若き友人に忠告したい、Dがないと 実らないのだ、と。
記事:西部直樹(ライティング・ラボ)
最近、将棋をはじめてしまった。
しまった、と歯切れがよくないのは、本当に何気なくなので、なんと説明していいのかわからないからだ。
将棋は子どもが小さいころ、テレビゲームの代わりに将棋盤を与え、子どもと一緒に駒の動かし方を覚えたくらいである。
それから10年あまり、なんとなくネット上のコンピューター対戦型将棋をはじめてしまったのである。
仕事の合間の息抜きにと思ってのことだが、これがなかなか面白い。
ハムスター相手に闘うのだが、面白いように負ける。
10枚落ちでも勝てない。10枚落ちというのは、相手は「王」と「歩」しかない。
それなのに、勝てない。
将棋を知っている人なら、10枚落ちの相手に勝てないことがわからない、というだろう。
初心者は勝てないのだ。
勝てないけど、面白い。
なにが面白いかというと、どうして勝てないのか、どうしたら、勝てるのか、と考えるのが面白い。
次はこれで行ってみようと、思いついたことを試してみる。試してみると、思い通りに行ったり、行かなかったり、それが面白い、楽しい。
そして、新機軸はいいとこまでいったのに、やはり負けた。
悔しい。どうしてか、それを考えるのも楽しい、面白い。
うん、待てよ、いや待たなくてもいいのだけれど、
この面白いサイクルは、どこかでやったことがあるような……。
この天狼院書店も、面白いことをしている。
昨年劇団を立ち上げて、旗揚げ公演をした。800席の劇場を満席にすると意気込んでいたのに、旗揚げ公演の日は、ガラガラだった。
こんな失敗、たぶん大赤字を出したら、普通は引き下がり、本業回帰と劇団から手を引くところだ。
ところが、今年の三月にもう一度公演をしたのである。店主は新しい方程式を作ったと語り、改訂版の方程式通りになった。
今度の集客は前回の9倍にもなった。
普通、ある程度の成功を収めたら、本業回帰といって幕を下ろすところだ。
しかし、年末にもさらにパワーアップして公演を打つという。
これは、次の手を考える、やってみる、振り返って工夫を重ねる、そして次のステップへという、ひとつひとつの段階が面白くて仕方ないのだろう。
店主は、最初はガラガラで悔しくて風呂場で泣いたと語っていた。
が、はたから見ていていると、楽しくて、面白くてしかたない、としか思えない。
面白くて、楽しくて、ワクワクするから、サイクルが廻っていくのだろう。
私のヘボ将棋と劇団天狼院を比べるのは、あまりにも違っていて申し訳ないのだが、違っているけど、同じなのだ。
将棋のスキル獲得も、ビジネスも、PDCAのサイクルになっているのだ。
Plan (計画)
Do (実行)
Check (振り返り)
Act (修正)
思いついて(計画)、やってみる(実行)、やってみるとうまくいったりいかなかったり、そこでどうしてうまくいったのか、いかなかったのかを考え(振り返り)、次はうまくいくように工夫し(修正)、次のことを考え……
というサイクルのことである。
これは新人の頃に叩き込まれる、ビジネスの基本中の基本の考え方だ。だが、往々にしてなかなかうまく廻らない。
どうしてか、それは「面白い」と思えるかどうか、だと思う。
計画の段階で、これは面白いことだ、と思えないものを熱心にやりたがるだろうか?
実行の段階で、面白いなあ、と思えないことを、次もやりたいと思うだろうか?
振り返りの時、面白いと思えなかったものを、真剣に振り返るだろうか?
修正の段階で、次はどうしようとワクワクしていなかったら、次の工夫を考えるだろうか?
そして、このサイクルは、どこかが抜けたら、廻っていかない。
振り返りと修正は欠かせない。
振り返りと修正がないと、上昇には転じないのだ。
振り返りと修正の重要さは、大学生のレポートから学んだ。
大学で非常勤講師を務めた時、学生の評価は試験ではなく、レポートで済ませることにした。
試しにレポートを書かせてみたら、これが酷かった。なにが書かれているのか、あまりにもわからないのだ。
思いのたけは書かれているのかも知れないが、レポートになっていない。生活作文ですらない、というレポートの山に頭を抱えてしまった。
そこで、集中講義の最初にレポートの書き方を説明し、毎日書かせ、翌日までに添削(赤字を入れ)返すようにした。するとどうだ、日々うまくなっていくではないか。
最初のレポートがあまりに悲惨なので、学生たちに聞いてみた「レポートの書き方は習わなかったのか?」と。
「一年の最初に習ったような気がします」と言うのだ。
習ったはずなのに、なぜ書けない。
ここでハタと気がついた。
学生たちはレポートの書き方を学んだ。そして、レポートを書いてきた。しかし、レポートは書き放しである。
教員の求めるままに書いて、提出していくだけなのだ。
Plan、Do はあるけれど、CheckとActがないのだ。
だからスキルが定着しないし、レポートは向上しないのだ。
PDCAサイクルが動いていなかったのだ。
もちろん、書きっぱなしでは面白いはずもない。
PDCAサイクルが廻れば向上するし、まわすには面白がることなのだ。
スキル獲得もビジネスもと書いたけれど、これは、恋愛にも当てはまるのかもしれない。
恋をする。
どのように告白しようか、と考える。
実際に告白してみたら、うまくいくかも知れないし、いかないかも知れない。
うまくいったらいったで次のステップを考え、実行し、戸惑い反省して、また次へと進んでいく。
うまくいかなかったら、また、次の恋に備えて、振り返り、となっていく。
そうなのだ、恋はPDCAサイクルを廻さないと、得るものはないのだ。
もちろん、恋ほど面白いこと、楽しいことはない。どこをとっても楽しさ、面白さにあふれている。
某書店で知り合った若い男性に、恋したら、次は行動あるのみだ、PあればDだと、後押ししたことがある。
素直な青年は、次の時にD(告白)した。そして、恋は実り、彼はハッピーになっている。
日々、CとAも欠かさないだろう。
それに比して、別の若い友人は、Pの段階で終わってしまった。
Pでは実る恋などないのだ。
Dがなければ、次はないのだと。
と、この原稿を書く合間に、一度ハムスターと対戦したら、なんと勝ってしまった。
ふふ、振り返りと工夫が勝利を呼んだようだ。
次は、9枚落ちに挑戦だ!
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