東京のつまらない電車の移動時間を面白くする方法《サクッと読める!「旅本」ベスト》
わたしが、上京して初めて違和感を覚えたのは電車の中だった。通学中に電車で見るのはスマホでゲームをしたり、メールを送ったり、SNSを見たりしている人たちばっかり。当然のことながら、周りのひとには全く興味も関心もない。なんて、気持ちの悪い光景だろうと思った。
まるで特売の詰め放題品のようにぎゅうぎゅうに押し込まれ、足を踏んでも踏まれても謝ったり、それに会釈で返したりもしない。
見知らぬひとだから
どうせ、一生会うことはないから
自分の顔なんて覚えていないだろうから
変に関わる方が面倒だ
みんなそう思っているのだろう。
わたしが18年間育ってきた地元には自動改札機がなかったため、毎朝駅員さんに定期券を見せることが当たり前だった。とても小さな駅で利用者は学生が主だったこともあって、駅員さんのおじさんやおばさんはわたしたちの顔を覚えてくれていた。電車に乗り遅れそうになったときは走って車窓さんを止めてくれたり、風邪気味でマスクをつけているとのど飴をくれたりした。大学生になって、たまに帰省したときに会っても「最近、どう?」と優しく声をかけてくれる。
ああ、なんて嬉しいのだろう。そう思う。高校時代、電車はわたしにとって誰かと関わる場所だった。同じ電車というだけで他校の子と友達になったり、髪型を変えたことに気づいてもらえるくらい駅員さんと親しくなったりと、新しい出会いが増えた。
しかし、東京で暮らすようになって、自動改札機を通って通学をするようになった。地元で駅員さんに見せていた紙の定期券はICカードに形を変え、「いってらっしゃい!」という元気な駅員さんの声の代わりに、「ピッ」という無機質な機械音を聞くようになった。そのうち、わたしも電車ではスマホに目をやって周りに関心なんて抱かなくなっていた。
でも、どこかつまらない。どうしてこんなにも面白くないのかと自問自答する毎日。そんなときに、わたしはある本を読んだ。
有川浩「阪急電車」
阪急電車に乗るたくさんのひとを主人公として、物語は進んでいく。それぞれが様々な悩みや思いを抱えながら乗った阪急電車で起こる、心温まる出会いの数々を描いた短編集。
短編集と言えど前作の主人公が次作の脇役で出てきたり、ある物語が別の物語の始めに挿入されていたりと個々の作品中の登場人物たちは、本当は全く関係ないはずなのにどこかで繋がっている。
「阪急電車」では電車というひとつの場所で、登場人物たちがお互いに興味を示して関わりを持っていく。
ああ、これだ。わたしが思い描いていたことがこの本の世界で具現化されている。
もう、電車をただの移動手段として見るのはやめにしよう。電車での出会いを知らないなんてあまりにももったいなさすぎる。少しは周りを見て、興味を持って、関わってみてはどうかだろうか。もっと、電車という空間を楽しくしたらどうだろうか。
赤ちゃん連れのお母さんやお年寄りに席を譲るときは、「どうぞ」と目を見て笑顔で言いたいし、駅員さんには挨拶をしたい。すごく小さなことかもしれないけれど、まずは自分から動こう。そして、退屈な電車の旅路を高校生のときのように楽しいと思えるようになろう。
もし、あなたがどこかに出かける予定があるのなら
もし、それが遠くの場所だったら
なおさら「阪急電車」を読んでほしい。
もし、旅路をただの移動時間だと思っているのなら
ぜひその時間に読んでほしい。
楽しい旅先に着くまでの旅路が
乗っているだけだと思っていた電車やバスの時間が
今まで見ていた世界観が
きっと、変わる。
*文庫本で且つ短編集なので、短時間で読み切ることができますよ!
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