チーム天狼院

【すべて実話】お化けが見えるおばさんの話《川代ノート》


おばけ

 

前々から友人の間ではいいネタにさせていただいているのですが、私にはとんでもなくキャラが濃い伯母がいます。

私の母の三つか四つ上の姉で、今は首都圏外に住んでいます。

伯母がどんな人か、有り体に言えば、宇宙人です。モンスターです。ある種の神様です。いや、メシアかも?

数日前に書いた受験の記事には伯母が入るスペースがどうにもこうにもとれなくて、泣く泣く伯母とのエピソードをごっそり削りましたが、実は受験のときには本当にお世話になったんです。どうして伯母の話が入れられなかったかというと、単純にキャラがあまりに濃すぎるからです。伯母とのことは私にとっては大事な思い出なのですが、キャラが浮きすぎてしまって全体のバランスがおかしくなるので使えなかったんです。

けれど受験において伯母の力は絶大だったので、スピンオフとして伯母のことを書こうと思った次第でございます。

今日の記事はひたすら伯母との思い出を語っているだけです。ただ川代の伯母さんの話が続くだけでございます。

毎度毎度、書店らしからぬトピックで申し訳ないのですが(今さら?)、まあこういうのもありですよね。世の中にはいろんな人がいるんだなあと思ってください。

「伯母さん、不安なの。お願い、力をちょうだい」

入試日前日、不安で不安で仕方なくなった私は、未知なるスピリチュアルパワーにあやかろうと、藁にもすがる思いで伯母に電話をかけました。

「紗生ちゃん、明日なんだってね、本番。頑張ってね!」

「うん、でもね、本当に不安なの。もうどうしていいかわかんなくて、怖くて。大丈夫かなあ、私」

半べそで伯母と話す私。なりふり構ってはいられませんでした。本番はどうあがいても明日やってくるんですから、もう覚悟を決めてしまうべきというのはわかっていたのですが、何せ本当に本当に合格したくてたまらなかったので、緊張と恐怖で心臓の早鐘がとまらなくなっていたのです。

「紗生ちゃん、大丈夫。安心して!」

何の根拠もなく自信たっぷりにそういう伯母。

今伯母さんがね、光を放っといたから

……。

は? 光?

突拍子のない(いつものことですが)伯母の言葉に、泣きそうになっていたのも一瞬で忘れました。

「え、ちょっと、光って何?」

「光は、ほら、光よ。紗生ちゃんの頭のところに今、送っといたから。大丈夫だから」

思わず私は額に手を当てます。

「光って? オーラ?」

「うん、まあ、オーラみたいなもんよ。ん゛っ!(めちゃくちゃ野太い声)って送っといたから。私の力をわけてあげるから、大丈夫よ。明日は全力でやりな」

すると心なしか額が熱くなってきたような気がして、私はこの電話を通じて伯母が本当に光とやらを送ってくれたのだと思えました。

明日は絶対に大丈夫、できる、と言い聞かせて眠りにつきました。

それまで過去問などではほとんど60%以上をとったことがなく、合格最低点に届いたこともなかったのですが、当日は信じられないくらい冷静に問題をとくことができ、本番後の自己採点では75%とれていました。

補欠合格から合格に繰り上がって、晴れて大学に入学できたのですが、あの伯母の「光」がなければきっと落ちていただろうと思います。本当に何かしらの光を送ってもらったんだと思う。まったく目には見えなかったけど。

まあそんなこんなで、強烈でパワフルな伯母は、私だけでなく、ありとあらゆる人に光を放っています。

私のいとこにあたる、伯母の二人の子供はどちらも偏差値でたとえるならば74くらいの抜群の運動神経で、二人とも違う種類のスポーツの全国大会で優勝したり、世界大会に出たりしている、いわば「バケモノきょうだい」でした。

伯母は自分の人生も大いに楽しんでいて、会うたびに「変わっている人だなあ」とは思うのですが、それでも私がすごく憧れる大人の一人です。あいた時間には映画を見まくったり、郷ひろみのディナーショーに行ったり、子供のバレーボールチームを主宰したりしています。バレーボールの先生と言うか指導者というか、とにかく松岡修三的ポジションをやっているのです。

具体的には、バレーボールを通して子供を厳しく、たくましく、けれど愛情たっぷりに育てているのだそう。ゆるみきった根性の子供を叩き直す道場的なところになっていて、親御さんたちにもとても好評なんだそうです。しかもそれをボランティアでやっているのが本当にすごいところです。

で、伯母の見た目と雰囲気は高畑淳子にそっくりなので、高畑淳子を脳内再生してください。高畑淳子から3%だけ迫力無くした感じかな。
とくに五年前くらいにやっていた大河ドラマの「篤姫」に本寿院役で出ていたときの高畑淳子にはあまりにそっくりだったので、親戚中が大河に身内が出ているとざわついていました。なので今では高畑淳子がテレビに出ると、みんな「おーい伯母さん出てるよ」と当然のように言っちゃいます。嵐のようなあの感じも本当に似てるし、並んだらどっちがどっちかわかんないかも。

まあ当の本人は心外だと申しており、私が似ているのは黒木瞳よと大声で自画自賛していましたが。なんであんなに自信あるんだろうな? 長谷川京子って言ってるときもあったしなあ。

だから、えっと、なんだっけ。つまり高畑淳子が、ものすごい剣幕で、松岡修三的に熱血に、子供たちに光を放って鍛えていると想像してください。

淳子に会えるのは毎年二回、お盆とお正月のみです。高畑一家はだいたい三日間くらい祖父母の家に泊まるので、川代家もついでに祖父母宅に泊まり、みんなでテレビを見て、祖母が作ったおいしいご飯を食べ、そしてひたすらおしゃべりするだけの自堕落な三日間を過ごします。男性陣は、だいたいずっとテレビでゴルフかボクシングか、正月には駅伝を見ていて、マイペースな祖母は祖母でいつもごはんのメニューのこととかをせっせと考えているので、結局、淳子と母が柿ピーをつまみながら熱く姉妹で話しているのを、淳子の娘である、入山法子似の従姉(美人・新婚)と私が聞いているという構図になります。

まあなぜ法子姉さんと私がほとんどしゃべらずにずっと聞き役になっているかというのも、淳子の話が本当に面白すぎるからなんです。ああ、ここでお聞かせできないのが悲しい。みんなに体験してほしいのに。

淳子が得意な話は幽霊系(実話)、UFO系(実話)、奇跡系(実話)。なにしろすべて実話なので臨場感がすごいんです。

そして稲川順二並みに、人を怖がらせるのがうまい。

まず顔を暗くし、眉間にしわを寄せて稲川順二顔に変化させると、なぜか部屋が暗くなったような気がしてきます。そして淳子の顎の下に懐中電灯がありそうな感じがしてきます。

「法子が大学生の頃の話ね。

あのね、うち、二段ベッドなのね。上が法子で、下が私ね。
で、この前なんだけど、普通に寝てたらさ、上からガタガタ、ガタガタ、って音がするの。
寝相悪いなあ法子、なんて思ってもう一回寝ようと思ったんだけど、今度はベッド全体がガタン、って異常なくらい揺れたの。

もうやだあ法子、ちょっと何してるのよって思って文句言おうと思ったらさ、そこで気付いたわけ」

ゴクリ。誰かの唾を飲む音がきこえるくらい、みんな静まり返って淳子の話に聞き入っています。

「あっ……。法子は今、夏休みでばあちゃんちに行ってたんだった、って」

隣から母の息を飲む声が聞こえます。

うつむき気味で真剣な顔。こ、こわい。ていうか、もう淳子の顔だけでこわいわ!
私はもはや耐えられず、叫ばないように口に手をあてちゃう。

「そしたらね、突然金縛りにあったの。
うっ! もうくる! どうしよう逃げられない、って思って、目を閉じたかったんだけど、金縛りで目もとじれないわけ。
そしたら何が出て来たと思う?

老婆がね。

ながあああい白髪の老婆が、二段ベッドの上からさかさまに、白髪を振り乱して、キエエエエエエッて

ぎゃあああああああああ!!

もうその辺で大騒ぎ。稲川順二より確実に怖い。目の前で語られるとやっぱり、テレビを通すよりも怖いわ!
恐るべし高畑淳子の迫力!

また、UFOの話も。

「お風呂に入ってたの。
そしたらね、窓の方からぴかーって強い光を感じてね。

思わず立ち上がって、窓からその光を見てたの。

そして、ふっと意識が無くなって、気が付いた次の瞬間には、湯船に浸かってたの。

びっくりしてあれ? 私何やってたんだろう? って時計見たら、

二時間もたってたの」

ええー、それはないでしょう、寝てただけじゃないの? と疑いの目を向ける私たちに、いや、そんなんじゃない! と断言する淳子。

間違いない。あの光はUFOだよ

「ええ? UFO?」

「うん、宇宙人に連れ去られて、頭をいじられて記憶をけされたの。絶対そう。ほら、私、同じ宇宙人だから。同種だから。どうしても見つかっちゃうのよね」

どこのキャトルミューティレーションやねん、と思いつつも、淳子ならさらわれかねない、と信じてしまうのが不思議なところです。

 

いやあすごい人がいるもんですよね。私も自分の身内にこんな人がいるなんて今でも信じられません。でも本物はこんなもんじゃないんです。全然伝えきれないのが悔しい。

淳子のぶっとんでる話はもうきりがないのでこの辺でやめにしようと思いますが、このまま終わってしまうと淳子の名誉にかかわるので、最後にちょっと深いい話をします。

 

淳子は息子(私とタメ)は生まれつき元気もりもり。淳子から生まれただけあって、子供の頃から体力がありあまっている男の子でした。
学校から帰ったら玄関にランドセルを放り投げて外に遊びに行くような子だったので、いつどこで事故にあうか分からないと思った淳子は、バレーボールをやらせていました。

はじめは彼をもともとあったバレーボールの団体に参加させていただけだったのですが、そのチームの指導者の子供にたいする接し方に疑問を持つようになり、このままでは子供の成長にならない! と確信した淳子は、なんと友人と協力し、自分でチームを立ち上げて、自ら指導することにしてしまったのです。

はじめは右も左もわからないところからはじめたものの、そこで根性を鍛え上げたおかげで彼は全国大会で活躍するほどのレベルになりました。久しく会っていなかった彼のガッツポーズの写真を新聞で見たときは、思わず大声をあげてしまいました。さすが女版、松岡修三。光を放てるだけはあります。

そんなこんなで、彼が大学生になった今でも、淳子はその小学生向けのバレーチームを続けているのですが、近頃、子供たちのあまりの根性の無さに、驚いているそうです。時代のせいなのかはわかりませんが。

いわく、すぐに泣く。

練習をなまける。

そして一番がっかりするのは、ずるをしているのを見つけたとき。

たとえば、バレーボールでは、うまくなるためには何度も何度も練習が必要。野球やテニス、サッカー、どんなスポーツもそうですが、はじめのうちはひたすら素振りをしたり、ボールを打ち続ける下積み練習が無ければ、本番いざというとき戦えません。

でも、「アタック練習30回」とメニューを言い渡しても、20回くらいしかやっていないのに、「30回やりました」と嘘を吐く。

当然ちゃんとやっているかどうかなんて長年コーチをしている淳子にはすぐにわかるので、「どうして言われたことをちゃんとやらないのか」と聞く。

けれど少年、はじめのうちは「そんなことはない、ちゃんと30回やった」と言い張ります。

それでも淳子はずるは大っ嫌い。子供たちを成長させるためにも、絶対に見逃さないし、許しません。

するとずるを繰り返すうちに、少年もだんだんと後ろめたくなるのか、注意されると口ごもるようになってくるのです。

「今20回しかやってなかったでしょう? どうしてずるするの?」

根気よく何度も聞いていると、心の隅にあった良心がちくりと痛みはじめるのでしょう、だんだん涙をこらえきれずに、黙って泣き始める。

容赦なく、けれどきちんと愛情を持って問う淳子。

「ずるしてて、楽しいの? いい気分するの?」

うつむいたまま、少年は話さない。

それでもなお淳子は、伝わることを信じて問い続けます。

「自分がいいなら、別にいいけどさ。私はまったく困らないんだよ。君がずるしても別に誰も困らないよ」

「・・・・・・」

「ずるして困るのは、君なんだよ。損するのは、私じゃない、君だ。いつまでたってもうまくならないだけだよ」

「・・・・・・」

だんだんと、少年の目には涙が。

「ずるしてもいいことなんか一つもないよ! ねえ、楽する自分が好きか! ずるする自分が好きか! ずるして、嘘をついて得する自分でいたいのか!?」

「……好き、じゃない、です」

とうとう涙をこらえきれず、少年は正直な気持ちを吐露します。

「なら、どんな自分でいたいんだ! どういう自分になりたいんだ!?」

「バレー、うまく、なり、た、い、です」

うう、と嗚咽をあげて少年は大泣きする。

「なら、ずるなんかするんじゃない! 自分の好きな自分になれ!」

「はい、ごめ、ん、な、さい」

淳子のそんな愛の熱血指導によって、徐々に、けれど確実に、少年たちは成長していくのだそう。

「そこまできちんと言って、わかるまで何度も伝えてさ。しゃっくりが止まらないくらいに大泣きしてようやく、結局はずるなんかするよりも、努力するのが自分にとって一番幸せなんだって気が付くんだよね」、と伯母はしみじみと語ります。

私はその話をきいて、伯母さんすごいなあさすが、素敵な人だ、と思いつつも、ちょっとドキリと心臓が痛い気がしてくるのです。

 

はたして私は、この少年の話を、笑って聞いていられるほどの人間だろうか?

伯母に会うたびに、話を聞く度に、自分はこのままでいいのかと、真っ当な生き方をしているだろうかと、自問自答せずにはいられないのです。だからこそいつも、盆と正月が楽しみなのかもしれません。

 

厳しい試練を与えながらも、人々を幸せへと導いていく。

やはり愛あるその姿は、メシアか。

いや、それよりも、自らをも厳しい環境へ突き落とし、茨の道を進み、そしてどんどん悟りの境地に近付こうとしているその姿はまさしく、

まるで現世に現れた仏様なんじゃないかと、ときどき思うことがあるのです。

 

 

「あ、紗生ちゃん、ただいま!」 ブッ!

・・・・・・。

「ああ~、今日イチのいいやつが出たわあー!」

 

いや、ガードル姿でこんなに豪快におならする仏様なんて、いないか。

 

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2015-02-15 | Posted in チーム天狼院, 記事

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