。

しかし、ここは天狼院。
「お花見」といえど桜の下でお酒を飲むだけの会、というわけではない。

プロカメラマンさんをお呼びしたフォト部やファナティック読書会などといった、天狼院おなじみのイベントが勢ぞろいしているのである。
ふだんは別々の日程で参加をしないといけない部活たちが1日で体験できるという、超おトクな会なのだ。
しかも、食べ放題・飲み放題付きで!!

スタッフみずからも楽しみにしており、鼻息を荒くしているのが、この「大お花見大会」なのである。

だが忘れてはならない。
花見は、おこなわれる当日が大事なのではない。

ないがしろにしては元も子もない、という、これまた伝統の恒例行事が存在するのである。
これをおこなわなければ、花見の開催すら危うい。
最大で50名様にもなるお客様に、会わせる顔がない。

たとえば愛の告白の瞬間を至上最高のものにするためには、落ち合ってから何をし、どんな話をし、どういったレストランでどんな雰囲気で食事をし、そのあとどんなシチュエーションに連れて行くか(しかもそれを計算と見せないような自然な流れで)、そしてどんな話の流れの持っていき方で告白の話を切り出すかーーーそれこそが重要なファクターになるのと同じように、すべては事前に決まるのである。

地味にして、しかし最大のミッション。
この戦が、華であるお昼のお花見を有利に戦うための、重要な決戦なのだ。

2016年の3月某日。
その日、我々チーム天狼院は、決戦の地にいざ赴かんとしていた。
スタッフは私も含め2名、店主・三浦も一緒だ。

それを持って電車に乗るのはいささか大きすぎるであろう、というリュックを背中に背負う。
手には、フル充電になったMacbook Airが入ったバッグ。
足元はスニーカー、動きやすいようなパンツスタイル。
昨日はきちんと睡眠をとっておいてある。

都電の車内でそそがれる好奇な目はいっさい気にせず、われわれは決戦の地へと急いだ。
じゅうぶんに余裕をもってきているにもかかわらず、焦る気持ちを抑えられなかった。
到着するやいなや、一般家庭のリビングはゆうに入ってしまうだろうというサイズのブルーシートを広げ場所を確保する。幸い、絶好の位置を取ることができた。
ほかにも広げたままになっているブルーシートがちらほら置いてあったが、私たちのほかに人影はなかった。

そう、何を隠そう、われわれにかせられた使命は「お花見の場所取り」であったわけだ。

無事、場所も確保できた。
公園には、ほかに人もいない。
ふつうなら、これで終了してもいいはずである。

しかし、ここは天狼院だった。
場所取りひとつにせよ、ただで終わるわけがない。

大きすぎるリュックの中から取り出したのは、頭まですっぽり入れる寝袋。
両手にかついできたのは、体の下に敷くためのマット。
無線Wi-Fiのルータに電源を入れると、店主・三浦がおもむろにMacbook Airを開き、宣言した。

「ここを、天狼院・飛鳥山臨時オフィスとする!」

「野宿しながら、朝まで仕事を片付けてしまおう!〜朝まで売上100万円〜」

これが、チーム天狼院の裏ミッションだった。

花見の場所取りをするんなら、どうせだったら、なんか楽しいからその場所で仕事しちゃえばいーじゃん、パソコンとWi-Fiあればどこでも仕事できるんだし!
寝袋あれば大丈夫だよね、そんな寒くないし。
あっ、どうせ夜やるんなら、お菓子買い込んで食べながらやろーぜ!

こんな軽いノリで、3名で場所取りをすることになり、意気揚々と臨時オフィスは開かれた。

「ここで朝まで仕事しまーす!」

公園の電灯の下、3人の姿だけが照らされた。
暗闇の中パソコンをカタカタしている姿は、まるで何かのスパイだなとちょっと楽しくなった。

新しくはじまるゼミやイベントを練ったり、戦略を立てていると、夜の寒さもほとんど気にならなかった。
全身すっぽりと寝袋に覆われながら、手だけひょこっと出してキーボードを打った。
案外、どんな環境でも集中できるもんだな、と感心した。
さらには道中、餃子の王将や、スーパーでのお惣菜を買い込んでいたので、夜に外で食べる食事の背徳感がたまらなかった。

あれ? これ、案外いけるんじゃん、野外臨時オフィス。
非日常の空間は、なんだかますます楽しくなってきていた。
危惧していた寒さも、そうでもない。
このままひと仕事終わらせちゃおうー! と、キーボードを叩くスピードに拍車がかかった。

すでに異変が起き始めていたことを、そのときの私は知る由もなかった。

「……いったん区切りついたんで、ちょっと仮眠しますねー」

臨時オフィスを開いて数時間、公園の時計も2時半を回るころには、さすがにまぶたが重くなってきていた。
まあ明日の花見が本番だし、と、ここらで睡眠をとることにした。

寝袋からにゅっと出していた手をひっこめて、現界まで寝袋のチャックを上げた。
ほかの2名も同じように寝る体制に入った。寝袋3つが、だだっ広いブルーシートの上に点々と転がった。

「では、おやすみなさーい」

「おやすみなさーい」

頭の下にタオルを敷いて横になっていると、ほどなくして眠気が襲ってきた。
ああ、明日のお花見は、成功するといいなあ……
そんなふうに願いながら、やってきた眠気に身を任せようとしていた。

していたのである。

……が。

おかしいのだ。
どう考えても、おかしいのである。

まったく、眠れないのだ。
あれだけ眠気が襲ってきていたのにもかかわらず。

それもそのはずだった。
眠りを邪魔するものの存在があったのだ。

最初は、ただの気のせいだと思っていた。
しかしその違和感は、時間が経つにつれ徐々に無視できなくなっていった。
外部から私を痛めつけてきたのだ。
私は寝袋の中で身を大きくよじらせ対抗しようとした。
けれどその存在は私の動きに対抗するかのごとく、どんどんと大きくなっていった。
ガタガタ震えながら、私は寝袋の中でその痛みを耐えた。

こんな思いをしているのは自分だけなのかと、周りを確認しようとしたが、なす術はなかった。
頭の上まで寝袋のチャックを閉め、すっぽりと覆われているものだから、ここを少しでも開けようものならそいつに一網打尽にされることは分かっていた。
生身の身体に直接ダメージを受けることは、致命傷になりかねない。
だから、私のできることといったら身をよじることくらいだった。それでできる限りの抵抗をしていた。

完全に油断していた。あなどっていた。
どうして気がつかなかったのだろう?

……いや、正直なところ、気づこうとしていなかっただけかもしれない。
本当は、この決戦の地に到着した最初のほうで、そいつの存在にはなんとなく感づいていた。
もしかしたら危ないかもしれないな、と思っていた。
けれどそれを認めてしまったらこのミッションに来た意味がないと思って、見ないことにした。

耐えること数時間。
ときどき眠りの世界に行けそうな瞬間がやってきたが、すかさず奴がやってきて、私を起こしていった。

気がつけば空はだんだん白んできていたようだった。
朝を告げる鳥の声を耳にし、朝になってしまったことを悟った。
ここから動く気力はもはや残っていなかった。

私は、最大に後悔していた。

東京は恐ろしいところだ。
どうしてもっと、こうなることを予想していなかったのだろう?
この地に野宿するにあたって、完全防備をしてこなかったのだろう?
そもそもーーー

「わっ!!!!! ちょ……怖っ!!(爆笑)」

とつぜんの笑い声に、目が覚めた。
どうやら、後悔の念を巡らせているうちに、いつの間にか眠っていたらしい。
よく知っている声だった。

締め切っていた寝袋のチャックを開けると、スタッフの山中が、爆笑しながらそこに立っている。
時計を見ると、朝の7時だった。

終わった。
ようやく、長い戦いが終わったのだーーー

「な゛っち゛ゃん゛……」

涙声の私をよそに、スタッフ山中の爆笑は、なかなかおさまらなかった。

無理もない。
そのときの私たちのようすは、それほどまでに凄惨なものだったからだ。

われわれを襲ったのは、まだ底冷えする3月の夜の寒さだった。

現場に到着していた際には、私は実はちょっと気付いていた。けれど気付いていないふりをした。
それを口に出すことは、この計画自体の破綻を意味していたからだ。

「おやすみなさーい」と眠りにつこうとしたときも、正直、あ、これ多分やばいわと思っていた。
けれどまあ寝袋を頭までかぶったらなんとかなるっしょ、と悠長に構えていた。
それが間違いだった。

いざ横になって眠りにつこうとじっとしていると、寒さが急に100倍くらいになって襲ってきたのだ。
3月の夜の寒さというのは、黙ったままの物体に容赦しないのだった。

やばい。凍死する。

私は死を悟った。

寝袋の、とにかく隙間という隙間をふさぎまくった。
少しでも外気に触れてしまうと、体温が一気に奪われてしまいそうなくらい底冷えしていた。

途中から、無理やりにでも体を小刻みに震わさざるを得なかった。
少しでも熱を生み出そうと、私は必死に震えていた。

会いたくて震える、というのは聞いたことがある。しかし、まさか眠りたくて震えることになるとは誰が想像しただろうか?
しかし、つま先から頭の先まで襲ってくる寒さは、そんな震えではとうてい跳ね除けられるものではなかった。

あれ、花見というものは、こんなに小刻みに震える経験を経なければ参加できないものだっただろうか?

というか、そもそも、競合がいない時点で、この場所取りオールナイトは、果たして意味があったのだろうか?

ブルーシートだけ置いて帰ればよかったんじゃないか……?

そもそもの疑問を抱きながら、一晩中ひたすら震えに震え、震えつづけた。

そうして一晩かけてできあがったのが、チーム天狼院のミイラ3体である。

(撮影:スタッフ山中)

山中は、朝早く入れ替わりで場所取りをする予定になっていた。
到着してみると、ほかに誰もいない公園のブルーシートの上で、寝袋が3体転がり、うごめいているのをみて、「死体がいる」と思ったらしい。

朝になったころ、私たちの体は芯まで冷え切っていた。
着ていた服でさえ、凍えきっていた。
寝袋に横になっていた姿からゆっくりと立ち上がるようすは、ひん死の状態でなお、なんとか生にしがみつこうとする芋虫のようだったらしい。
いや、笑いごとじゃなかったんだって!! と山中に反論を試みたが、写真を見て、納得せざるを得なかった。場所取りに出かけたときの意気揚々とした勢いはどこへ。

ああ、せっかく花見の席に来たというのに。
早くこの服を脱ぎ捨てて、家に帰って、あったかい湯船に頭から浸かってしまいたかった。
本来ならば、もっと重装備で臨むべき場所だったのだ。

決死の場所取りの甲斐あって、その日の天狼院・大お花見大会は、盛況に終わった。
なんと、小説家養成ゼミで以前ゲストに来ていただいたことのある、小説家の先生もお花見の席にいらっしゃった。
幸い、私たちの誰も風邪をひかなかった。
それどころか、1回家に帰ってお風呂に入ったら、ピンピンしていた。
何より、楽しんでいるお客様の顔を見れば、寒さはいつの間にかどこかへ行っていた。

そうなのだ、天狼院の花見は、ふだんなかなか味わえない豪華さを1日で楽しめるのである。
それが叶えられたとすれば、私たちがあれだけ震えていたなんて事実は本当にちっぽけで、どうでもいいことなのだ。

……どうでもいいこと、なのだが。
あんなに震えながら夜を明かすなんて出来事は、必要がないのなら……いや、できる限り……いや、もう2度と、ごめんである。

1年後、2017年・春。
はじめて京都の鴨川のほとりでおこなう「お花見大会」の場所取りを「当日の朝から」に予定しているのは、言うまでもないことである。

 

* * *

4/8(土)京都天狼院「大お花見大会」開催が決定しました!!
京都では、はじめての開催になります! 鴨川のほとりにておこないます!

1日のうちに、こんなにも多くの部活やイベントが集結するという機会もなかなかありません。お花見に参加するだけで、一気に天狼院のことを知っていただけます!
途中参加・途中抜けも大丈夫です! お好きな時からお気軽にご参加いただけます。
鴨川沿いの桜の下で、京都の春を、とにかく楽しみ尽くしちゃいます!

飲める人は、朝から飲みましょう!!笑
どなた様もお気軽にご参加くださいね。この日は、宴じゃ〜!

【京都4/8(土) 天狼院の大お花見大会】春だ!花見だ!天狼院だ!鴨川沿いの桜の下でイベント大集合の1日「天狼院大お花見大会」!《途中参加OK/初参加大歓迎/どなたでもお気軽にご参加ください》

【京都天狼院「お花見大会」概要】

日時:2017年4月8日(土)10:30〜18:00
場所:京都天狼院近くの鴨川沿い 河川敷
*詳しい場所は、当日までご案内メールにてお知らせいたします。
*場所取りができましたら天狼院の店頭・HP・Facebookでお知らせいたしますので、飛び入りでご参加される方はそちらをご参照ください。
*当日場所がわからない場合は、京都天狼院(075-708-3930)までお問い合わせください。ご案内します。
参加費:5,000円(食事代+ドリンク代+イベント参加費込)
    【プラチナクラス会員の方】4,500円(食事代+ドリンク代+部活参加費込)
*一律料金ですべてのイベントに参加していただけます。
*店頭およびPeatixでの事前決済制です。
*すべての部活に参加いただいても大丈夫です。
*どこから参加してもどこまでいても大丈夫です。
*差し入れ、大歓迎です。
定員:できうる限り受け入れます!

【ご参加方法】
《①:Peatixでのインターネットチケットお申し込み》

《②:3月中受付早割り特典/コーヒーチケット(360円相当)付き》
*以下の「今すぐ購入する」ボタンからPaypalにて3月中にお申し込みいただきますと、早割り特典として、天狼院書店全店で使える360円相当のドリンクチケットをお付けいたします。
*チケットはお花見ご参加当日にお渡しいたします。





《③:会場にて受付ご希望の方》
当日、会場にての受付も可能です。京都天狼院(075-708-3930)までお電話いただくか、
こちらの お問い合せフォーム から、タイトル【4/8 京都お花見大会参加予約】、お名前、メールアドレスを明記の上メッセージをお送りください。
*当日、会場のご案内のご連絡をさせていただくため、できるだけ事前に参加予約を入れていただきますようお願いいたします。

プログラム:
◯10:30 開会のあいさつ
◯11:00〜12:00 ファナティック読書会【お花見Ver.】
◯12:00〜13:00 京都グルメミーティング
◯13:00〜14:30 フォト部スペシャル/講師:プロカメラマン川上哲平氏
◯14:30〜16:00 天狼院リアルタイムクイズ/京都天狼院、初・開・催!
◯16:00〜17:30  桜の下でアナログゲーム大会!
◯17:30〜18:00 閉会式

【雨天の場合】 京都天狼院にて開催します。花見で出す予定の食事をそのままお出しします。 また、予定のプログラムをそのまま天狼院の店内にて開催します。 *雨天の場合の変更は、前日20時までに天狼院の店頭・HP・Facebookページでお知らせいたします。

 

《そして東京でも、同じ日に、お花見が開催されますよ!》

【東京4/8(土)】お花見天狼院2017〜天狼院のイベントが大集合の1日!フリードリンク&食事付き〜《入退出自由/初めての方、お一人の方、大歓迎》

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805
京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:075-708-3930(京都天狼院)

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