9代目秘本は、遅効性の薬のようだった。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:松下広美(チーム天狼院)
なんで、ここで!?
土曜日の朝8時過ぎ。
地下鉄丸ノ内線。
東京駅から池袋に向かう車内で、涙がこぼれそうになった。
車内は、土曜日の朝だからなのか、外出自粛の影響なのか、席がひとつづつ空けられるくらいの人たち。
前に座る人には悟られないよう、涙の波が過ぎていくのを静かに待つ。
この瞬間に、なにかが起きたわけではない。
地下鉄の車内で座っている。
ただ、それだけ。
いや、それだけじゃない。
朝の地下鉄で涙がこぼれる、10時間ほど前のことだった。
おかしい。
こんなはずじゃない。
予想とは違う。
予想っていっても、本の、物語の、最後の結末の予想、ではない。
私自身の反応の予想。
もっともっと心が揺さぶられて、泣くはずだった。
涙が止まらないくらいに。
泣ける物語じゃなかったんじゃない?
そう言われるかもしれない。
普段なら、こんな気持ちにはならない。本を読むときに、自分は泣くはずだ、なんて予想はしないから。
でも、違うんだよ。
だって読んだのは、9代目秘本なんだから。
秘本。
天狼院書店の店主である三浦が、本当は独り占めして、
誰にも教えたくないほど素晴らしいと思った作品。
その作品を、
・タイトル秘密です。
・返品できません。
・他の人には教えないでください。
といった条件で販売する、天狼院の人気シリーズ。
お客様時代に、私も購入している。
天狼院書店で最初に購入した本。
しかも、店舗を訪れる前に、秘本の紹介ページの文章に惚れて買った。
6代目秘本の「309(サン・マル・ク)の衝撃」だ。
読み進めていって、その309ページが楽しみで楽しみで仕方なかった。
何が起きるんだろう、どんな展開になっていくのだろうと考え、予想した。
そして、309の衝撃に触れながら、すでに勢いは止められず、一気に読み終わったことを覚えている。
それからも、秘本が出るたびに、すぐに購入して楽しんだ。
だから、今回も楽しみだった。
4月の終わりに秘本の発売が発表された。
5月からスタッフとして天狼員に合流することが決まっていたが、早く秘本を見たくて読みたくて、通販で頼んでしまおうかとも思った。
店舗が営業していないことや、ちょっとバタバタしていて、手にするのが遅れてしまったけれど。
時間をちゃんと確保して、読み進めたかった。
じっくり味わいたかった。
だって、9代目秘本は、
「頭が痛くなるほどに泣かされ、一日で1.25kg体重が減った本」
と、紹介されている。
泣ける本とわかっていて、外では読めないと思った。
過去に、泣ける本を外で読んでいて、涙が止まらずに困ったことがあるから。
例えば、美容院で。
本を持ち込んで読書時間にあてることが多いのだけど、持っていった本で急に泣けるシーンがやってきた。
ヤバい。そう思ったときには手遅れで、ポロポロ涙がこぼれた。
ちょうど美容院のスタッフさんは忙しそうに動いていて、こちらを見ていないときだったのでなんとかごまかした……と思っている。
それ以来、美容院では、泣きそうな物語の本は持っていかないようにしている。
それに、クライマックスにさしかかっている本は美容院では読まないようにしている。
美容院じゃなくても、そろそろクライマックスで、絶対泣いてしまうシーンだ、というのはひと呼吸おいたりもする。
ひどいと、嗚咽するくらい泣いてしまった本もあるから。
それでも、電車の中だったり、仕事の休憩中だったり、泣けるシーンは突然、予想もせずにやってくる。
だから、今回も、予想をしていた。
きっと、このあたりでくるはずだ、と。
9代目秘本の最後の一文を読み終わり、本を閉じた。
あれ?
おかしい。
泣けない。
じわっと泣ける箇所はあった。
だけど……。
泣く準備をしていたのに。
なんなら、泣きすぎて困るんじゃないかと思っていたのに。
本を読み終わった後の、独特な空気に包まれながら、布団に入った。
なんでだろう?
おもしろくなかったわけじゃない。
おもしろい。
でも、泣けない。
私がおかしい? 泣けない人?
いや、泣けないなんて、そんなことはない。
本でもドラマでも映画でも、泣かせるシーンでは、必ずといっていいほど泣く。
なんでそこで泣く? という箇所でも泣く。
なんでだろうと考えながら、眠りに落ちた。
起きてからも、考えた。
本の内容を思い出す。
名古屋から東京に向かう新幹線の中でも、ずっと考えていた。
なぜ、泣けなかったのだろう、と。
物語の内容が難しかったのか……。
私に合わない内容だったのか……。
おもしろくなかったのだろうか……。
どれも、違う。
あっ。
ふと気付いたときには、泣いていた。
地下鉄の車内で、静かに。
溶けにくいカプセルのように、じわじわと効いていたのだ。
水道の蛇口からポタポタと出ていた水が、コップに溜まり、コップのふちから流れ出るように。
秘本から、静かに出てくるエネルギーは私の心をあたたかく包んでくれていた。
思い返してみると、場面のひとつひとつが映像で蘇る。
本の中に挿絵などは全くなかった。
文字だけだった。
なのに、映像で、色鮮やかに映る。
そして、風、空気、音、静かに思い浮かぶ。
店主三浦も言っていた。
必ず映画化するだろうと。
たぶん私は、映画で、号泣するだろう。
***
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