チーム天狼院

「やりたいことが分からない」という病


 

記事:山本海鈴(チーム天狼院)

 

「ねえ、どんな人間になりたい?」

そんな「深い」話をしつづけていたことがある。
成人したばかりの頃だった。
仲の良かった友達が、ふと、そう訊いてきた。

未来は見えなかったけれど、大人ぶって、いっちょ前に「自分はどんな人間なのか?」を示したかったんだと思う。

その時に口にしたことは、なぜだか今でもはっきり覚えている。

「手持ちのカードをたくさん持っている人間になりたい」

と。
カードゲームでの自分のターン、次の戦略を考えている時。
「この戦略もいける」「これもいける」「こっちの手札まで出せる」
相手に繰り出せる企みのパターンを、いつでもたくさん持っている状態になりたい。
漠然とだが、そう思った。
そうして、ぽん、と口に出した言葉だった。

正直に言ってしまう。
明確に「これをやりたい」というものは、私にはなかった。

だから、これだ! というやりたいことがハッキリとあって、目指している人が羨ましくて仕方なかった。

好奇心だけは強い人間だった。
面白そうなものにはすぐに反応してしまうし、手を出してしまいがちだ。
けれど、それは反面、一つのことを極められない人間ということだ。
それなりにできることはたくさんあるけど、何か一つを極めているかというと、どうだろうか?
全部ぜんぶ、中途半端に終わっていないか?
そんな風に、考えていた。

一つのことを極められない自分からの、逃げと、コンプレックスと。

「手持ちのカードを増やしたい」と答えたのも、引け目からだったのだと思う。
なんとなく、そんな風に言っておけば、様になるかなと、口から出た虚栄だったのかもしれない。

当時は、あまり考えずに発した言葉だったのに、なぜだか妙に、記憶に残っていた。

月日は流れた。
縁あって、私は天狼院書店で働いている。

さまざまなゼミやイベントがあって、その道のプロの方がたくさんいらっしゃって。
日々、忙しくも、学ぶことばかりの場所でありがたくも居させていただいている。

しかし、それでも、

「自分が何をやりたいのか分からない」

そのコンプレックスからは、なかなか抜け出すことができないでいた。

書くことに強みを見出す者。
撮ることで、力を発揮する者。
鋭い着眼点で、問題の確信をつく者や、
仕組みの改善点を見つけ出していく者。

自分の方向性や「らしさ」を発揮する者の中で、
また、たくさんのプロの方の技術を近くで目の当たりにする中で、
私は依然、これといって「◯◯がやりたい!」「私は、こうである」というものが、分からないままだった。

肩書きに書けるものは、ない。

そのコンプレックスが、心の中で暗い影を落として、ずるずると引きずられていた。
ずっと、そのことを考えていた。

払拭されたのは、ある日のことだった。

「やりたいことなんて、分からなくていい」

それもまた、あるゼミで、聞いた言葉だった。

「やりたいことなんて、分からないままでいい。まずは、目の前のことを全力でやる。そうして、周りから求められたことが、やりたいことになる」

目の前が、晴れたような気がした。
「やりたいことが分からない」ことは、ずっと、いけないことだと思っていたのだ。

ここにいると、やりたいことがたくさん出てきてしまう。

ライティング、小説、カメラ、デザイン、動画……
好奇心の強い人にとって、こんな恰好の場はないのかもしれない。

しかし一方で、「何かができないといけない」と、思ってしまうことがある。

「浮気性だ」「一体やりたいことは何なのか?」とこともあるかもしれない。

今は、やりたいことは、分からなくていい。
量をこなすと、いつの間にかできることが増えている。
そして、周りから求められていることが、そのうち、やりたいことになっている。

必要なのは、今、取り組んでいる、目の前のことをやること。

好奇心はそのままに、一つ一つ丁寧にいくことが、大切なのだ。

今はまだ、それは、手持ちの中でも弱いカードかもしれない。

けれどそれがいつか、必殺カードになるに違いないのだ。

だから今は、一つ一つを大切に育てよう。

 


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2020-05-11 | Posted in チーム天狼院, 記事

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