チーム天狼院

「恵みの雨」《もえりの1,500字小説チャレンジ 第二回テーマ「雨」》


*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。

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記事:斉藤萌里(チーム天狼院)
 
 
*このお話はフィクションです。
 
 
「ねえ、明日雨が降るよ」
 
誰も喜んでくれないってことは、知ってた。

誰も、雨の予報なんか聞いてもきっと嬉しくない。

私自身、明日が雨だって分かって、とても憂鬱だ。

あたまがいたい。

雨が降る前はいつも決まってこうなる。低気圧で頭痛がするというのは、偏頭痛持ちの人ならよくあるそうだ。

頭痛い。

昼間どんなに晴れていても、夜雨が降るとか明日雨が降るとかいう日には、本当に決まって頭が痛くなる。

明日、雨が降って頭痛がきたらやだな。

体育、持久走だし。雨が降っても体育館で実施されるんだきっと。

休んだら授業の二倍はきつい補講をやらされる。なんだよ、この制度。ほんと、やになっちゃう……。

私、ちょっと意地悪したかった。

この憂鬱を誰かに振りまいてしましたい。

ぶちまけて、一緒に憂鬱になればいいんだ。

ひねくれ者の私は、ジンジン、と少しでも頭痛が始まったと思うとクラスの友達に、「明日雨降るよ」って、言うことにしたんだ。

こんなこと言うと大体の人は、「えーなにそれ」って軽く反発してくる。
 
「今日、めっちゃ晴れてるのに」
 
「でも、里絵がいうといつも当たるよね」
 
「そうそう」
 
明日が雨だって、偏頭痛さえ持っていなければそんなに嫌なことでもないんだろうけれど、

雨予報をされたみんなはやっぱりどこか不満そう。よし、伝染完了。私の憂鬱。

だけど、その日はいつもと違うことが起こった。
 
 
「明日、雨降るの?」
 
 
好奇心旺盛のわんこみたいな目をした女の子が、私の目の前にひょこっと現れた。

あ、この子。

転校生だ。

転校生の——相田なな美。

一週間前ウチの中学校に来たばかりでまだ全然喋ったことがない。

髪の毛とか、あまり手入れしてなさそうな感じで、ショートカットの髪は寝癖がついたまま。

初日こそ皆好奇心で彼女にたくさん話しかけていたが、一週間が経った今ではすでに彼女の周りに群がるクラスメイトはいなくなっていた。クラスでも地味だと言われている女子が一人、二人一緒にいるだけだ。

私はもともと彼女と話したことがなかったので、このとき急に話しかけられたのには少しばかり面食らう。
 
「え、そう。明日雨、降ると思う」
 
「へぇ! ありがとう、結城さん」
 
「え? あ、うん」
 
目が覚めたら目の前にお肉を見つけたわんこみたいに、相田なな美は喜んでいるように見えた。

その姿が私には不可解で仕方がない。

いいことを聞いて、盛り上がった気分そのままに、彼女は自分の席へと戻っていった。

変な子だ。

後ろ姿を見れば、やっぱり髪の毛、跳ねてる。

なんなの、変なの。

声を大にして言うことはできないが、このとき私は彼女のことを理解不能な生物として見ていた。

その日の夕方。
 
「あ、降ってきた」
 
教室でホームルームをしている最中に、窓の外で雨がしとしと降ってくるのが見えて、落胆。

雨の速度に合わせて、私の頭はズキ、ズキ、と音を立て始める。
 
「はあ……」
 
終礼後、傘を差して校舎を出る。だんだんと強くなってゆく雨と、私の頭痛。最悪だ。せめて家に着いてから降って欲しかった。

帰り道、頭痛に苛まれながら歩いていると、視線の先でしゃがみ込んでいる人影を見つけた。

「あっ」と声を出すと、その人は——相田なな美は、私の方を振り返り「結城さん」と嬉しそうに声を上げた。

その腕には、一匹のわんこ。側に、段ボール。

どうやら彼女は、道端に捨てられていた犬を持って帰ろうとしているみたいだった。
 
「その犬、どうするの?」
 
話しかける義務はなかったけれど、なんとなく、昼間の彼女の不可解な言動が気になって訊いた。
 
「持って帰るの」
 
「へえ。飼うの?」
 
「ううん。うち、貧乏だから動物飼えないんだけど、どうしても、この子を飼いたいってお母さんに言ったら、『じゃあ雨の日だけ持って帰ってきていいよ。雨に打たれるのかわいそうだから』って許してくれたの」
 
「ああ……」
 
「雨が降る」って言った時の、彼女の嬉しそうな顔が、一匹のわんこに注がれている愛情だって、ようやく分かった。
 
「その子、嬉しそうだよ」
 
しっぽを降って相田なな美の腕におさまる犬を見てると、自然と頭痛のこと、忘れてた。
 
 
【終】
 
 
 
 
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2020-05-08 | Posted in チーム天狼院, チーム天狼院, 記事

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