新しい下着を買うときの女の気持ちって、みんな、こうなんですか?《海鈴のアイデア帳》
天狼院書店の山本です。
あー、今日もダメだった……。
心臓は、まだちょっとバクバクしている。
今回も、負けてしまった。
平気な顔で乗り越えようと思ったのに。
これは、わたしだけなのだろうか?
わたしは、もう子供ではない。
女性としての下着も何年も身につけてきているはずだ。いつも肌身離さず着けている胸のあたりのコイツらに対して、ふだんは特別な感情をいっさい覚えたりしない。
だのに、だ。
新しいヤツらを買いに行くときだけ、変な気持ちになる。
どうしてこんなにダメなんだ?
なんで、下着売り場に行くと、毎回こんなにドキドキしてしまうんだろう?
デザインも可愛くて、肌によさそうなファブリックなものが多く売っている売り場だったとしても、この気持ちは隠しきれない。
ふたつの膨らみが所狭しと並んでいるのは、なんだか、圧巻である。
売り場に足を踏み入れる瞬間、わたしはゴクリと喉を鳴らす。
入っていけない場所に入っているような気がして、周りの目線が異様に気になる。「いらっしゃいませー」という店員さんの声にも、ビクッと反応してしまう。
いちばん厄介なのが、「試着」というプロセスだ。
胸のソイツは、自分にぴったりのサイズでないといけないわけで。
形・ボリューム・つけ心地を入念に確認し
「よし。これで肌身離さず着けててもだいじょうぶ」
と厳しい審査をくぐり抜けた猛者しか、レジを通ることはできないのだ。
だって、家に帰ってからつけ心地が悪すぎて、そいつは二度と日の目を見なかった、なんて展開になるのは、愚の骨頂である。
「買うなら、ちゃんと測ってもらったほうがいいですよ」
なんか新しいの買いたくなってきた、とぼやくわたしに、ある方がアドバイスをくれた。
「測ってもらったら、自分が想定していたサイズより実際は大きいことがあったりするんです。自分に合っているものを選ぶには、やっぱり売り場で測ったほうがいいと思うんですよ」
そんな助言を思い出し、わたしは、おそるおそる、下着売り場の店員さんに声を掛ける。
「すみません、これ、試着したいんですけど……」
ああ、言ってしまった。
もうあとには戻れない。
一向に慣れやしない、この試着という作業。
これ以上の緊張はない。
というか、変な気を起こしそうになる。
こちらへどうぞ、と試着室へうながされる。
では、お入りください。
恥ずかしいのが悟られないよう、できるだけ平静に「あ、はい」などと返事を返すが、ちゃんと隠しきれているか自信がない。
それでは、脱いでくださいね。
うっ、と一瞬思うが、もうここまできたら後には戻れない。
しぶしぶ、キャミソール1枚になる。
では、手をあげて、後ろを向いてください。
きた。この感じ。
店員さんの手が、脇の下から伸びてくる。
ああ、やっぱりだめだ。
だから新しい下着を買うのって、嫌なんだ。
だって、試着室という狭い密室で、女性の店員さんとふたり、肌がくっつくかくっつかないかの距離で、サイズを……それも、胸のサイズを、だ。測ってもらうのだ。
変な気を起こさない人がいるのだろうか? というくらいの、異様な状態だ。
日常生活だったら、まず起こり得ないシチュエーションだ。
だって、よく知っている人だったらまだしも、その場で初めて会った店員さんの手によって、測ってもらうなんて、これは、耐えられる人はいるのだろうか?
しかも、初めて会った人に、自分のサイズを知られるだなんてこれはちょっとどうなんだろう。
胸の測り方だって、ポイントがあるはずだ。どういう風にすれば正しい測り方なのかっていうのは、下着売り場の店員さんは知り尽くしているのは間違いない。けれど、プライバシー的に、どうしても知られたくないし、人にやってほしくないという人は、サイズを測るのは自分でやるしかないのだろうか。
しかしわたしは体が柔らかくないし、自分でやろうとするとどうしても上手く測れない。メジャーが弛んでしまう。
それでも人にやってもらうのはどうしても嫌な人は、自分の正しいサイズを知らずに一生を終えてしまうのだろうか。
それとも、こんなにドキドキしているのは、人に胸のサイズを測ってもらうことにわたしが慣れていないだけなのだろうか? 世の中の多くの女性は、どういう気持ちでいるんだろうか?
はい、測りまーす、ぺろーん、はい、Cカップですねー、はーい、という、さも当然な流れで、この作業をおこなっているのだろうか?
だって、彼女はいたって冷静だ。もちろん仕事だからこれを毎日何回もやっているわけだろうが、それにしてもあまりにも普通すぎる。
みんながみんな緊張しているのなら、もう少し「あ、皆さん緊張されますよねー、こんな密着するだなんて(笑)」とか言って気をゆるめてくれればいいのだ。けれど可愛い下着売り場の店員さんは、「息をするのと同じくらいに、胸のサイズを測るのも当然のことなんですよー」というスタンスで迫ってくるのだ。
可愛い店員さんの息とかが良い匂いとかが首あたりに当たりそうな距離で、しかもこんな密室で、わたしはなすすべもなく手を上に上げている無防備な状態で、「変な気を起こすな」というほうが難しいのではないだろうか?
しかし、店員さんの態度を見る限り、世の中の女性は、下着の試着をするときここまで緊張するなんてことはあまりないのではないだろうか?
もしそうなのだとしたら、ここで一人でドキドキしているわたしは、逆にとてつもなく恥ずかしい存在なのではないだろうか?
わたし、これ、大丈夫なのか?
いいのか、わたし? ねえ、どうなの、これ?
「……はい。終わりましたんで、もう大丈夫です」
店員さんの細い腕が、脇の下からするっと抜けていく。
ふうう、と、思わず心から安堵のため息が出る。全身から力が抜ける。
終わった。やっと終わった。
けど、わたしのひたいには冷や汗が浮き出ていたし、試着室の密室には、異様な熱気が立ち込めたままだった。
冷静に、顔色ひとつ変えず、下着を買うーーー
長年のミッションは、今回も果たされることはなかったなあ、と、レジで会計をしながら思う。
新しくてぴっかぴかの下着からみなぎる、これでもかというくらいの自信。
そして、店員さんの目。
わたしは勝手に、知らない人の目に、品定めをされているのだと思い込んでいるのかもしれない。
お会計をしながら、ふと、思った。
それに打ち勝つくらい、自分を磨き上げて、「ふふん、これくらい何てことないのよ」と鼻で笑えるくらいの女性になれれば、こんな緊張は、もしかすると感じなくなるのかもしれない。
どういうものが大人になるということなのか、分からないけれど、少なくとも、下着売り場で緊張しているうちは、まだまだ自分のイメージする大人にはなれそうにもない。
きっと、このプロセスに緊張しなくなるということが、「大人の女」になるということなのかもしれないな。
下着を買うとは、まさに「大人の女」の度合いを示すテストなのだ。
次回来るときには、わたしはどれくらい堂々としていられるだろうか。堂々とできているように、たくさんたくさん経験を、するのだ。
片手に新しい下着の入った袋をぶら下げながら、わたしは、イルミネーションの点灯がはじまった天神の街に繰り出すのである。
* * *
ということで、11月27日(日)朝9時からの天狼院ファナティック読書会、テーマは「大人の男/大人の女」です。
「こんな大人になりたい!」という魅力的な登場人物・エピソードが出てくる本の紹介、楽しみにお待ちしてます。
【概要】ファナティック読書会 テーマ「大人の男/大人の女」
日時:11月27日(日) 9:00−11:00
9:00 開始
11:00 終了
参加費:¥1,000+1オーダー(1ドリンク)
*CLASS天狼院「プラチナクラス」にご加入の方は「半額」で参加できます(*1オーダーのみ)
*「月刊天狼院書店」編集部(読/書部)の方は「無料」で参加できます(*1オーダーのみ)
定員:東京天狼院 20名様/福岡天狼院 20名様
場所:東京天狼院(東京池袋)/福岡天狼院(福岡天神)
《店頭でのお申し込み(当日お支払い)》
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