チーム天狼院

【誰もが知っているお話にもしも続きがあったなら】浦島太郎その後(なつ店長の妄想日記)


「昔、昔あるところに、、、」
誰もが知っているお話にもしも続きがあったなら
あの有名な主人公がその後の人生を生きていたら
どうなっていただろう。こんな妄想が頭の中を巡る。

あの時亀を助けなければ。
今更そんなことを言ったって、どうしようもないことは分かっている。
でも、そう考えずにはいられない。
それほどまでに今の俺は空っぽだ。
竜宮城と呼ばれたその場所に辿り着いた時、すでに俺の人生は終わっていたのだろう。
見たこともないような豪邸に涙が出るほどにおいしい料理。
目がくらむほどの金銀財宝。乙姫をはじめとする絶世の美女たち。
こう言葉を並べていけば楽園のように聞こえかもしれない。しかし今思えば

あれは地獄だった。

”玉手箱”
こいつを空けなければよかったのか。
絶対に開けないでください?それは絶対に開けろということの裏返しだろう?それどうだ。開けたとたんにさっきまで生き生きとしていた肌は水分を失い皺が寄り、若々しさを失ってしまった。鏡を見なくとも分かる。俺は歳を取ってしまった。もうただの老いぼれだ。俺の人生はもう終わってしまったんだ。
ただただ真っ当に生きてきたのに。正解ばかりを選んできたのに。
たった一つの大きな不正解によって
俺の人生はもう終わってしまったんだ。

「太郎の兄ちゃんじゃないか!ひっさしぶりだなぁ。」
ふと、聞いたことのある声に振り向く。
きりっとした眉とは対照的なかわいらしい瞳。歳をとっているがまちがいない。
亀をいじめていた少年の一人、次郎だ。
「全然変わらないなぁ。ここ何十年も見かけてなかったが、どこか旅にでもでてたのか?」この姿を見て変わらないだと?なんとも能天気なやつだ。変わってしまって姿に愕然としていた所だというのに。

「そういうお前は随分と皺が増えたな。もう亀はいじめてないのか?」
思わず皮肉が出てしまう。こんな自分に嫌気がさす。
どれもこれも全部亀のせいだ。俺は悪くない。
いや?というかそもそもこいつが亀をいじめていたのがいけなかったんだ。
おいおい、ちょっとまて。俺の人生を狂わせた張本人ではないか。

そんな俺の心の声とは裏腹に次郎は続ける。
「あぁ。そんなこともあったなぁ。あの頃は若かった。あんたに散散怒られてしょげて帰ったんだっけ。今思うとなんてバカだったんだろうな。」
本当にバカなやつ。そのバカのせいで俺の人生は散々だ。
いままでどんなときでも真っ当な道を歩んできた”エリート”だった俺がこんな目にあっているのに、こいつは。こいつは。
一発殴ってやろうか。いやそんなものではすまされないぞ。

「爺ちゃんこの人だあれ?」
ふと次郎の後ろからぼそっと声がした。
はっとして握っていた拳が緩む。
「おお、小次郎。この人は爺ちゃんの古いお友達だ。ご挨拶しなさい。」
「こんにちは。孫の小次郎です。」
きりっとした眉とは対照的なかわいらしい瞳。一目で分かる。こいつは次郎の血を引いている。
俺が一人で歳を取っている間。こいつは妻を取り、家庭を持ち、子供を育て、ついにはこんなかわいらしい孫に爺ちゃんと呼ばれるまでになっていたのか。なんだ。なんなんだ。間違いだらけのこいつが、俺にはできなかった「絵に描いたような正解の人生」を歩んでいるだと…

その時俺の中で何かが切れた。
「いやぁおっどろいたー。ろくな大人にはならないかと思っていたがお前にも孫ができるとは。人生分からんもんだな。え?悪さはもうあれっきりやめたのか?いやぁ、そんなこと無いだろう。お前のことだ。俺が竜宮城に行った後も相当色んなことをしてきたんだろうよ。問題児だったもんなぁ。亀をいじめるなんてかわいいもんだったよなぁ?小次郎しってるか?お前の爺ちゃんは昔なぁ….」
心よりも先に口が動く。もう、止めることができなかった。何かが自分の中で壊れてしまった。相手を傷つけよう傷つけようと次々と言葉が出てきてしまう。
しかし心の中ではもう一人冷静な自分がいる。
あぁ。どうしちまったんだ俺は。こんな嫌なやつだったっけ?
良心というものを竜宮城においてきてしまったのだろうか。
しかし、もう後悔しても遅い。次郎。小次郎。ごめん。ごめん。

「知ってるよ?」
泣き出すかと思っていた小次郎の瞳は涙で滲むどころか、なにか不思議なものを見るようにまっすぐに俺を見ていた。
その後ろにはなんともいえないの笑顔で次郎が立っている。
「そうそう。あんなことやこんなことまでなぁ。本当に。恥ずかしいくらい失敗してきたよ。でもぜーんぶ小次郎にも話してやるんだ。そんな失敗があったからこそ今の俺があるって思ってるから。」
さっきまでただただ蔑むべき対象だった次郎の皺は、一瞬にして貫禄と呼ぶにふさわしいものにかわっていた。

『もしあの時、亀を助けなければ』
俺もこんな風に歳をとれていたのだろうか。見かけだけでなくその人生を物語れるような皺をこの肌に刻めていただろうか。数々の経験をして、失敗もして、でもそれも含めて今の自分があるのだと胸をはって孫にいうことができただろうか。

それに比べ、今の俺はなんて空っぽなんだろう。たいした経験もせず、竜宮城で悠々自適に過ごしていただけだ。その間に次郎はこんなにも人生を深くしていたというのに。
そんな思いがぐるぐると巡る。

「リュウ、グウ…ジョウ?」

きょとんとした様子で小次郎が見つめている。
しまった。
興奮のあまり竜宮城の名を出してしまっていた。
そんなわけの分からない城の存在を口走って、ますます頭のおかしい奴だと思われてしまう!

「なにそれ!どこ?どこ?どこにあるの??」
どうやら小次郎は聞き慣れない言葉に興味を持ってしまったらしい。
好奇心まで祖父ゆずりか。
しかし、もういい。どうにでもなってしまえ。
「竜宮城っていうのはな...」

”架空の城の存在を信じているいかれた奴”
そんなレッテルを貼られてしまうのだろうか。いや、竜宮城は俺の頭の中の妄想の産物であって存在しないのかもしれない。
となるとこのレッテルもあながち間違っていないのか?もう訳が分からなくなってきた。

しかし一度話を始めると
そこからは一気に。一気に話をしていた。

その城がいかに荘厳で、
その料理がどれほどおいしくて
その宝石がどれほどまでに輝いていて
乙姫が、どんなにどんなに美しかったかを

竜宮城がどんなにすばらしい場所であったかを

小次郎の好奇心あふれるまっすぐな瞳に、さっきまでのくらい感情を一気に忘れ、素直な感情をありのままに語っていた。
頭のおかしなやつ。そう思われてもいいのかもしれない。
ドロドロの感情なんて置いておいて、素直に気持ちをいってしまおう。
もう。

「へぇー!!爺ちゃんとぜんぜん違う!!こんな話初めて聞いた!人って色々な生き方があるんだね!」

長い長い話を終えて、小次郎は俺を蔑むどころか、尊敬のまなざしで俺を見つめていた。

生き方。
そうか、これが俺の生き方。
亀を助けたっていうちょっとしたきっかけから、
竜宮城にいって 他の人にはできないような色んな経験を俺はしてきた。
妻も、子供も、孫もいない。世間的に見たら不正解の生き方。
でも
俺は俺なりに生きてきて。だからこそ今の俺がいるんだ。
正解なんてない。

そうか、これが俺の人生だったのか。

(※これはあくまで店長なつの妄想です。)
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