失われた青春を、取り戻しに行きませんか?《スタッフ平野の備忘録》
記事:平野謙治(チーム天狼院)
華やかな舞台の上、スポットライトを浴びて立つ、その姿。
見たときに抱いた感情の中には、確かに混ざっていたんだ。
消えない、後悔の気持ちが。
今でも思い出すことがある。それは、まだ高校生だった頃。
仲の良い友人がいる、他校の文化祭に行った時のことだった。
「気合い入ってるなー……」
校門をくぐる前から、その盛り上がりは伝わってきていた。
まず目に飛び込んできたのは、大きな声で呼び込んでいる生徒たち。ワクワクした表情の来場者たち。
それから、細部までこだわりを感じさせる屋台の装飾も、見事としか言いようがなかった。
活気があるって、多分こういうことを言うんだろうな。当時そう思ったのを、よく覚えている。
それもそのはず。この学校は、千葉県内で最も文化祭に力を入れていると、雑誌に特集されるような高校だったのだ。
歩いているだけで、なんだか楽しい。雰囲気を味わいながら、歩く。
向かう先は、友人がいるクラス。どうやら、劇をやるらしい。
メインの役どころを務めるとのことで、ずっと前から熱心に練習している姿を見ていた。それこそ、心配になるくらいに。
僕らはもう、高校3年生。すぐそこには、受験が控えていた。
何も今、そんなに頑張る必要ないんじゃないか。彼を側で見ていて、そんな風に感じていた。
彼のクラスにつき、案内に従って席につく。
ほどなくして、劇が始まった。
劇は、素晴らしいものだった。
それこそ、文句の付け所がないほどに。
一生懸命作ったであろう、華やかな舞台。その上で、照明を浴びて立つあいつは、確かに輝いていた。
いや何も、彼だけじゃない。舞台上の誰もが輝いていた。
そして多分、舞台の上に立つことはなかった、裏方の奴らも全力を尽くした結果だろう。
そうじゃないと、「たかが文化祭」で、あれほどの舞台が作れるとは思えない。
劇を観て率直に、素晴らしいと思った。だけど気持ちが、晴れやかになったかと言うと、そうではなくて。
僕は、確かに抱いてしまっていたんだ。
嫉妬。そして、後悔を。
観終わってすぐ、思ってしまった。自分は文化祭において、いったい何をしていた?
出し物が決まり、準備が始まる。当日までなんとか取り組み続け、いよいよ本番を迎える。
その過程において、ただの一度でも主体的に取り組んだことはあったのか?
ない、と言うのが、率直な回答だ。与えられた役割を、周囲に迷惑をかけない程度にこなして。
ただなんとなく、本番を迎えただけだ。
結果それでも、「そこそこに」楽しかったよ。
だけど数年後も、「あの文化祭は最高だったな」って言えるような思い出には、決してならなかった。
彼らの劇は、僕たちのそれとは違う。
青春時代の輝かしい思い出として、未来永劫胸の中で輝き続けるんだ。
羨ましいな、と思った。
同時に、「どうして自分にはそれができなかったのだろう」と。そう、思った。
スポーツ漫画が、昔から好きだ。
目標に向かって、脇目も振らず走り続ける主人公たち。いつだって全力で、キラキラしながら、打ち込んでいる。
そして本当は、わかってんだ。そんな登場人物たちみたいに、なりたかったんだ。
何かに全力で打ち込んで、最高の仲間たちと、何かを成し遂げる。本当はそんな、青春時代を過ごしたかったんだ。
僕にはそれが、できなかったんだ。
いや、厳密に言うと、やらなかったんだ。
なんだって要領良くそこそこに、こなす。勉強も試験前以外は、ほどほどに。部活もガッツリやるよりかは、楽しく。
放課後時間があれば、友人とカラオケ。彼女と、ファミレス。好きなバンドの新譜買って、家に帰る。
そういうのが、「カッコいい」と勘違いしてたんだ。
だけど劇を観て、気づいてしまった。
そんなのが、カッコいいわけがない。むしろ、だせーよ。お前。
この日抱いた感情は、24歳になった今も色濃く残っている。
多分それは、僕がまだ若く記憶が新しいから、とか関係ない。
青春時代の後悔は、それが報われない限り、消えることはないのだと思う。
時間経過とともに、薄れてきたり、思い出す頻度が減ることはあるだろう。
でもそれは、完全に消えてはいないんだ。ふとしたときに思い出しては、その度にやるせない気持ちになるんだ。
それこそ、クリーニングに出しても落ちないシミのように。
べっとりと剥がれついて、簡単に落ちてはくれないんだ。
この感情には、行き場がないってずっと思ってた。
一生引きずって、誤魔化しながら生きていくしかないって。そう思っていた。
だけどそんなことないって、最近ようやく気付いたんだ。
それは、天狼院のスタッフをやっていたからこそ、気がつけたことだった。
先輩が福岡に急遽出張になり、とあるゼミの担当を引き継ぐことになった時のこと。
天狼院に存在する、「演劇ゼミ」。
演劇をやってみたい人が集まり、数ヶ月間に渡り先生から、演技の指導を受ける。
そして最後には、発表会が待っている。
初めて担当したとき、思った。これはまるで、「大人の文化祭」のようだ。
しかも教えてくれるのは、プロ。クオリティは、学生の文化祭よりも高いに決まっている。
だけど集まった受講生の方々は、何も経験者ばかりじゃない。
演技をかじっていた、という人も当然いるが、まったくの初心者の方も毎回複数参加している。
それこそ僕のように、「あの頃やりたかったけどできなかった」後悔を、大人になって晴らしにきているのかもしれない。
最初から出来ていたわけじゃないんだ。
セリフ覚えに苦しみながら、伝え方に気を使いながら、日々の自分の仕事をこなしながら、
なんとかここまで、仕上げた人たちなんだ。
公演発表会を観たときに、思った。
どうして僕は、大人になったら青春できないなんて決めつけていたのだろう。
そんなこと、誰が言ったんだ?
事実、ここにいる誰もが、年齢なんか気にしちゃいないだろう。
スポーツ漫画の登場人物たちは、確かにほとんど10<代だ。青春時代と言って思い浮かべるのは、大概10代の頃だろう。
だけどそんなもん、関係ない。大人だろうと、同じだ。
「あの頃」の後悔を晴らすのは、今からでも遅くはないんだ。
仲間たちと「本番」という一つの目標に向かって、全力で創り上げていくその姿を、青春と呼ばずしてなんと呼ぼうか。そう思わずには、いられなかった。
ここにいる人たちは、ただ諦めていないだけだ。
時間と手間をかけて、仲間たちと何かを成し遂げることを。
「仕事があるから」、「体力が落ちたらか」、「時間がないから」。
言い訳を探すのは、簡単だ。だって、そこら中に落ちているから。
多くの人がそうやって、「本当はやりたい」という気持ちを封じ込めて、生きているだけなんだ。
かつての僕が、そうだったように。いつか、後悔することからは、目を逸らして。
やりたいなら、やればいい。
ただ、それだけなんだ。
「だけどもう、大人になってしまったから……」
そんな言葉が、呪いのように聴こえるのであれば、一度発表会を観に来て欲しい。
だって、ここにいる大人たちは、
こんなにもキラキラ輝いているのだから。
さあ。まだ諦めていない、そこのあなた。
一緒に青春を、取り戻しに行きませんか?
◽︎平野謙治(チーム天狼院)
東京天狼院スタッフ。
1995年生まれ24歳。千葉県出身。
早稲田大学卒業後、広告会社に入社。2年目に退職し、2019年7月から天狼院スタッフに転身。
2019年2月開講のライティング・ゼミを受講。16週間で15作品がメディアグランプリに掲載される。
『母親の死が教えてくれた』、『苦しんでいるあなたは、ひとりじゃない。』の2作品でメディアグランプリ1位を獲得する。
6月から、 READING LIFE編集部ライターズ倶楽部所属。
初回投稿作品『退屈という毒に対する特効薬』で、週刊READING LIFEデビューを果たす。
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