【※閲覧注意】20代後半の女が「尿路結石」になって社会的人権を失った話
記事:山本海鈴(チーム天狼院)
この世には、「世界三大激痛」と呼ばれるものがあるという。
心筋梗塞、
群発頭痛、
そして、尿路結石である。
ちょうど1年前、3月15日の早朝のことだった。
それは突然、私の身に起こった。
記憶が薄れてくる前に、書き留めておきたいと思う。
油断をするな。
20代だろうが、50代だろうが、関係ない。
性別だって関係ない。
その日は突然訪れる。
まるで自分ごととは思っていないであろう人にこそ、警鐘を鳴らしたい。
その油断が、社会的人権を失うほどの苦しみをもたらすことになるのだ。
これは、20代後半で「尿路結石」になった女の記録である。
それは、3月の、暖かい日だった。
時計は、真夜中の3時を指していた。
下腹部の痛みで目が覚めた。
そういえば一昨日くらいからお腹の左下が、チクチク痛かったな。
ま、ちょっと調子が悪いだけだろう。
トイレに行く。
布団に入る。
……治らない。
あれ、おかしいな。
いつもだったらこんなのすぐ治るはずなのに。
寝返りを打つ。
しかし、どの体勢になっても、治らない。
何回トイレに行っても、治らない。
胃腸炎をやってしまった時と似た感じだった。
じわじわとした痛みが引かない。
「やばい、お腹壊したかな……」
そうこうしてるうちに、どんどん痛みが強くなってくる。
胃のあたりがムカムカしてきたと思ったら、たまらずトイレに駆け込んだ。
突っ伏して、嘔吐してしまった。
なんだ!?
なんだ、これ!?
ここからが地獄だった。
吐いても吐いても、吐き気が治まらないのだ。
永遠に嗚咽が止まらない。
そして左下腹部が痛すぎる。
胃の中にはもう吐くものもないのに、吐きつづけてしまう。
地べたをのたうちまわり、かろうじて耐えるしかなかった。
その日は、午前中には出勤しなければならなかった。
「救急車呼ぶ?」
「いや、こんな腹痛で呼んでいいのか? もっと重症な人に怒られないか?」
「明け方に呼んだら、近隣住民に迷惑だろ」
「寝たら治る、きっと治る……」
戻れるとしたら、過去の私に、いいから早く救急車を呼べ! と怒鳴りたい。
しかし一人暮らし女は、なかなか救急車を呼ぶ決心がつかなかった。
得体の知れない症状と、戦うこと2時間半。
あまりにも止まらない吐き気に、胃液の味が口いっぱいに広がってきたころ。
もうだめだ、死ぬーーー
耐えかねた一人暮らし女は、とうとう119番をプッシュした。
当時、どうにか緊急事態を伝えようと、同僚に送った履歴が残っていた。これである。
(*もちろん早朝。電話に出られるはずもない)
救急車のストレッチャーに寝転がされると、私は赤子そのものだった。
「あ〜〜〜」とか「う〜〜〜」とか原始的な言葉を発することしかできない。
社会的人権なんて気にする余地がない。
成人女性らしい振る舞いとか知らん、もう、どうでもいい。
この痛みと気持ち悪さから、解放してくれ!!!!!!
誰か、早く!!!!!!!!!!
そうして寝ゲロしながら病院に運ばれる(本当にすみません)。
何かを質問されたがほぼ記憶になし(CT撮るんで妊娠してませんよねとかは訊かれた気がする)。
もんどり打って暴れていると、看護師さんに注射を打つ右手を強く固定される。
もしかして鎮痛剤!?
これで痛みから解放される!?
と思いきや。
ここから始まったのは第二の地獄だった。
「こちらで待っててくださいね〜〜」
にこやかに別室のベッドに寝かされる。
しかし、
呼ばれない。
永遠に、呼ばれない。
そして痛みは依然、引かない(注射は造影剤だったことを後で知る)。
たまたま病院が混んでいた時間だったのかもしれない。
時間として実際にどのくらいだったのか、あまり記憶がない。
だが、一人ぽつんと、カーテンで仕切られたベッドの上で、
20分に1回吐きながら、下腹部の痛みと戦いつづけるということは、
絶望に打ちのめされるには十分な時間だった。
あの世とこの世を彷徨うこと体感で数時間、やっと、名前を呼ばれた。
腰にのしかかる異常な怠さで立てずにいると、車椅子に乗せられた。
CTを撮る部屋に連行された後、案内されたのは「泌尿器科」。
時刻にして、10〜11時。
車椅子でうずくまりながら対面した泌尿器科の先生が、神に見えた。
神は、1枚のCT写真を見せてくれた。
「ここにありますね、石」
左の尿管と思わしき部分に、それははっきりと見えた。
黒い丸い影。
「尿路結石、です」
やっと肩の力が抜けた気がした。
謎の左下腹部の激痛も。
吐いても吐いてもおさまらない、異常な吐き気も。
腰にのしかかる、だるさも。
すべての犯人は、
「尿路、結石……」
人生で、初めてその名を口にした瞬間だった。
神によると、こうである。
異常な吐き気は、結石でせき止められた尿が体内で漏れ(!)、他の内蔵が圧迫され起こるということ。
腰の重みも、やはり内蔵の圧迫に連動しているということ。
そして、左下腹部の痛みの元凶である「石」は、水をとにかく大量に飲み、流れるのを待つしかないことーーー
「ちょっと待ってください。いつ、石、出るんですか!?」
「それは分からないですね。自然に出るのを待つしかないです」
第三の絶望である。
石は、自力の尿圧で流し出すしかないのだ!!!
「つらそうなので、鎮痛剤の座薬、打っときます?」
もう、背に腹はかえられぬ。
藁にもすがる思いで打った座薬だったが、なんと、効果てきめんだった。
みるみるうちに痛みが引き、吐き気も治まり、腰の重みも消えた。
やっと、歩けるようになった。
薬を処方され、病院を出ると、太陽はてっぺんに登っていた。
春の日差しがまぶしかった。
明け方から痛みに耐えること8時間。
吐き続けること6時間。
しかし、まだ体内には「奴」がいた。
その状態が、何より気持ちが悪かったかもしれない。
なんとか家に戻り、水を大量に摂取すると、急に強烈な疲れにどっと襲われ、眠りについた。
が、ほっとしたのも束の間。
目が覚めたと思えば、また「奴」がズキズキと痛み出し、睡眠の邪魔をしてきたのだ!
終わりが見えない戦いに絶望しながら、
一人暮らし女は、一人虚しく、セルフ座薬を打った。
また水を大量に飲み、祈りながら目を閉じる。
ーーそして、次の日の朝。
痛みが、消えていた。
寝てる間に何回かトイレに行った。
いつ「奴」が出たかは分からない。
鎮痛剤の座薬は、とっくに切れているころだ。
それなのに痛みがない、ということは……
石が、出た!
やっと、解放されたのだ!!!
「終わった……」
全身から力が抜けた。
最初の痛みから、24時間が経過していた。
こうして、私と尿路結石との戦いは幕を閉じた。
閉じたように見えた、のだが。
「再発率、50%……!?」
調べて出てきた数値に、目をひん剥いた。
どうやら、尿路結石は、かなりのパーセンテージで再発している人がいるそうだ。
原因は、特定できない場合もあるが、バランスの良い食事は、少なくとも必要らしい。
アルコールも、よくないらしい。
そして、尿路結石になって分かったことだが、
発症したあの日から、左下腹部の、激痛が走っていた場所が、常に「痛いような気」がしてしまうのだ。
いつ爆弾が爆発するか、分からない。
性別とか、年齢とか、まったく関係ない。
それは、ある日突然やってくる。
……あ、ほら。
また、左下腹部がチクチクするような気がしてきた。
もう二度と、あんなに人前で胃液を出しつづけたり、
「あ〜〜〜」とか「う〜〜〜」とか奇声を発して暴れないために。
本気で、食事改善、しないといけないな……。
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