ありのままの自分を見せなきゃいけないという強迫観念に苦しむ人たちへ《リーディング・ハイ》
記事:菊地功祐(リーディング・ライティング講座)
「今週のネタどうしよう……」
去年の10月から通い始めたライティング・ゼミ……
4ヶ月間通い続けて、いつも私につきまとっていた問題があった。
それは……
月曜日の締め切り日に向けて何をネタにして書くか? だった。
ライティング・ゼミに通うと、毎週月曜日の締め切りに向けて、天狼院のメディア・グランプリに投稿できる権利をもらえる。
私がライティング・ゼミに通っている間は、毎週月曜日に向けて悪戦苦闘する日々を過ごしていた。
どんなネタで記事を書こうか。
大学生にして2億8千万の借金を背負った友人の話……
家の近所で見た夕暮れの話……
いろんな題材で記事を書き、四六時中、ネタを探す日々が続いた。
ライティング・ゼミに通い始め数ヶ月経つと、web天狼院に掲載される確率も上がり、書くことも楽になってきた。
楽になってきたが……
書いているうちに、ありのままの自分を記事に落とし込んでいいのか迷ってきた。
ありのままに書くのは、正直恥ずかしかった。
どこかカッコつけながら記事を書いている自分がいたのだ。
メディア・グランプリの上位にある記事でも、ありのままの自分をさらけ出している記事もあった。
私も数回、ありのままの思いを落とし込めた記事を書いたこともあった。
バズる時もあれば、いまいち評価が悪いこともあった。
記事を書いている時に、
もっとありのままの自分をさらさなきゃ!
自分らしく振るまわなきゃ! という強迫観念に駆られていた時期もあった。
しかし、自分を深掘りしたところで、ただいまフリーターのプー太郎である自分に、特に面白い部分なんて見つからなかった。
ごく普通の凡人だ。
何も持ってない。
ありのままの自分っていったい何なんだろう? と思ったりもした。
昔、とある文化人はこう言っていた。
「今の若者を苦しめているのは自己表現です。
自己表現しなきゃという強迫観念が世界を覆っています。
自己表現なんて簡単にできるものではありません。砂漠で塩水を飲むようなものです」
まさに、私は砂漠で塩水を飲むような状態に陥っていたのかもしれない。
私みたいな平成生まれのゆとり世代にとって、ありのままの自分というものが強迫観念的にあると思う。
ありのままに生きよう。
ありのままの自分でいよう。
もっと自分らしさを表現しようとして、みんなツイッターやフェイスブックを常にいじっているのだと思う。
ありのままの自分っていったい何なんだ?
自分みたいな特徴もない空っぽな人間はどう生きればいいんだ?
と私は心のそこでずっと思っていた。
どこか生きづらさを抱えながら生きていた。
そんな時だった。
この本に出会ったのは。
天狼院ライティング・ゼミに通っている時に、常に毎週記事を書いていたので、
ネタ不足で悩み、いいネタを探すために本屋をうろついていた時に、ある本が気になったのだ。
それは西加奈子さんの「舞台」だった。
西加奈子さんの代表作「サラバ!」は以前に読んだことがあった。
普通に面白い作品だった。
著名人もみんな大絶賛していた。
しかし、私は「舞台」という著書は知らなかった。
本屋の平台で山積みになっているので、売れてる本なのだろう。
私は妙にその本が気になってしまった。
その本の帯に書かれている言葉が気になったのだ。
そこには……
私がずっと抱えていた生きづらさに対する答えが書かれていた。
きっと誰かにこの言葉を言ってもらいたかったのかもしれない。
私は衝動的にその本を手にしていた。
そして、すぐに買って読み始めた。
メディア・グランプリに投稿するネタ探しはもう忘れていた。
無我夢中になってその本を読んだ。
金がないのにスターバックスでカッコつけながら本を読んでいたが、
カッコつけている自分なんて忘れていた。
そうなんだよ。
みんなこの問題を抱えて生きているんだ。
これを言って欲しかったんだよ。
ここまで、今の世の中にはびこる、生きづらさの部分を丁寧に描ききった作品はあったのだろうか。
ゆとり世代を生きる人には皆、共感する内容なのだ。
作者は生きづらさを抱えてニューヨークをさまよう主人公に対し、
優しくこう投げかけている。
誰かが何かを演じるとき、そこには自己を満足させる以上に、「思いやり」というものがあるのではなかろうか。
自分を「演じる」こともある。そんな自分も愛して欲しい……と。
私はその文章が妙に頭にこびりついた。
あるがままの自分を書こうと思っても、どこかで「演じている」自分がいた。
フェイスブックに投稿しようと思っても、誰かにどう見られるかを気にして、
無駄に「演じている」自分がいたのだ。
あるがままに生きたい。しかし、周りの目がそうさせない。
そのことが苦しかった。
しかし、そこが問題ではないのだ。
どこかで「演じている」自分がいるのは、他者への配慮なのかもしれない。
私は自分が抱えていた生きづらさが少し緩和された。
あるがままの自分を表現するのが重要ではなかったのだ。
相手がどう感じるか?
自分の記事を読んだ人がどう気持ち良くなってもらえるか?
そこが大切なのだ。
そのために、自分を「演じる」のだ。
自意識過剰でわがままな青年がニューヨークをさまようこの小説は自分にとって、生きる指針になる物語になったのかもしれない。
この小説を読んでから、書くのがだいぶ楽になったと思う。
あるがままの自分を表現するのはもちろん大切だ。
しかし、それ以上に読者をいかに楽しませるか? が大切なのだ。
そのことを肝に銘じて今日も私はライティングに励んでいる。
「舞台」 西加奈子 講談社文庫
………
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