チーム天狼院

この世に原石というものがあるとするならば 《三宅のはんなり京だより》


 

ある日、東京に用事があって、天狼院に寄ったときのことだった。

私はぼんやりと本を読んでいて、日が傾いてきたころ、店内でとある男女が話し始めた。

どうやら天狼院で待ち合わせをしていたらしい、イケメンさんと可愛い女の子。なぜか曇った表情をした女の子は時折口を開きかけては閉じ、その度にイケメンさんは「なんでこの子俺になびかないんだ?こんなにいい話を持ってきて、こんなに一生懸命口説いてるのに」……そんな戸惑いを妙に隠しきらなかった。

うーん女の子は大学生くらいだろうし、イケメンさんも働いてる感じじゃなさそう。の割にフォーマルな話してそうだし、店内で喋ってるのに全然躊躇なく二人の世界に入ってる、ってことは天狼院運営関係者?はっもしかして男の人は天狼院下克上部(非公式)で女の子をその仲間に引き入れようとしている!!!三浦さんから店主の座を奪い取ろうとしつつも美少女と仲良くできて一石二鳥らんなうぇいでこの天狼院を(以下自粛)……とまぁアホな妄想を私がしているうちに、店内で落語部が始まり、二人は外へ出ていった。

―――少し印象に残るその二人が、今度の劇団と映画のキーパーソンであることを私が知ったのは、夜に三浦さんから教えてもらってからだった。

 

三浦さんから、彼女について「あの子透明感あるでしょう」って言われたとき、まぁたしかになぁ、くらいにしか思わなかった。私は演劇に詳しくないので、美少女多しといえども、舞台や映像で言う「透明感」がどんなもんなのかよく分からなかったのだ。

というか、正直に言ってしまうと、彼女のことを「ふつうに可愛い子」くらいのもんだと思っていた。

 

だけど。

そのときなぜだか、心の中の自分は、にやりと笑った。

ああまた三浦さんが原石を発掘したんだなぁー、と。

 

 

ときどき、「原石」という表現を目にする。

まだきらきら皆の目を引くものじゃないけれど、磨けば宝石になるとわかる、特別な石。訓練すれば花開く「才能」を、もとから持ってるひとのこと。

たぶん、誰かや自分が、原石であることに気づかないと、宝石にはなれない。

とすると、三浦さんは、「原石」を見つけるのが、こわいくらい、うまい。

天狼院のスタッフの方々は年齢にそぐわない能力を個人個人でありえないくらい発揮しているし、「秘本」の発掘、劇団・映画のヒロイン抜擢を見ても、その「原石発掘能力」の手腕は一目瞭然だ。

今回も、会ったばかりの女の子を主演にする……なんてありえないことを、三浦さんの原石発掘能力は成し得るんだなぁ、と私は思った。

そして実際、アップされた劇団・映画天狼院の記事、写真、動画を見ると、たとえPCの画面上からでも、わかった。

ああ、あの時見た彼女はやっぱり原石だったんだ、と。

 

同時に、私は三浦さんの能力に疑問を持った。

三浦さんの原石発掘能力って、一体なんだろう?

この世に原石というものがあるとするならば、どうして三浦さんにはそれが原石だと分かるのだろう?

 

―――――考えた結果をここで述べるなら、「三浦さんは才能を見抜くから」、とかなんとか言っておいたほうがきれいなのだけど。

 

残念ながら――――私はそうじゃない、と思う。

 

それは、私自身が、「才能」というものの存在を、信じていないからだ。

 

私は、俗に言う「才能」なんてものは、
それに人一倍異常なまでに没頭できる「熱意」と、奢らずまっすぐそれのみを見つめて適切な努力をたゆまずしようとする「真摯さ」。このふたつのかけあわせでしかない、と思っているのだ。

 

 

個人的な話になるけれど、私は中学生の時、一ヶ月に一回は絶望していた。

こんなことを言うと、中二病だったなぁ……と顔から火が出る。小説+少女漫画育ちの夢見る空想大好き少女だった私は、どこかで「自分に何かの才能があるんじゃないか」という期待を持っていたのだ。そして現実の自分を見るたび、ああなんにもできないなぁ、どこにも才能なんかないんだなぁ、楽しくすいすいできちゃうことって私には何もないんだなぁ、と絶望した。

 

しかし、絶望したって私の才能は何も変わらない。何もできるようにはならなかった。

だからある時、私は腹をくくった。

どこにいっても私には才能なんかない、だから努力するしかないんだ、と。

 

私の才能がどこにあるか探そうとするから苦しいんだ、たぶん結局私は才能というものを持てない人間なんだ、でもやりたいことやりたいんなら、だったら努力しよう、と。人一倍がんばろう。

そう決意したのだ。

 

今は、がんばるだけが善ではないと思うようになったし、適性というものは確かに存在するとも思うようになった。けれどたぶん、基本的なマインドは変わってない。

自分の内側の適性を、外の世界での適性にするためには。すなわち自分の中で「これが適性だ」と思うことを、他の人から見ても「確かにあなたにとってそこが適材適所だね」って思ってもらうには。やっぱり頑張るしか方法はない、と思っている。

私が熱意を持てるものに対して、まっすぐに真摯にずっと向き合い続けること。私にとって、頑張るとはそういうことだ。

 

そうやって、部活とか勉強とか、いろんなことを努力し始めるうちに、いつしか私を慕ってくれる後輩ちゃんができたり、京大に合格できたりした。才能がないと思っていた色々なことに関して、褒められることが増えていった。

そして、「才能がある」人をたくさん見るようになった。高校も大学も、私の友達や知り合いは色んな面で多才な子が多い。幸せなことに私は、私がすごいと思う人の姿を、間近でたくさん見てきた。

すると―――だんだん見えてきたのが、

ああ世の中で「才能がある」って言われてる人は、誰よりも誰よりも、熱意を持って、丁寧に、奢らずに、まっすぐ真摯にそれに向かっているんだなぁ、

という当たり前のようなことだった。

 

才能があるからがんばる、なんて簡単な構図じゃないと思う。

「才能がある」と言われる人たちの頑張りは、普通の頑張りじゃない。

ただがんばるんじゃなくて、それだけの、人並み外れた熱意と、丁寧に丁寧にそれに向かう真摯さを持つこと。それが人に「才能」とまで言わしめる結果をもたらすのだ。

「才能」は英語で「gift(天から与えられたもの)」というけれど、与えられたのは「能力」というよりも、その異常なまでの心構えじゃないか、と私は思っている。

 

私は、世間で言うような「才能」の存在を信じない。才能=熱意×真摯さの総量、だ。

ダヴィンチやモーツァルトやアインシュタインに才能があったとみんな言うけれど、そんなん周りの人がつくったストーリーだと思い込んでいる。

本人にあったのは、熱意と真摯さだけで。たまたまその対象が芸術や音楽や物理に向いてただけだと思う。もし彼らの人生の時間が無限であれば、彼らは熱意と真摯さの対象を他のもの向けたのかもしれない。そうなったら、もしかしたらダヴィンチとモーツァルトとアインシュタインは同じ人物だったのかもしれない、と私は妄想する。

 

私が「熱意」と「真摯さ」だと思うもの。それを人は才能と呼ぶのかもしれないし、貪欲さとか野心とか志とかそういったものと近いのかもしれない。

また、ある種の「狂」なのかもしれない。―――狂ったような、熱意と真摯さ。

 

 

きっと三浦さんは、天狼院の誰より「熱意」と「真摯さ」を持ってるんだろうと思う。

だから、ちょっとでも自分に近い「熱意」と「真摯さ」を何らかに対して持つ人がいれば、そこに反応してしまうんじゃないだろうか。意識的にか無意識的にかはわからないけれど。それが三浦さんの「原石発掘」なのではないか。

いや、反応するだけじゃないのかもしれない。三浦さんは、その「熱意」と「真摯さ」を、周りの人にもたらそうとさえしてるんじゃないか。

 

誰しもなにかしらの原石である、という言葉を聞いたことがある。

それはきれいごとでもなんでもなくて、ある種、「あなたがその気になれば」―――「あなたが何かに熱意と真摯さを持つならば」、原石になれますよ、ということではないか。

だとすれば。三浦さんはこれからも、ある種「その気にさせる」しかけを作り、
言うなれば「あなたの原石を発掘する」採掘師であり続けるのかもしれない。

 

 

私は、才能なんか信じない。

そしてだからこそ、天狼院みたいな場所を面白いと思う。

最初に言った「透明感のある」女の子・ひかるちゃんだって、私が一目惚れした文章を書く川代さんだって、いつも東京に行くたび惚れ惚れしてしまう天狼院のスタッフさんだって、READING LIFEや劇団・映画天狼院で舞台に乗ったみなさんだって、こうやって一緒にwebに文章を載せてるみなさんだって、みんなみんな自分の原石を磨いているんだろうから。どこまでいくかなんて分からないけど、分からないからこそ熱意も真摯さも持てるんだから。

 

いろんなひとの「原石」を、磨き上げられた「宝石」を、熱意を、真摯さを。

この世の片隅で見守ることができるなんて、こんな面白いことないじゃないか。

 

そんな面白さは、今日も私のパワーになって、だから私も頑張ろうって思うのだ。

 

この世に才能なんかなくったって、頑張ることは私にもできる。

それってすっげー幸せなことだよって、願わくば、中学生のときの私に言ってあげたい。

 

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2015-05-11 | Posted in チーム天狼院, 京都天狼院, 記事

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