チーム天狼院

作家志望なのに腱鞘炎で「書く」ことが恐怖、それでも。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:斉藤萌里(チーム天狼院)

私には、ペンをまともに握れなかった時期がある。
決して「お姫様」的な意味じゃない。深窓の令嬢で、ペンより重たい物をもったことがない……というのであれば、大した問題でもないのだが、残念なことに、文字通り半年間まともにペンを握ることができなかった。

高校三年生の夏だった。
受験生活の最中、初めて受けた大学受験の模擬試験でそれは起こった。
ピキっ。
右手の親指の付け根が、微かに痛む。
試験といえば何かと書く量が多いので、手が疲れたんだろうと、その時は事態を甘く見ていた。
でも、試験の最中だけでなく、試験が終わってから、右手の痛みは日に日に増していた。
「痛い」
はっきりと、口にしなければやっていけないほど痛みを感じたため、危機感を覚えて整形外科へ。
「腱鞘炎ですね」
ありふれた病名を告げられて、「はあ」と曖昧なリアクションをすることしかできない私。
「どうやったら治るんですか?」
お医者さんに訊きながら、薬さえ貰えばすぐに治るだろうと、これまた高を括ってたんだけれど。
「とりあえず漢方出します。あと、電気治療で。それから、勉強やめましょう」
「え?」
「だから、勉強で、腱鞘炎になったんですよ」
「そう言われても……」
無理でしょ。
だって私、受験生だよ!?
勉強できないって、それじゃあ志望校に合格できないじゃないか。
何言ってんだこの医者!!(全国のお医者様すみません)

と、怒りたくなったが、確かにお医者さんの言うことは至極真っ当で、腱鞘炎を治すには、「とにかく手を使わずに安静にすること」が求められる。

———ということを、腱鞘炎がさらに悪化した後で思い知った。

「うぅ〜」

「あ〜」

インフルエンザにうなされた子供のように、勉強中の私は唸り声を上げる。
初めて腱鞘炎と診断されてから半年。
大学の二次試験が差し迫る中、サポーターをつけた右手で、ぎこちなくノートにペンを走らせる私。
正直言って、この頃には身体・精神ともに限界だった。
手が痛い。
それだけで、精神が蝕まれてゆく。
痛いから、書いて勉強することができない。
たとえ書けても、サポーターをつけた状態なので、違和感があることこの上ない。慣れるまでは本当に満足に書くことさえできなかった。
そして、サポーターをつけて字を書くことに慣れてきた頃には、手の痛みが激痛レベルになっている。どれくらい痛いかと言うと、20分、数学の問題の解を書いたところで、ジンジン、キンキン、右手が唸りを上げた。
たったの20分。
試験直前なんて、一日何時間も勉強しなくちゃいけないのに。
一日の始まりに、右手がジクジク。
それだけでもう、憂鬱だった。
試験が怖いとか合格するかどうか危ういとか、それ以前の大問題。
受験。
ただでさえ不安なのに、これ以上不安要素を増やさないでくれ。
本番で手が動かなくなったら——と妄想したら、怖くてたまらなくなった。
苦い漢方薬を水で流し込み、勉強時間を削って病院に通った。
一時、右手で書くのを諦めて左手で書く練習をしたことさえあった。
それでも結局どれも上手くいかず、右手の痛み引はかぬまま、試験当日がやってきた。

二次試験当日。
とうに痛みの限界を超えていた——のが、逆に良かったのかもしれない。
いわば、麻痺状態。
良いのか悪いのか分からないが、いや多分決して良くはないんだろうけど、本番は目の前の問題を解くのに夢中で、手の痛みを忘れていた。
試験官の、「やめ」の合図とともにペンを置いて、呼吸を整えた後で、「そういえば痛い」と気がつくぐらい超集中状態にいられたから、なんとか最後まで耐えることができた。

どうにかこうにか受験が終わり、無事に志望校にも合格して、私は「腱鞘炎の悪夢」から解放される——はずだった。
大学に入ったら、今ほど根詰めて勉強することもないだろうし、大丈夫だよね。
しばらく手を休めればきっと治るだろうし。
書かなくてもできる勉強法で、なんとかなるよね。
うん、大丈夫だ!
大丈夫。
……の、はずだったんだけど。

「それ」は、忘れた頃にまた突然やってきた。

「……っ」

大学三回生の頃。
私はとある会社でインターン生としてブログを書く仕事をしていた。
出勤日は基本的に一日中文章を「書く」。
成果報酬制だったので、書かなければお給料がもらえないのだ。
だから、書いた。
当然のごとく、皆と同じように、書いた。
ほとんど決まりきった提携文でめちゃくちゃ楽しいわけではなかったが、書くことが好きな私にとって、仕事自体、特に何の苦痛も感じなかったから。

しかし、それがさらに、事態を悪化させることになるなんて、思いもよらなかた。

いたい。
指がいたい。
肘から下の腕がいたい。

覚えがあった。
受験生の頃、半年以上悩まされたあの痛みとまったく同じだ。
腱鞘炎だった。
高校生の頃はパソコンで書く習慣がなかったので、主にペンで書くことで腱鞘炎を発症したのだが、今度はパソコン。しかも、両手ともに痛い。

また、あの痛みとの闘いが始まるのか……。
思い出される苦痛の日々。
何をしても治らない症状。
マッサージも、針治療も、電気治療も全て、意味がないあの病気。
もちろん、一年とか数年かけて病院に通っていれば、もしかしたら治るのかもしれない。
けれど、大学生の私には病院に通い続けるほどのお金がなくて。
結局数ヶ月だけ整骨院に通って諦めてしまった。
無理だったから。治らなかったから。
インターンをやめて、少し休憩しよう。
書くことを、お休みしよう。

……。
……。
……。

インターンをやめて一年。
ようやく私の手は回復した。
以前のように、継続して痛むことなくなった。

もう大丈夫だって思って、天狼院書店のアルバイトを始めた。
アルバイトの仕事自体は、書くこととは関係ないので、滞りなく続けられた。

腱鞘炎、大丈夫だって信じて、天狼院書店の「ライティング・ゼミ」を私も受けてみることにした。
作家志望なので、ライティングをきちんと学びたいと思ったのが始まりだ。
天狼院書店の「ライティング・ゼミ」には、毎週課題がある。
講義で学んだことを盛りこんで、2,000字程度の記事を書いて提出。
それに対し、講師の方がフィードバックをしてくれる。
評価が良かった記事は天狼院書店のHPに掲載もしてくれるためモチベーションも上がる。
超実践的なゼミで、講義を受ける前からワクワクしていた。

そんな「ライティング・ゼミ」だが、講義を受けている期間はずっと「書くこと」と向き合わなければならない。
まず、ネタがない。
そう、一週間ごとに課題を提出しなければならないため、「書く」ための材料がたくさんいる。
初めはそれだけで「どうしよう」と頭を悩ませていた。だって、当時の私は平凡な女子大生。そう毎日毎日、何か面白いことが起こるわけではない。
世間の人から注目されるようなネタ。
そんなの、どこに落ちてるんだろう。
普通の家庭で生まれ育って、何不自由なく暮らしてきた。
本当に、絵に描いたような凡人。

でもそれは、私だけじゃないかもしれない。
一緒に「ライティング・ゼミ」を受けているお客さんも、同じなんじゃないだろうか。
そう気づいたら、すっと気が楽になり、何を書けばいいのか、わかった気がした。
たとえ日々の経験は一緒でも、感じることは人それぞれで。

道端の花に目がいくこともあれば、素通りしてしまう人もいる。
お金を稼ぎたくて働く人もいれば、やりがいのために働く人もいる。

みんな、違うんだ。
同じ出来事を切り取って、同じ瞬間を分かち合っても。
私には私にしか感じとることができないことを、書けばいい。

この時になっても「書くこと」に向き合うのは、まだ少し怖かった。
きっとまた痛みがやってくる。
分かっている。
でも、日々自分が思っていること、感じていることを書いていく中で、「また腱鞘炎で苦しめられるかも」という恐怖より、純粋に「楽しい」という気持ちが膨らんだ。
なんだろう、まるでぐちゃぐちゃだったパズルのピースが、文章を書くことによって、しかるべき場所にぴたりと当てはまってゆくような。
気持ちの整理。
内向的な私にとっては、それが恐ろしく心地良い。
さらに、誰かに自分の文章を読んでもらえた時の感動。
書き始める前は、知らなかった。
「書くこと」にこんな力があるなんて。
知らなかったの。

確かに、「書くこと」で私の手は痛んだ。
今も、この文章を書いている時間も、一文字一文字、キーボードを叩くのに指や腕に響いている。ジンジン、という嫌な痛み。治る予感のしない病気。ありふれた、誰にでも起こりうる病気。
ライター、ピアニスト、デザイナー、スポーツ選手。
それ以外にもたくさん。

小説家を目指している私は、「書くこと」と、これからずうっと向き合っていかなくちゃいけない。
「書くこと」で生じる両手の痛みと。
長い長い、闘いになる。

けれど、私にとって「書くこと」は喜び以外の何物でもない。
だから、離れられない。
「書くこと」から。

離れないよ。

離さない。

■斉藤 萌里(天狼院書店スタッフ)

1996年生まれ2。福岡県出身。
京都大学文学部卒業後、一般企業に入社。

2020年4月より、アルバイト時代にお世話になった天狼院書店に合流。

天狼院書店では「ライティング・ゼミ」受講後、WEB LEADING LIFEにて『京都天狼院書店物語』を連載。現在は小説家を目指して活動中。

小説と甘い物が大好きです。

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2020-04-21 | Posted in チーム天狼院, チーム天狼院, 記事

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