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チーム天狼院

私の父はオリーブオイル男子 ~父、速水もこみちを超える~《海鈴のアイデアクリップ》


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私の父の趣味は、料理である。
いや、趣味と言うとちょっと意味が変わってくるかもしれない。
それはどちらかというと、生活の一部になっているようなものだ。

正月に実家へ帰った時、テーブルの上に出てきたのは、さいきん新しく開発した一品だという。
一見、なんの変哲もない普通のサラダだ。けれど、よく見るとなにやら美味しそうなカッテージチーズがぱらぱら乗っている。サラダと一緒に食べると、チーズが口の中でとろけた。久々の実家での食事に、思わず顔がほころぶ。うまい。

すると父が、満足げな顔でこう言った。

「そのチーズ、うちでつくたな(作ったんだ)」

なんと。しばらく帰ってないあいだに、父は牛乳からカッテージチーズを作るまでになるほど料理の腕を極めていたのだ。
新しいレパートリーにほっぺたを落とす娘を見て、父は誇らしげに笑っていた。

父は、わたしが小さい頃からさまざまな場面で、料理が美味しくなるコツを私に教えてくれていた。
カレールーにはヨーグルトを入れるとコクが増すこと。お好み焼きの生地には擦りおろした山芋を混ぜると、ねばりがありモチモチした生地になること。コッテリした料理のときには消化酵素の多く含まれたパイナップルを添え、胃に残らないようにすること・・・。

それを聞いたときはただ「へえ~!そうなんだ!」としか思わなかった。けれどその工夫はたくさんの料理の経験を積み重ねることでしか生まれないものだ。それだけのストックを持ち合わせる父をすごいと思うし、わたしの中ではいつの間にかそのレシピが当たり前となって、体に染みこんでいる。

 

ある日、事件は起こった。わたしの家に友達が遊びに来ていたときのことだ。
みんなで食べるご飯を分担しながらつくることになった。たしか、フライパンで肉だけを先に焼かなければならない料理だったと思う。友達が肉を焼くというので、わたしは野菜を切る係りになった。

トントントン。あ、野菜がきれいに同じ厚さで切れたときはなんか嬉しいな。
わたしが包丁さばきをいかに上手くできるかに熱中していると、なんだか隣で友達がゴソゴソ棚を物色している。

「なになに、どうしたの?」

包丁を動かす手を止めてわたしが言うと、

「フライパンに敷く油が見当たらないんだよね」

と友達。

「え、なに言ってんの、ここにあるじゃん」

元からコンロのそばに置いてあった油を取って手渡すと、友達は、え?と言葉をもらして固まった。そして、こう言った。

「いやいや、これ、オリーブオイルでしょ」

「うん。オリーブオイルだけど」

「え?」

「え?」

わたしは最初、友達が何に疑問を持っているのか分からなかった。
わたしの住んでいる部屋には、サラダ油がないのだ。
なぜなら、オリーブオイルは、父がフライパンに油を敷くときにいつも使っていたものだったから。

フライパンに敷くサラダ油の代わりにオリーブオイルを使うのは普通しないということを、わたしは後になって知ることになる。

 

こんなふうに、生活の何気ない所作で当たり前だと思っていることって、ほかの人からしてみれば実は当たり前じゃなかったりする。たとえば歯みがきコップの置き場所(台所のシンクなのか、ユニットバスの洗面台なのか)や、ゴミ箱の使い方(私は中にビニール袋を敷くのが普通になっている)、テレビのリモコンの置き場などなど。

それぞれの家にそれぞれの家のルールがあって、生活のなかでその片鱗がちょろっと見えたりすると、わたしは何だかほっこりした気持ちになる。その人の親との繋がりが透けて見えるような気がするからだ。
わたしはやっぱり、しっかりと父の背中を見て育ってきたんだなと実感する。

 

そして、誇らしげなことがもう一つある。
わたしの父は、速水もこみちがオリーブオイルの達人として有名になるずっと前から、オリーブオイルをフライパンに敷く油としてすべての料理に活用していた、れっきとした<オリーブオイル男子>だったということ。

いつか本人に会うようなことがあったら、オリーブオイルのパイオニアとして、わたしの父を彼に紹介したい。

 

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