チーム天狼院

正しく未来を恐れたいなら、『未来と芸術展』に行けば良い《ビジネス書専門店店長・美術館へ行く。第2回》


記事:永井聖司(チーム天狼院)
 

「怖っ……」
その空間に入った瞬間、僕は思わず小さく呟いた。

壁に映し出される白黒の映像には、見覚えがあった。ニュース番組などで見かける、監視カメラの映像と同じだ。
違うのは、映し出されている映像が、いつかどこかで起こった事件の映像などではなく、その場の映像だということだった。

4面ある壁には、室内に設置されたいくつもの監視カメラが捉えた、室内にいる人々の姿が映し出されていた。もちろん僕も、映し出されていた。
そしてそのカメラに捉えられた僕の顔は、赤の四角で切り取られ、僕自身の身長よりも大きいぐらいに、壁に大映しにされた。
顔認識機能によって僕の顔が検知され、記録されたのだ。
新たに展示室内に人が入ってくる度、監視カメラは人々の顔を捉え、大映しにする。

欧米人らしき5、6人で入室しているグループは、壁に自分たちの顔や姿が映るのを見てキャッキャッキャッキャッと楽しんでいる様子だったけれど、僕は全くそんな気持ちにならなかった。
「怖っ……」
と、何度も呟いていた。

つい最近見かけたことがある、中国では、顔認識によ取り締まりや、登校時の出欠確認のようなことがされているというニュースの内容が、実体験として理解されたからだ。ニュースで見た時は、どこか遠いところの、もっと言ってしまえば時代が違うぐらいのイメージで見ていた内容が、本当の現実として、しかも僕の間近にあることを感じたからだ。

いわゆる『監視社会』がどういうものか想像された時、恐ろしさと気持ち悪さを、僕は感じた。

 

これは現在、六本木にある森美術館で開催中(2020年3月19日までは休館中)の展覧会『未来と芸術』展の中で展示されている作品の1つ、クシュシトフ・ウディチコ作、《ズーム・パビリオン》を見て感じたことだ。

この展覧会では、『美術館に行ってアートを見る』というイメージを捨てて行かれることをオススメする。『アートを見る』というよりかは、これまで映画の中で見てきたような未来の姿の数々、テクノロジーの数々を体感出来るアトラクションへ行く、という考えの方が、良いかもしれない。

そして様々な作品を通して、『未来』について、様々な考えを持つことが出来る。

 

《ズーム・パビリオン》の他に印象的だった作品の1つが、ダン・K・チェン作、《末期医療ロボット》だ。

展示室にあるのは、病院にあるようなベッドと、不思議な形をしたロボットだ。一見するとどんな意味があるのかわからないのだけれど、映し出された映像を見ると、謎が解ける。

映像の中では、ベッドで眠る人物と、その人物の腕をさするロボットが、映し出されている。そしてロボットは、同じ動きを繰り返す。ベッドで眠る人の腕をさする。それだけの動きを、繰り返す。

これは、《末期医療ロボット》の名の通り、末期医療の現場ではこんなロボットが必要になるかもしれない、という、想像の下に作られた作品だ。

世界的に高齢化社会に突き進んでいく現在、皆が皆、誰かに看取ってもらえるとは限らない。

そんな時に、本当に誰にも看取られずに死んでいくのと、実際はロボットとは言え、誰かに触れられていると感じながら死んでいくのと、どっちが幸せなのだろう? そんな疑問を、《末期医療ロボットは投げかける。

個人的には、映像の中に映る人の姿は幸せに思えた。傍から見れば、ただただ滑稽に見えるかもしれないけれど、本人としてはどうなのだろう? と考える。誰にも労られることなく、孤独感に包まれながら死んでいくのと、実際は、プログラミングされただけの動きだとしても、思い込みだったとしても、誰かに労られ、大切にされていると感じながら死んでいけるのだとすれば、そちらの方が幸せなのではないかと、僕は感じた。

もちろん、この問いかけに正解はない。見た人それぞれの背景や状況によって、考えることも違うだろう。それでもきっと、多くの人が色んな思いを抱く作品だろうとは思う。

 

その他にも、《未来と芸術》展の中では、様々な《未来》が現れる。
現在進行形でアラブ首長国連邦の中に作られている、二酸化炭素排出量ゼロを目指す、砂漠の真ん中に出現した未来型実験都市「マスダールシティ」を見れば、クリーンエネルギーや未来の都市のあり方、生活の仕方を考えることが出来る。
昆虫を食べる未来を暗示する展示を見れば、近い将来、こんなものを食べなければいけないのかもしれない、という暗い気持ちと同時に、昆虫食が当たり前になる日が来るのかもしれないという想像が浮かび、不思議な気持ちになる。
AIBOなどのペット型ロボットを見れば、こんな未来も、悪くないかもしれないと思ってしまう。

今まで不確かで、実際にどんなものか想像もつかなかった『未来』のカケラが、『未来と芸術』展には散らばっている。

その全てが、実現するわけではない。想像上のものも多くある。

 

『未来と芸術』展で示された未来を、ポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるかは、見る人に委ねられる。ただし、どんな風に捉え、考えたところで間違いはないので安心してほしい。

この展覧会は、これからの未来を『具体的に』想像する上で、大切な足がかりになってくれるはずだ。
是非足を運んで、自分の中で、どんな未来が想像されるかを、楽しんでほしい。


2020-03-15 | Posted in チーム天狼院, チーム天狼院, 記事

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