戦争を乗り越えた世代には勝てない
記事:櫻井るみ(ライティング・ゼミ)
先日、まるでテロか災害が起こったかのような深刻さで伝えられたニュース。
国民的アイドルSMAPの解散報道。
確かに驚いた。
「まさか……」と思った。
私は嵐が好きなので関係ないと言えば関係ないのだが、それでもやっぱり驚いた。
次々と明らかになる情報。
SMAPを育てた女性マネージャーと事務所側の対立。
独立騒動。
解散。
残留。
分裂。
謝罪。
毎日毎日それはもう大事件のように報道されている。
でも、SMAP解散の第一報以後、私が本当に驚いたのは別のことだった。
ジャニー喜多川社長(84)。
メリー喜多川副社長(89)。
80代!?
騒動の中心にいるとされている幹部の方はけっこうな高齢だった。
お二人の年齢を見て、こう思った。
「あー……、そりゃあ、勝てないよね」
私は、戦中・戦後を生き抜いた世代には勝てないと思っている。
だって、考えてもみて?
爆弾の雨の中を逃げ惑いながらも、生き延びたんだよ?
戦争が終わって、何もなくなった、ただの焼け野原になってしまった街を0から作り直した人達だよ?
勝てるわけがない。
「生命力」が違うもの。
「生きたい」って思う気持ちが全然違うもの。
私が「絶対勝てない」と思った、一番身近な相手は、父方の祖父と母方の祖母である。
私には祖父の記憶がない。
父方の祖父は私が幼い頃に亡くなってしまったし、母方の祖父はいなかった。
父方の祖父について、私が知っていることは少ない。
食道癌で亡くなったこと。
学校の用務員のような仕事をしていたこと。
酒豪なこと。
髪が多くて、黒々としていたこと。
私の黒々としたくせっ毛とお酒に強いところは祖父からきているらしい。
そして、私にとって一番大きい祖父のエピソードはシベリア帰りであること。
その話を聞いたとき、何故か思い出話の中のぼんやりとしたイメージしか持てなかった祖父に、急に現実的なイメージがついた。
父は戦後生まれだから、祖父がシベリアから無事に帰ってこられなければ、私は生まれていなかった。
祖父がシベリアから早く帰国できたことが、私の命に繋がっているのだと思うと、私はとても幸運だと思うし、何だか良く分からないけど生命の神秘のような、運命の神秘のようなものを感じた。
もし祖父がシベリアで亡くなっていたなら、私はいなかったのだから。
だから私は、自分の家族やルーツの話になると、必ず「シベリア帰りで酒豪の祖父」の話をする。
そんな父方の祖父に対し、母方の祖父はいなかった。
こうして私が生まれているのだから、いないわけがない。
おかしな表現だけれども、私の中で母方の祖父は「いない」のだ。
母方の祖母とは一緒に暮らしていた。
我が家は共働きだったので、私は祖母に育ててもらったのだ。
祖母はいるけど、祖父はいない。
幼かった私は、単純に「おじいちゃんは亡くなっている」と思っていた。
だって、いないのだから。
何の疑いもなくそう思っていた。
さすがにそうではないだろうということに気付き始めたのは大人になってからだ。
一度、母に祖父の死因を聞いたことがある。
母は「知らない」と言った。
そんなわけないだろうともう一度聞いた。
母は「本当に知らない。おばあちゃんはそういうことを話したがらなかった」と言った。
疑問が大きくなった。
祖父が亡くなったのは母が18歳の時だと聞いている。
記憶がなくなるくらい幼かったわけではないし、自然死ではなかったとしても理解できない年齢ではない。
答えは結婚した時に分かった。
入籍するために取り寄せた戸籍謄本。
母の父、つまり私にとって母方の祖父の名が記載されている場所は空欄だった。
祖母はシングルマザーだったのだ。
今でこそシングルマザーという言葉もでき、一人で子供を育てている女性も珍しくはなくあったが、終戦直後の当時はどうだったのだろう。
その当時の祖母のことを考えると、何とも言えない気持ちになる。
祖母は私が小学5年生の時に亡くなった。
私も大人になった。
大人というか、年齢的にはもう中年である。
大人になって、結婚して、新しい家庭を築いて……。
そうしてやっと祖母や母の偉大さが分かった。
私には子供はいない。
いないけれども、仕事して帰ってきてから家事をやることがどれだけしんどいか。
働く母を支え、わがままな私と姉を育て、尚且つ家事を一手に引き受けていた祖母がどれだけ大変だったか。
本当に頭が下がる。感謝しかない。
だから私は、戦争を乗り越えた強く逞しい世代には勝てないと思うのだ。
40も手前になって、未だに私は思い悩むことが多い。
祖父や祖母のように強く生きているとは到底思えない。
だけれども、それでも私は大丈夫だと思えるのだ。
だって、私には、シベリアから帰還した酒豪の祖父と、戦後の混乱期にシングルマザーで母を育て上げた祖母の強く逞しい遺伝子と血が入っているのだから。
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