2014年を振り返れば、悔しさだけが込み上げてきました。《天狼院通信》
湯けむりの向こう側に、半月がさやかに見えていました。
昨日12月30日の夜に、僕は密かに池袋を抜け出し「庭の湯」の露天風呂で、月を眺めていました。
「何がいけなかったのだろうか」
2014年を振り返れば、悔しさだけが込み上げてきました。
目標と掲げていた、雑誌『READING LIFE』の年末までの重版も、シンポジウムと劇団天狼院の旗揚げ公演の満席も、2014年中の福岡天狼院オープンも成し遂げることができずに、新しい年を迎えようとしていました。
おそらく、2015年には映画や劇団、福岡天狼院のオープン、そして京都天狼院のオープンへとまた動き出すでしょう。そして、そのひとつひとつを僕は結果的に実現していくだろうと思います。
けれども、ここで失敗を認めて検証しておかなければ、飛翔するポイントを永久に見失ってしまうのではないかという危機感を抱いておりました。
湯に浸かり月を見ているうちに半ばのぼせた頭に、ふと、思い浮かんだことがありました。
あれは地元の大学にいたころのことだったと思います。
春に体育祭みたいなものがあって、専攻対抗でバレーボールの試合がありました。
トーナメント方式で、勝ち上がって優勝するととても盛り上がる種類のあれです。
僕は別段、運動神経がいい方ではない。ただ、高校のときにバレーボールをして遊んでいたことがあって、手も人よりも長かったからかもしれないが、サーブだけは強烈でした。ジャンプサーブができないまでも、まるでテニスのサーブの要領で、ボールを高く上に放り投げて、最も高い位置で手のひらにヒットするとネットすれすれのサーブを打てることを発見しました。そのサーブはあまりに強烈だったから、誰も触れられずに相手方のコートにボールが落ちました。
相手のコートにボールが落ちるたびに、最初はうぉーと盛り上がりましたが、それが6本、7本と続くと妙な空気が流れ始めました。
相手からは、あれは反則ではないか、取れるはずないじゃないか的な鼻白んだ空気が流れ、もしかして味方の方からも、あれ?バレーじゃなくてサーブだけで試合終わるんじゃない?的な空気が流れました。
少なくとも、僕はそう感じ取りました。
そして、何より、僕がその実に「イージー」な試合展開がつまらなく感じました。
このまま勝っても、何も価値が無いように思えたのです。
それで、そのサーブを、誰に言われたわけではありませんが、封印しました。
下から山なりのサーブを打つようにしました。
すると、圧勝していたのが、思いがけない接戦となりました。
俄然、試合が盛り上がりました。
けれども、結果的に僕らのチームは試合に負けました。
これを今でもやっているということに気づいたのです。
圧倒的に勝てる局面があったとしても、「つまらない」という理由で「やらない」という場面が、天狼院をオープンしてからも多くありました。
経営者は、アーティストではありません。
いや、表向きはアーティストの面を見せつつも、そういった「イージー」なところを着実にとっておかないことには、経営は成り立たない。
そう、会社の経営とは超現実的な社会活動なのです。
アーティスト的な美学だけで成り立たせようとすると、急に経営は立ち行かなくなります。
たしかに、美学を貫いたところに安定的な収益があれば、それに越したことはないでしょう。
けれども、世の中はそんなに甘くはない。
たとえば、「イージー」に戦える分野を見つけたとすれば、それを徹底して取りに行かなければならないのです。
そういった「したたかさ」のようなものが、僕には決定的に足りないことに気づいたのでした。
そして、もうひとつ、決定的に足りないものがありました。
処理能力です。
もっと明確に言えば、天狼院を「プライオリティ・ワン」と考えられる人が、今の天狼院には僕以外にいない。
たしかに天狼院のスタッフは皆相対的に見て優秀ではありますが、本業があったり、学業があったり、と天狼院が決して最優先ではありませんし、そもそも、僕の処理能力が圧倒的に足りないために、彼らの高い潜在能力を十分に顕在化させることもできていません。
その結果、慢性的な処理能力不足に陥っていて、天狼院には可能性が満ちているのに、多くの「取りこぼし」を発生させています。
それはまるで、手元で洗濯するのに忙しくて、川の向こうに砂金が流れているのを歯ぎしりしながら見ているようなものです。
その解決策はひとつしかないことは見えています。
ふたたび、社員を登用することです。優れた人材を雇い入れることです。
ただし、これは長期的な視野に立つ必要があると考えております。
費用もかかることですし、そして育つまでの時間も考慮する必要がある。
まずは足元の東京天狼院を固めて、年明け早々に、社員の登用に向けて、本格的に動いていこうと考えております。
天狼院には応援してくれる多くの方々がいます。
素晴らしいお客様たちに恵まれています。
世間の期待も大きく、まちがいなく可能性に満ちております。
この可能性を、かたちにしていくのは、経営者としての僕の役割です。
2015年、経営者として一皮むけなければならないと、静かに覚悟を決めております。
誰よりも面白いことをしたければ、誰よりも努力をしなければならない。
そんな当たり前のことを、いつしか、忘れてしまっていた2014年でした。
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