【27歳のリアル】私が天狼院で文章を書いてこなかった本当の理由《ねえさんのカルテ》
「ねえさん」
バイト先の天狼院書店で呼ばれる、私のあだ名である。
天狼院のスタッフやインターンはそのほとんどが大学生であり、徹夜明けの肌がのっぴきならない状態になり始めた27歳の私は、彼女たちからすれば確かに「ねえさん」だ。何故か私より年上の、店主の三浦さんにまで「ねえさん」と呼ばれてはいるが。
「ねえさん」
こう呼ばれると、どこかくすぐったくて嬉しい反面、見えない線を引かれたような気がしていた。大学生の彼女たちと、27歳の自分。そこには、見えない壁があった。
彼女たちは皆それぞれ、将来への不安やコンプレックスを抱え、天狼院という場所で足掻いていた。どうにかして輝きたいと、必死にもがき苦しみながら、前に進んでいた。
その姿が、私にはキラキラと輝いてみえた。純粋で、どこまでもまっすぐなその光が私には眩しかった。羨ましかった。もっと言ってしまえば、妬ましかった。彼女たちの眩さに、私は嫉妬していた。
天狼院にやってくるスタッフやインターンの大半は、本人の胸の内に隠れた“夢”や“才能”を持っている。
例えば、先日卒業した川代紗生は「作家になりたい」という心の奥底に閉まっていた夢を、三浦さんに見いだされた。
次世代エースとして現在活躍中の山本海鈴は、オールマイティな才能を開花させている。
「なっちゃん店長」と呼び親しまれる山中菜摘は、様々な方から愛され、さらには人をやる気にさせる、実に不思議な魅力を持ち合わせている。
そんな彼女たちを、私はずっと見てきた。
彼女たちの頑張りを、傍で見続けてきた。
三浦さんと二人で話すとき、会話の内容はほとんどスタッフについてだった。
「ねえさん、どうしてわかったの?」
私がスタッフに対しての見解を話すと、大抵三浦さんにこう聞かれた。
僕もそう思っててさ、と三浦さんは私の話に頷く。
どうしてわかるかなんて当たり前だった。
私はずっと、彼女たちを見続けてきたのだ。
そう、リングの外の観客席で。
彼女たちと同じ土俵には上がらず、ただ観客席で見守っている“傍観者”。
「ねえさん」という肩書きは、実に着心地の良い鎧だった。
キラキラと眩しい彼女たちに勝てる見込みなど無いと、勝負することから逃げた私の、ちっぽけなプライドを守る盾でもあった。
「ねえさん」
そう呼ばれる度に、見えない線を引いていたのは私だった。
彼女たちと比べられることに怯えて、必死に壁を作っていたのは私の方だった。
怖かったのだ。
彼女たちの溢れ出るパワーに、「敵わない」と認めることが怖かった。
彼女たちに負けることが、どうしても怖かった。
だから逃げていたのだ。同じ土俵に立つことから、ずっと逃げてきた。
逃げて、逃げて、今日まで来た。
そして私は今、転職活動の真っ最中である。
大学生とは違い、就職が決まればすぐにこの天狼院を卒業しなくてはならなくなる。
天狼院には、春から新しいスタッフも入ってきた。どの子もまた、羨ましいくらいに輝いている。いや、これからもっと輝きを増していくだろう。
新人だから、と甘えることなく、必死に喰らいつこうとしている、計り知れないパワーを秘めた子たちだ。きっと大きく羽ばたく。
ふと、思った。
私は、このまま逃げて終わるのか、と。
この天狼院で、何も変えられずに終わるのか。ただただ、彼女たちの若さを、パワーを、眩しさを羨んで終わるのか。
嫌だ。そんなのは、嫌。
元来、負けず嫌いな私の、心の奥で何かが弾けた。
本当はずっと、その線の内側に入りたかった。
自分自身が引いた線の外側から、戦う彼女たちの姿を見てきた。
本当はずっと、一緒に戦いたかった。
同じ土俵で、同じ目線で、彼女たちと接したかった。
本当はずっと、彼女たちのように輝きたかった。
線の外側ではなく、彼女たちの隣で。
そして私は今、一本の見えない線の前に立っている。
これを越えればきっと、抱えきれないほどの悔しさに涙で枕を濡らす日もあるだろう。
どうしようもなく、自分の無力さに打ちひしがれるときもあるだろう。
それでも私は、その線の内側に行きたい。
そう、強く思っている。
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