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チーム天狼院

『やりたい仕事』なんて1つもやってこなかったから、やりたい仕事にたどりついた


記事:永井聖司(チーム天狼院)

学校推薦を受けながら、就職面接に落ちた。
今から10年以上前、大学4年生の時の話だ。

少しでも就職活動に関わったことのある人なら、この事態の『酷さ』をわかってくれることだろう。
大学の名前を背負って受ける、学校推薦での就職面接の場合、ほとんどは落ちない。企業側も、採用の枠が埋まらないから募集をしているわけだし、企業と大学との今後の関係性にも関わってくることだし。

 

でも僕は、見事に落ちた。理由は、明白だった。

「今回は、ミスマッチということで……」

結果を話してくれた、大学の就職担当の先生とのいたたまれない時間は、今でも忘れない。

「営業が、やりたくないというわけじゃないんだよね?」
「はい、もちろん! そういうつもりは全くないんですけど……!」

確認をしてくる先生に元気良く応える僕だったけれど、原因はわかっていた。

 

「美術に関わる仕事がしたいと思ってます!」

超大手の印刷会社の北海道支社、営業部門の面接の場で、僕はそう、『やりたい仕事』について元気に述べていた。
美術とは無関係の家庭環境に育ったはずが、大学で『美術史』という学問にめぐりあい、美術の面白さに目覚めた僕は、「美術に関わる仕事」がしたいと思っていた。その気持ちを、正直に話した。『営業部門の』面接の場で。
面接官は、にこやかに話を聞いてくれていた。感触は良いと思っていた。学校推薦もあるし受かるだろう。正直、そう思っていた。

 

「『美術に関わる仕事』しかしたくないと思われちゃったみたいなんだよね……」

就職担当の先生にそう言われて、僕は何も言い返すことも出来なかった。

ラストチャンスだったこの機会を逃した僕は、就職留年、という道を選んだ。

奇しくも時は、2011年。3.11が発生し、就職活動戦線は荒れに荒れた。

 

そんな中で僕は、『美術に関わる仕事ができる』本を出したいと思い、とある出版社の最終面接に残った。広島に本社を持つ、出版と、人財事業を柱とする企業だった。

役員4人対学生8名の最終面接の場。
社長が学生みんなに向かって質問をした。

「出版部門、人材部門、どっちでも良い人ー」

少しの沈黙があり、僕だけが手を挙げた。
あれ!? 誰も挙げないの!?
内心そう思ったけれど、時既に遅し。

 

僕は、人財部門の営業として、採用になった。

就職活動をはじめたときにはまるで考えていなかった業務内容だった。しかも、多くの就職活動生が参加するだろう合同説明会に参加したこともない、その上就活留年までしている、就活レベルの極端に低い僕なのに、何故か採用になってしまった。

特に中小企業向の新卒採用サポートに特化していたその部門の中、経営者の方に提案をし、会社説明会のサポートをしたり面接官をしたりと、僕は業務をこなしていった。『美術に関わる仕事がしたい』と語っていたことなどまるで忘れて。

 

時は流れておよそ2年後、転機が訪れる。

「広島のコールセンター部門に移ってほしい」

同じ部門にあった、大学生とやりとりをするコールセンター部門の課長が異動するとのことで、その後任として異動してほしいとのことだった。

『美術に関わる仕事がしたい』と、元気に就職活動時に言っていたことは、正直もう、忘れていた。

「はい」と、僕はその場で返事をし、移動となった。その先で、地獄を見るとは思わずに。

営業部門からコールセンター部門への異動ということで、仕事のスタイルがまるで違う。
主に経営者を相手にし、個人プレーでも動けた営業とはまるで違う、チームで動くことが重要な職場。しかも、先輩から仕事を教わることが主だった営業の時とは違い今度は、年上のパートさんなども取り仕切り、一緒に気持ちよく働いてもらわなければいけない。
その上、僕の一番不得意な分野である諸々の確認や正確な仕事が要求されるということで、ミスを連発。上司には、絞られるだけ絞られた。

 

時はまた流れて更に1年後、コールセンター部門の仕事と一緒にやってほしいということで、新たな仕事がやってくる。

『〇〇という研修の事務局をやってほしい』

それは、年間数百人規模で参加頂く研修の、裏方の仕事だった。研修参加企業を募集し、申し込みを受付、申込み企業とやり取りをし、研修開催までの準備のほとんど全てを準備し、当日の担当者に引き渡す。事務方の仕事を一手に引き受ける内容だった。
コールセンターの仕事と同程度の、正確な仕事やスケジュール管理が求められ、企業様との対応も含め全て、事務方の全責任を負うことになった。

 

この頃になって僕はようやく、『諦めた』

そもそもは『美術に関わる仕事がしたい!』という想いで就職活動をしていたはずが、あまりにも遠く離れたところに来てしまった。美術という、クリエイティブなイメージとは真逆の、ルーチンな内容であったり正確性、ミスのない仕事をしていることに、僕はもう、こういった星の下に生まれたのだと、思うようになった。
何か『やりたい』ことをやるのではない、どこからともなく回ってきた仕事をやるのが僕の人生なのだと、思ったのだ。

 

でもそれは、決してネガティブな意味ではないのだ。

人財の仕事をすることで、経営者の方と対等な関係でお話しをさせて頂く機会に何度も恵まれた。経営のことや、経営者としての考えに触れることが出来た。多くの学生と触れ合うことが出来、多様な考え、生き方を知ることが出来た。
コールセンターに配属されたことで、自分が1番苦手だと思っていた、正確さを求められる仕事や、スケジュール管理、パートさんの管理などと向き合うことになった。
研修の事務局を担当することで、より業務の正確さを学び、対企業に対する対応の仕方を学び時には、研修の運営に関して社長に直接意見や相談をする機会を得ることが出来た。

どれも、『やりたい』なんて思っていない仕事だった。自分に向いていないと思っていた仕事だった。
だから、苦しんだ。辞めようと思ったことは、1度や2度じゃない、両手だって足りない。
それでも、『やりたい』仕事ではないことを続けたからこそ、得るものがあった。それは、僕にとっての大きな自信となって、今でも僕を支えてくれている確かな経験となっている。もしもこれらの経験がなかったら、僕は今以上に弱点だらけだったはずだ。
『長所を伸ばせばいい』とよく言われるけれど、長所で補いきれないぐらいの弱点ばかりで、ここまで自信を持つことは出来なかったろうと思う。

 

そしてこの、『やりたい仕事』とのご縁の無さは、転職後も続く。
天狼院書店に転職してから最初に任された仕事は、前職との延長線上にある、メール対応などが主だった。

『店長をやってみたい』『美術に関わる仕事をしてみたい』
面接の時にそうは言ったはずだけれど、やはり毎度のごとく、『やりたい仕事』は回ってこなかった。
そしてまた、やっぱり自分はこういう星の下にいるんだな、という確信を強めた。

 

そして、メール対応やイベントのサポートなどを地道に続けていたある日、同僚から1つの本を紹介してもらった。

「永井さん、美術系の本みたいなんですけど、興味ないですか?」

『シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略』というその本はタイトル通り、森美術館がどのようにSNSを活用しているかについて書かれている本だった。すぐに内容を読み、紹介してくれた同僚に、僕は興奮気味に伝えた。
「この本のイベントやってみたいんですけど、どうしたら良いですか?」

10年以上前から願っていた『やってみたい仕事』が、動き始めた瞬間だった。
そしてそこからは、信じられないぐらいにトントン拍子に話が進んだ。イベントの相談を出版社さんにするとOKが取れた。予定が詰まっているからイベント開催できたとしても数カ月後になるだろうと言われていたのに、イベントを予定していた他の書店さんのキャンセルという幸運に恵まれ、最初の相談からおよそ2ヶ月後、8月末に、イベントを開催することとなった。
まるで10年分の僕の想いが、全ての障壁をこじ開け、破壊し、道を作ってくれているかのようだった。

更に開催にこぎつけただけにとらわれず、集客面でも順調に推移をしていった。
日付が変わるごとに、申込み人数が増えていった。
そもそもの会場の収容予定人数30名にあっという間に到達した。
変更できる会場を探した。
100名まで入る会場が見つかった。
会場変更を申し込み済のお客様に連絡し、更に集客を続けた。
それでも、申込みの波が収まらなかった。
社員も、アルバイトスタッフも、みんなが、『このイベントはおすすめですよ!』と、お客様たちに伝えてくれた。
このままでは会場に収まらないのではないか、そんな不安まで生まれるほどだった。

 

2019年8月30日。
89名のお客様が、会場にいらしてくださった。
著者の洞田貫さんの言葉に、参加者全員が真剣に聞き入っていた。深く頷いていた。

「おもしろかったです!」
「来てよかったです!」
「とても勉強になりました。またやってくださいね」

会場を出られるお客様の笑顔に、僕は頭さ下げることしか出来なかった。溢れそうになる涙を、隠すしか出来なかった。

「よくやった」

社長の言葉が、ダメ押しだった。

 

そこから大きく何かが変わったかと言われれば、そんなことはなかった。
シアターカフェという、演劇・映画・落語の本に特化したブックカフェの店長になることになった。その時点では、カフェのことなんてまるでわからなかったのに。

 

1月1日、午前2時。
お客様たちと一緒に初詣を終えて店舗に戻ってきて、また新たな指示が飛ぶ。

「永井くん、エソラの店長ね」

今度は、ビジネス書専門店の店長だ。

「ええーーー!」

と、反応はしてみたものの、ノーの選択肢は僕の中になかった。

これまでの経験が、あるからだ。
任せられた仕事をやる、そんな星の下にいるのだと、僕は思っているからだ。

 

イヤイヤでもない。ネガティブでもない。
「やれるだろう」と、楽観的に思えるのは、この10年間のおかげだ。
「やりたい仕事」なんて1つもやってこなかった中で、出会った人々から教わったこと、失敗から学んだこと。それらの経験が、僕の自信につながっている。

すぐに「やります」「わかりました」「YES」と言える自分に、つながっている。

そしてそんなことを続けていたらまた新たな、美術系の本の情報が、やってくる。

3月。リクルートスーツに身を包む人を見かける度に思う。
 

大丈夫、なんとかなる。
目の前のことに精一杯、取り組んでほしい。


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2020-03-02 | Posted in チーム天狼院, チーム天狼院, 記事

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