ポウ活のすゝめ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:田盛稚佳子(ライティング・ゼミNEO)
包まれ隊員No.8、これは私がプライベートで使う肩書きの一つである。
果たして一体、何のために使うのか。
一時期話題になった音声アプリのクラブハウスが、最近下火になったと言われている。
開始当初は完全招待制だったため、芸能人や著名人がテレビでは言えないことをクラブハウスで話したりすることがたびたびあった。
その秘密基地的な感じが興味をそそり、既に登録していた友人に招待を受けて始めたのがきっかけである。
しかし、私は下火になったと言われる現在も頻繁に使い続けている。
というのも、クラブハウスに無数にあるルームの中で、包まれたものを愛する人たちの社交場である「包まれ隊」のメンバーの一員だからである。8番目に入隊したのでNo.8というわけだ。
何に包まれた時が幸せか? という問いに各々が考える。
餃子や肉まんなど包まれた食べ物が好きな人、布団に包まれるのが好きな人、あるジャンルの音楽に包まれることが好きな人など、メンバーの好みが異なるのが面白い。
そして、そこから新しい話題が生まれて、会話がどんどん広がっていくのが楽しいのである。一度も顔を合わせたことがないメンバーの人となりが少しずつわかってくる。
ちなみに私は、コンビニに売っている四角いクレープが大好きである。
あれに包まれてみたいともいう密かな願望もあるし、もっちりした食感のクレープ生地と一緒に生クリームやチョコバナナを無心でほおばっている時は、まさに至福の時間である。
たとえ、その日どんなに泣きそうで嫌なことがあっても。
毎朝「包まれ隊」のルームが開いていた時期は、メンバーの声で私の一日は始まっていた。
「おはポウございまーす!」
と元気よく挨拶を交わしては、今日もみんなが起きていることを確認する。
朝の身支度をしながら、ひとしきり話し笑ってから出勤するのである。
そして、ルームが終わる時には
「ハブ・ア・ナイスポウ!」
とお互いの一日にエールを送っていた。朝が清々しく始まるのはなんと健康的なことか。
クラブハウスは音声アプリなので、当然顔を見ることはできない。
しかし、人間は不思議なもので、毎日のようにメンバーの声を聞いていると、ちょっとした不調がわかるようになってくるのである。
「あれ? 今日は少し元気がないな」とか「何か嫌なことがあったのかな」とわかると、お互いが心配しつつ会話をする。
実際、私も何度か
「今日はお腹に力が入ってない感じの声だけど、なんかあった? 体調悪い?」
と言われることがあった。そういう時はたいていお腹を下しがちだったり、仕事がうまくいかなかった時のことだ。自分では何事もないように振るまっていても、他の人はその声で感じ取ることができてしまうのだ。
人の声というものは嘘がつけそうで、一番嘘がつけないものだとわかった。
私がこの「包まれ隊」に入ってから二つの発見があった。
一つは語尾に「ポウ」をつけると、否定的な言葉がマイルドに聞こえてくるということだ。
「嫌なことがあったポウ」
「なんだかしんどいポウ」
「困ったポウ」
そんな会話を交わしていると、いつの間にかポウがルーム中に充満し、笑いに変わる。
さっきまで低空飛行していた自分がバカバカしくなる。笑いすぎて腹筋が痛くなってくる頃には、私はなぜそんなに悩んでたんだろう? まあ、いっかと笑顔に変わっていくようになった。
それが自然と日常生活に浸透し、仕事で嫌なことが起こったときなどは、まずトイレに行き一人でつぶやく。
「はあ、ムカつくポウ……」
そして、トイレの個室で「がんばるポウ! 負けないポウ!」と自分の頬を両手で包んでから、ニコッと口角を上げる。そういうことを繰り返しながら仕事をしていると、次第に気持ちの切り替えがうまくなった。
多少のトラブルにも動じず笑って返せるようになり、おまけに雑談力まで上がったのである。
そしてもう一つ。世の中には、思っている以上に包まれた食べ物が多いことである。
包まれたものを食べることを、仲間うちでは「ポウ活」と呼んでいる。
包まれた食べ物と言えば、餃子などを思い浮かべる方が多いのではないだろうか。
最近ポウ活をしていないなと思っていたある日のこと。ランチになんとなくオムライスを食べ、帰りにデパートの全国うまいもの大会で、めったに買わないいなり寿司が無性に気になって買って帰った。
そのことを「包まれ隊」のメンバーと話していたら、
「それって立派なポウ活ですよ! オムライスは玉子に包まれているし、いなり寿司はお揚げに包まれてるじゃないですか!」
ハッとした。本当だ。知らず知らずのうちに私は包まれたものを口にしていたのである。無意識に選んでいたこと自体が、まさに「ポウ活」だった。
これからも、きっと私は「ポウ活」をしていくだろう。
もしあなたが新しい環境に身を置いていて疲れていたり、行き詰まりそうなときは、心の中でいい。言葉の語尾に「ポウ」をつけてみることをオススメしたい。
そして、何か包まれたものを食べたり、愛でたりすることで、モヤモヤした気持ちを解消すると、仕事や家事も、もう少しがんばってみようという気持ちになれるかもしれない。
いつもメンバーと交わす挨拶を、読んでくださっているあなたにも送りたいと思う。
「ハブ・ア・ナイスポウ!」
***
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