チーム天狼院

世界一の殺し屋「サイレンス・ヘル」ひかるに気づかされたこと《ありさダイアリー》


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東京天狼院のスタッフで、
いつも一つに結んでいた長い髪を
バッサリ切った女の子がいる。

劇団天狼院で男子役をするため。
はい、ひかるちゃんです。

ある日の東京天狼院、ひかるちゃんはあるスタッフと話していた。

舞台用に短くするって言ったんだけど、
普段は女の子で居られるようにって気を遣ってくれたみたいで…
じゃあ、ワックスつければいいんじゃない…
あと、もっと段つけるとか…
もっと男子にしてほしかったなあ…

そんなスタッフどうしの会話を、横で聞いていた。
なんか羨ましいなあ、と思ってしまった。

さらに、劇団仲間とも同じような話をしていた。
どうすれば、男らしくなれるかについて。

おでこをもっと出せばいいんじゃない…
もっと行動も大雑把になれば…
いや、ガサツにはならなくていいんだけど…

お客様とのやり取りを聞いて、
またしても、いいなあ、と思ってしまった。

実は、私も男らしくなりたい、と思っていたことがあった。
小学校高学年の頃の私がそうだった。

髪は短いショートカット。
着ているものはジャージかパーカーばかり。
スカートは、絶対履かなかった。
男子に混ざって殴り合いをすることだってあった。
朝はサッカーをするためにグラウンドを走り回っていた。
小学六年生のクリスマスプレゼントだって、エナメル素材のスポーツバッグだった。

当時の私は、可愛さよりも、強さを求めていた。
女の子が着る、フリルやリボンのついた服は、弱そうだった。
私はそんなか弱そうに見える服は着たくなかった。
そんなのは、自分らしくない、と思っていた。

私はかっこいい自分で居たいと思っていた。
運動ができて、勉強もできて、サバサバしていて、
その気になれば喧嘩だってできる、そんな強さが欲しかった。
かっこよさこそ、自分らしさだと思っていた。

結果として、当時は女の子、というよりは男の子に近かった。
ショートカットなのも、スポーツブランドばかり身につけているのも、男っぽいと思わなかった。
似たような友達もたくさん居たし、そもそもクラス内でも男女の違いがあまりなかった。だから、疑問も持たなかった。

そんな小学校生活を終え、迎えた中学校の入学式。
新しい制服に身を包み、スカートを履いた時に、なんとなく違和感を覚えた。
サイズが合ってないのはもちろん、なんとなく、しっくりこない感じ。
まあ、気のせいだろう、と思ってその日は出掛けた。

しかし、数日経つと、違和感は確信に変わった。

女の子は女の子どうしで固まっている。
男子と一緒になって話すことすらしない。
女の子どうしで話すことは、ドラマや芸能人のことばかり。
スポーツバックを持っている人なんていない。
持っている小物の一つ一つが女の子らしくて、可愛い。
怒って手が出る子なんていない。
ちょっと驚かしただけでも、きゃーー!なんて言われる。

 

なんだこれは。
ここは、どこだ。

 

女の子らしさに満ちた世界。
こんな世界に染まったら、私は自分らしくいられなくなる。
私は、自分のアイデンティティを失うのを恐れた。
周りに流されず今まで通りでいよう、と決心した。

決意の通り、私は強くて、かっこいい自分を保ち続けた。
他の女の子のようにねちねちしないことを心がけた。
ゴツいカバンや靴を身につけていた。
髪だってショートカットのままでいた。

さらに、陸上部でよりかっこよさを磨いた。
走り込んだ足にはどんどん筋肉がついていった。
腹筋を割りたくて筋トレも頑張っていた。
練習で擦りむいて血を流したりすることもしょっちゅうだった。

しかし、どうしても女の子らしくなってしまうことが一つだけあった。
学校に行くのに、制服を着る時だった。
スカートを着ることで、あの違和感だらけの世界に入った気分になった。

私は、あんな可愛い女の子たちとは違う。違うんだ。
私は、一緒になったら絶対にだめなんだ。というか、なってたまるか。
毎朝、そう抗わなければ、やっていられなかった。
だから、制服は大嫌いだった。

そうやって女の子らしさに反発し続けていたが、
やはり女子である以上、生きづらさを感じずにはいられなかった。
苦しい。
辛い。
寂しい。
そう思うようになってきた。

私は、周りとは違うと思い、今まで通りに過ごしてきた。
そのことで、「自分らしさ」を守ったつもりだった。
しかし、こんなに意地になっている理由が自分でもわからなくなってきた。
かっこいいー!と言われても、以前より喜べなくなってきた。

可愛くて、キラキラしている女の子の世界。
嫌だ、と思ったけどこの世界に入ればずっと楽なのは間違いなかった。

すっかり弱った私は、ある決断をした。
もう、女の子の世界に入ってしまおう。
この時私は、自分らしさよりも、生きやすさをとったのだった。

まず手始めに、私は髪を伸ばし始めた。
女性誌を買って、女の子らしい服装にしようと努力した。
女の子が好きな番組やブランドの情報も押さえていた。

 

高校に進学する頃。
私は、「女の子らしさ」を取得していた。
身長が伸びきった私には、高校の新しい制服もすぐに馴染んだ。

革の通学カバン。
ストレートのロングヘア―。
ブラウンのローファー。

ヘアアレンジをしたり、
アクセサリーを身につけたり。
私服は、スカートばかり。

友達と長時間おしゃべりしたり、
スイーツを食べにいったり、
遊びに行くたびに、プリクラを撮った。

こうして私はすっかり「典型的なジョシコウセイ」になった。

実は、この頃もジャージが好きだった。
やはり、自分らしい恰好だと、安心できるから。
高校生になって女の子らしくいるのには慣れたけど、
かっこよさや強さだって持っていたかった。

高校で運動部に入ろうと思った理由の一つは、
かっこいいジャージを着たい、という思いがあったから。
自分らしい恰好でいる時間もほしかったからだ。

ランニング用のTシャツや靴。
ジャージやウィンドブレーカー。
それらを身に付けると安心して、ちょっぴりテンションが上がった。
やはり大好きだった。

普段は女の子らしい生活をしつつ、
部活の時は、自分らしく。
この生活はなかなか快適だった。

 

時は流れ、大学生になった。
制服がなくなった。ジャージもほぼ着なくなった。
毎日、私服だ。
かっこいい私服で固めたってよかった。

しかし、私はそうしなかった。

カジュアルな私服はあまり着ない。
スニーカーも、履かない。
ジャージなんて、もっての外。

今の私服はスカートばかり。靴も、ヒールが多い。
かばんも、服も、女の子らしくてきちんと見えるものを選んでいる。

女の子らしさを装っていたはずなのに。
カッコよさこそ、自分らしさだと思っていたはずなのに。
女の子らしさに嫌悪感すら抱いていたのに。
私は、女の子らしい恰好を自ら選んでいた。

なぜか。

私は、ひかるちゃんが言っていた、
あの一言で気づいたのだった。

 

「可愛くちゃだめなんです!!」

 

ななみが、ぴかるが可愛いんですー、と言っていたのに返した言葉だ。
可愛いのがだめなのは、ひかるちゃんは男子役を演じることになっていたから。

ひかるちゃんが男子役なら
可愛くてはダメなように、

私は周りから「女の子らしい自分」だと思われているなら
そう振舞わなければダメだ、と思うようになっていた。

私は、「女の子らしい自分」に、慣れた。
そのことで、「女の子らしさ」で居続ければならない、と思うようになっていたようだ。
もう私は、「かっこいい自分」という「自分らしさ」に戻れなくなってしまったのだ。

 

ひかるちゃんの男らしさとはなにか論争を聞いていて、羨ましくなったのは、
またボーイッシュになりたい、と思ったからというのもあるだろう。

しかし、それ以上に
「世界一の腕をもつ殺し屋、岩田ひかる」
という、普通ではありえない属性になれるのが羨ましかったのだ。

今の自分ではない、「いつもとは違う自分」に堂々となれるからだ。

今までに、想像したことはないだろうか。
もし、魔法使いだったら。
もし、空を飛ぶ能力を持っていたら。
もし、スポーツ万能のイケメンだったら。
もし、誰もが振り向く美少女だったら。
もし、他人には言えないような危険な仕事をしていたら。

これは全て、「仮定の話」ですけどね。笑

 

もちろん、今の「自分らしさ」も嫌いではない。むしろ、その通りだ、と思う。
女の子らしさ。優しさ。真面目さ。
よく、私が言われる「ありさらしいところ」だ。

だけど、時々、「私らしく」いるのに疲れることがある。
周囲が期待しているような、「私らしさ」を演じている、そんな感覚がするから。
だから、「仮定の話」みたいな自分を想像してしまうのだ。

 

もし、私も「仮定の話」を実現できたなら。
それはけっこう面白いのかもしれない。

 

殺しの腕世界一「サイレンス・ヘル」、ひかると
『受注数』世界一の殺し請負会社社長の、ななみ。

舞台の上の二人を見て、そんなことを思ったのだった。

 

 


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