チーム天狼院

「ブラック企業」と呼ばれる会社で働く私が、その実態についてそろそろお話しようと思う。


「は? なにそれ、めっちゃブラックじゃん!」
この言葉を、今までどれくらいの人に言われてきただろう。
今年で31歳になる私は、その社会人生活のほとんどを、いわゆる「ブラック」と呼ばれる職場で過ごしてきた。もちろん、今も。

大学院を卒業し、最初に入った会社は全国チェーンのドラッグストアだった。
完全シフト制、残業なし、有給消化率80%。
そんな文言に惹かれ、「自分の時間をきちんと取れそうだ」という理由から応募したように記憶している。
しかし、入社してすぐに後悔した。
完全シフト制というのは「こっちでシフトを全部決めるから、希望とか出しても通らないからね。あと、こっちの都合で勝手に変更するけど絶対に休んだらダメだからね。シフト出すのは前日とかだけど関係ないからね」という意味で完全だった。
残業がないのは、残業代を計上したら店長が降格になるため、全員の退勤時間を店長が定時に変更しているからだった。
有給を使って休日出勤する社員も多く、シフトとシフトの間で息継ぎをするような休日にうんざりした。
原付に乗りながら「このまま単独事故すれば、明日仕事に行かなくて済む」と思ったことは何度もあるし、それを先輩社員に話したら「俺もいつも思う!笑」みたいな軽いノリで、本当に誰か死ぬんじゃないかと思っていた。
結局そこは半年頑張ったけれど、1年後の自分すらイメージできず、退職することになった。

それから数年は病院薬剤師として2つの病院で働かせてもらった。決して自分の環境が特殊だったとは思わないが、往々にして医療の現場というのはブラックである。むしろ、ホワイトな職場を探す方が難しいと、現場から離れた今でも思う。
それでも医療の現場が成り立っているのは、スタッフの思いやりと情熱に支えられているからだ。残念ながら、あるとき私はその情熱が薄れてしまった。一風変わった書店に興味を持ってしまったからだ。

そしてここから、私の職歴の中で最もブラックな企業に足を踏み入れることになる。現在働いている『天狼院書店』という本屋だ。
かなり控えめに言って、相当なブラックだと思う。バイトから入って9ヶ月になるが、残念ながらまだ辞めれそうにない。

だいたい、本屋のくせに、本屋以外の業務が多い。
ゼミやイベントなんかをほとんど毎日やっているし、本を売るだけじゃなく雑誌の編集までやらされる。他の店舗のスタッフなんか、気がついたら十数万もするカメラを買わされていたし、私も先日ペンタブを買わざるを得なくなった。

うちがブラックであると言われる理由の一つとして、労働時間という概念がないことが挙げられる。もちろん、アルバイトスタッフは時給が発生しているが、契約社員以上の者については時間の制約がない。
仕事が終われば帰っても良いのだが、ずっと働こうと思えば働けてしまう。だいたい、どこからどこまでが仕事なのか定かではない。店の片付けやゼミの連絡、お問い合わせへの返信などをしていると、いつのまにか日を跨いでいることも多い。残念ながら、店で朝を迎えた回数は、もはやカウントできない。店に来なかった日が、この9ヶ月間で2日だけだったのは覚えているけれども。

天狼院には「プラチナクラス」というイカれたシステムがある。もしかしたらこれを読んでいる方の中にも、プラチナクラス会員の方がいるかもしれない。だとすると、その異常さはご理解いただけるだろう。
月額会費を支払う代わりに、ゼミもイベントも参加費が半額になるというものだ。このサービスを始めるときに「3割引と半額、どっちがいいですか?」とお客様に社長がきいたらしい。それで「3割引でいいです」なんて人、いるだろうか。もちろん全会一致で半額になった。
でも、冷静に考えて欲しい。半額は、どう考えてもやりすぎだ。
例えば月3万円のゼミを受けようとしたとき、プラチナクラスの会費1万円を払えばゼミは1万5千円になる。月会費と合わせても2万5千円。「入ります!」というだけで5千円安くなる。さらに、他のゼミも、イベントも、半額だ。
入会するのに資格などはない上に、その日から適用される。
しかも、月会費1万円分を、7月から実質無料にしろと言い出した。会費と同じ額の分だけ、動画コンテンツをつけるらしい。初月だけではない、毎月だ。
本当ならば売り上げになるはずだったものが、どんどん半額、無料になっていく。この恐ろしいシステムがある限り、売り上げ目標なんて達成できるはずがない。達成しなければ、もちろん昇給などあり得ない。

どうだろう。実に矛盾したシステムの中で、運営を強要されている。そんな気持ちを知ってのことなのか、私はこの4月から「プラチナクラス担当」に任命されてしまった。

なのになぜ、辞めないのか。
理由は簡単だ。辞められないのだ。

それは、人がいないという理由もあるかもしれない。
正直なところ私は仕事ができる方の人間ではないし、代わりなんていくらでもいると思う。私ひとりいなくなったところで、この会社には大した損失にならないだろう。でも、辞められない、辞めたくないのだ。

この際だから言ってしまうが、拘束時間をみてすぐ「ブラック」だの「ホワイト」だのという人が苦手だ。白黒つけたがる性格なのか、世界がモノクロにしか見えていないのかはわからない。でも、もっと他にも色はあるんじゃないのかと思う。

控えめに言って、仕事は楽しくて仕方がない。
確かに体力的にキツい時もある。この記事を書くことも仕事とみなすならば、残念ながら営業が終わった深夜に書いているのだから、普通に考えれば時間外労働だろう。ぶっちゃけ、家に帰りたい。帰りたいけれど、まだまだ今日のうちにやりたいことがあって、帰れない。
この会社はそこかしこに可能性のかけらが散らばっていて、それを拾い集めるのに、毎日必死になってしまうのだ。
本のセレクトや陳列ひとつとっても、もっとワクワクしてもらえる仕掛けを作りたいと思うし、常に居心地のいいお店でありたい。
ゼミの受講生の方が、スキルを身につけてどんどん変わっていく姿を間近でみられるのは嬉しいし、運営しているこっちの方が勇気付けられる。
メディアグランプリの記事を読むときは、宝探しのような気分になる。この中に、バズる記事がもしかしたらあるのかもしれない。そう思うと、スクロールする手を止められず、気づけば毎週ほとんどの記事を読み尽くしている。
そんなことをしているから、仕事が終わらない。終わらないけど、面白いのだから仕方ない。読むことを、拒めないのだ。

そう。ひとつひとつの仕事は、それぞれ鮮やかな色を持つ光のようで、その光の指し示す未来を想像すると、私はそれから目を話すことができない。だとすると、それらが重なり合う部分は、まるで赤・緑・青の光を混合したような、まばゆい白となるのではないだろうか。
きっとそれは、単色の白い光では全く異なる意味での「ホワイト」になるだろう。

もしこれが、可能性という光の見えない仕事だったとしたら……
たとえ色鮮やかであっても、そのフィルターを通して未来が見えるだろうか。重なれば重なるほど、その向こう側が見えにくくなり、いつのまにか暗闇にいるなんてことになりかねない。
「ブラックだな」と感じるならば、ここに原因があるように思えてならない。

 

これを書いている途中で、少しうたた寝をしてしまった。いま、朝日を浴びながらこの文を書いている。もちろん、店のコタツの上でだ。
きっとこれを書き終えたら、昨日ご来店いただいた方にお礼のメッセージを入れるだろう。そのあとは、最近課題を提出できていない方へメッセージ。

「いつもお世話になっております。最近、課題のご提出ができていないようでしたので、気になってご連絡差し上げました。先日の講義動画の方は、ご覧いただけましたでしょうか……」

また始まる1日を、ブラックにするのかホワイトにするのか。
色とりどりの光に囲まれている今の仕事なら、自分自身の手で選んでいくことができる気がしてならない。
残念ながらこの会社、まだ当分は辞められそうにない。

 

記事:永井里枝

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