シチリアのスパイシーなチョコレートに憧れて、カカオとチョコレートの歴史を辿ってみたら、果物としてのカカオに出会えた
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大河内二郎(ライティング・ゼミ4月コース)
私はよくいろんなところで躓く。映画ゴッドファーザーには躓いたまま毎年必ず見直す。ちょうどゴッドファーザーのメイキングドラマ「The Offer」が出たばかりでファンのオフ会ランチが大阪のシチリア料理店であった。
「へえ、パスタにチョコレートをかけるんだ」
クリームソースで和えてある幅広パスタにチョコレートの粉がかかっていた。
シェフがと一粒のチョコレートを差し出した。
「これを粉にして、パスタにかけているんです」
「なんですか、この口触りは!」
口にしてみると、ゴリゴリしていた。しかも甘くない。
カカオ成分80%以上のチョコレートの中に塩粒が入っているイメージだ。
シチリアにいったことがある方が、「これモディカですよね」とシェフに聞いた。モディカはシチリア南部の地名らしい。
「行かれましたか? 今でも石臼でカカオを粉にしてチョコレートを作っているんですよ」
カカオというとガーナとか中南米産だと思い込んでいた私にはシチリアとカカオ豆がどうしても結び付かなかった。
「シチリアってカカオが採れるんですか?」
「豆は西アフリカから輸入しているはずですよ」
また頭の中にはクエスチョンだらけだ。
カカオの豆? すり潰す?
コーヒーは普段焙煎された後の豆をもちろん見たことがある。しかしカカオは、ココアの粉でしか見たことが無い。
シェフの話は続いた。
「カカオはコーヒーと違って脂分が多いんです。だからそのまま粉にはできません。チョコレートにするには発酵させて苦味を除いた後にローストして粉に曳くんです」
「これは日本でも買えるんですか」
「日本のチョコよりやっぱり高いかな。手作りだから」
調べてみるとモディカのチョコレートは安いのでも50グラム当たり600円はする。日本の板チョコは50グラムで100円。
「もう一口いいですか」
私の前にはチョコレートの新世界が広がっていた。
さっそく「チョコレートの世界史」といいう新書を手に入れた。
チョコレートの材料カカオの学名はテオブロマ・カカオ。テオは神様、ブロマは食べ物、つまり神様の食べ物。木の幹に直接ヘチマのような実が成る。その中に種子1センチぐらいの種が30、40個入っている。輪切りにすると5つの実が桜の花のように並んでいて織田信長の家紋のようだ。
カカオの種を発酵させ、繊維をとりのぞくとカカオニブでスーパーでも売られている。それをすりつぶしたのがカカオマス。
シェフが言ったようにカカオマスはざらざらしていて口当たりが悪い。スペインはアステカ王国からカカオを学び奴隷貿易でカカオを手にいれた。宮廷ではカカオ専門の役職が置かれて王族の口に合うようにいろいろ工夫し、砂糖や唐辛子などが加えられて、ココア飲料として嗜んだ。当時は高級品で薬として扱われたらしい。
一方19世紀からオランダではファンホーテンがアルカリを加えて脂肪を取り除く技術を開発して、カカオ豆からココア粉への工程が機械化された。
スイスではミルクを加えて苦味を抑える方法うやザラザラ感をとる機械を作った。イギリスではクエーカー教徒たちが固形チョコレートをつくり、植民地のカカオ農園と連携してチョコレートの大量生産を始めた。今私たちが食べている滑らかなチョコレートはこうやって出来た。
スペインやポルトガルのカトリック国家からオランダ、イギリスなどのプロテスタント国家に覇権が移るのと同時期に、チョコレート文化の中心も移っていった。19世紀初頭までシチリアはスペイン領だったからモディカのチョコレートが取り残されるように残ったのだろう。
こう考えるとチョコレートにもカトリック系とプロテスタント系の二つがあったのだ。そしてプロテスタント系チョコが優勢となり、ほぼ勝利を収めたといえる状態だろう。
でもヨーロッパによる植民地化の前にアステカではカカオが嗜まれていた。カカオはそもそも果物で農産物だ。品種も複数ある。
コーヒーであれば、グアテマラとかキリマンジャロとか、産地の名前で小売りされている。一方カカオは、コーヒーより作る過程が複雑なのでプロテスタント系のチョコレートメーカーによる工業生産が中心となっていった。そのせいで産地や品種が私達消費者にはわかりにくくなってしまった。
果物としてのカカオをできるだけ味わうために実験してみた。
フォラステロ種とクリオロ種という、2種類のカカオパウダーを使ってココアを作ってみた。砂糖の量と水の量は同じ。
どちらも美味しかった。
どちらがいいか、というのはよくわからなかった。コーヒーのグアテマラとキリマンジャロに優劣をつけにくいのと同じだ。ワインなら葡萄品種の想像は付くがそれは経験を踏んできたからだ。カカオでは経験が足りない。
最近はビーンツーバー(Bean to Bar)といって同一産地、単一種のカカオからチョコレートを作るチョコレート屋さんも増えていて、カカオ豆の違いを味わうことができる。高価だが生産者の顔が見えるようにするとこの値段は妥当なんだろう。
次にスパイスとしてのカカオを知りたくて料理に使ってみた。
ネットで「モレ」というメキシコ料理のレシピが見つかった。古代アステカの味を伝えているかもしれない。
まず玉ねぎと鶏肉とニンニクを炒めてから水を加えて煮込む。煮汁を取り出してトマト缶にカカオパウダー、ココナッツパウダー、コリアンダー、チリペッパー、クミンを加えてミキサーにかける。最後に焼いた鶏肉を混ぜて、また煮込む。
作り方はスパイスカレーの作り方と同じだった。チョコレート風味のカレーともいえるけど甘くない。
早速我が家に遊びにきた友人、いや呼びつけた友人に味見してもらった。最初、材料を明かさなかったら「何この味、おいしい」と不思議そうに食べていった。我が家で毒味をさせられた中には二度と来なくなった友人もいるが、今回は友人を失うことはなさそうだ。頼まれたらまた作るよ。
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