【天狼院書店に来る前に絶対読むべき失恋話】3週間泣き明かして、やっと私は彼との別れを受け入れようと思う。≪のろチャンネル≫
記事:野呂
どんなに事前に予想がついて構えていても、
どんなに理由が頭では納得できるものだったとしても、
人は本当に好きだった人にフラれると、
ずるずるずるずると、
考えても仕方のない、今となっては悲しい思い出話に浸ったり、
分かりきっているフラれた理由を何度も問い直してしまう。
ここ3週間もっぱらフラれたことしか考えられず、
私の脳みそは今ぶよぶよにふやけきっている……。
私は早稲田大学に通う2年生である。
早稲田と聞くと、高田馬場を思い浮かべる人が多いと思うが、私は都電が好きで、池袋で乗り換えるとき、山手線で高田馬場とは反対側に一駅、大塚駅まで遠回りして、東京に唯一残ったレトロな路面電車に乗ってトコトコ通学する。
都電のあのかわいらしい車体、心地よい速度、優しい車掌さん、車窓から見えるのどかな景色、それらが合わさって醸し出されるなんとものんびりした雰囲気が好きだ。
でもそれだけなら、たまに小旅行気分で乗ればよい。何も通学で使う必要がない。
どうせ池袋までは同じなのだから、近いし安いのは高田馬場で東西線に乗り換えるルートである。そして何より「馬場-早稲田」は、早稲田生の王道である。
しかし、私はその乗り換えが嫌いなのである。
馬場の駅は狭くて人が多くゴミゴミしていて、改札を出たとたん人が四方八方から押し寄せてきて、転覆寸前の小舟に乗っている気持ちになる。あれにどうしても耐えられず吐きそうになる。(実際ロータリーには吐いている人も多数転がっているらしい)
真っ暗で閉鎖的な地下鉄も、どこかまずいところへ迷い込んでしまったのではないかと身体に焦りが生じてくる。
そんなストレスフルな毎日は嫌だ! と、駄々をこねて都電に乗っている。
大塚なら、駅はきれいだし、改札の前も広いし、3つの線の交わる馬場より人も少ない。電車に乗るために、地下に潜る必要もないのだ。
私のキャンパスライフがバラ色なのは、何を隠そうこの大塚駅と都電のおかげであることが理由の7割は占めている。(それって幸せなの? という質問は愚問。幸せなんです。)
「バラ色のキャンパスライフ」と聞いて、電車を思い浮かべるのはおそらく電車オタクでも少数なのではないかと思ってみなくもないが。
でも実は、世間的な意味での「バラ色」なことが、なかったわけではない。
それはある日の大塚駅。
その日たまたまSuicaを忘れてしまって困っているところを助けてくれた、親切な人がいた。
タイトルから分かる通り、その人が後の「元カレとなってしまった人」である。
私はそんな未来を想像できるほど冷静ではなかった。
なんせ彼は親切なだけでなく、見た目もどストライクで、お付き合いすることになったとき、普段SNSは見る専に徹している私も、ツーショットの写真を世界中にばら撒きたいと思うほど嬉しかった。
いわゆるイケメンではないのかもしれない。といいつつ、世間に疎いので、いわゆるイケメンがどういう顔なのか、私にははっきり浮かばない。
でも彼はこんな精神老婆にも優しい、柔らかい雰囲気の好青年だった。
「イケメン」というカタカナの持つ、「きまってる!」感じは、私にとってはある種攻撃的に感じられてしまう。
私のように、ドジで、とろくて、のろまな奴は、一緒にいるとイライラして仕方ないんだろうな、と勝手に思ってしまう。
その点、彼は絵にかいたような好青年だった。トキメキも安心感もどっちも与えてくれる。
それは、デートスポットのチョイスにも表れている。
大学生のデートって、普通どんなところに行くんだろう。
新宿とか渋谷で待ち合わせて、一緒にショッピングとかするんだろうか。
洋服とか、「あーこれ似合うね」ってするんだろうか。
そんなの絶対緊張する。買い物慣れしてない芋っ娘は、洋服を手に取るということができない。「センスな!」と思われたくない。そんなことデート服のチョイスの時点でそんなことバレてる、と割り切ろうとするならば、今度は一生デートに出かけられなくなってしまう。
でも、彼が連れて行ってくれたのは、静かな音無親水公園の桜の中だった。梅雨の甘泉園だった。鬼子母神の夕顔市だった。飛鳥山公園の紅葉だった。地名の響きだけでもなんだか心弾む。
そしてお散歩は、体を動かすからだろうか、話も弾む。自分が自分じゃないみたいだ。
あと特に楽しかったのは、ジョイフル三ノ輪という商店街だった。
え、商店街?(笑) だっさくない? そう思うかもしれない。
私の知っている商店街は、社会の教科書の中の「シャッター商店街」だった。
古くて、すさんでいて、さびれていて、
よどんだ空気が、こちらの生気も吸い取ってしまいそうで、近づきたくないものだった。
でもジョイフル三ノ輪の明るさと言ったら!
段ボールに入ったままの色とりどりの野菜たち。
値段や産地は、段ボールの簡易なプラカードにマッキーで手書きで書かれているのだが、素朴な割に、きちっとそろっていてきれい。
味噌屋さんのいろんな茶色の味噌の山。
切り身にされていないキラキラした魚たち。
レジとショーケースの奥に、調理場の様子が見える種々の惣菜屋。
たとえば、餃子やおでんの具や揚げ物。
蛍光のポップがかわいらしいパン屋。
上品にちょこんと座った淡い和菓子たち。
なんか臭い……、どこかで嗅いだことある、なんだっけ……と思っていたら、
ぬかを被った大根やキュウリやらが籠の上でだらんとしていた。
ああ、おばあちゃんちで嗅いだ匂いだった。
どれも食べてみたくて、でもそんなにたくさんおなかに入るわけじゃないから、もどかしさが募る。
中学生の時、越谷レイクタウンができて、広すぎて1日じゃ回り切れない! なんて騒いでいたけれど、
ジョイフル三ノ輪こそ、とても1日じゃ食べつくせない。遊びきれない。
そんなトキメキと安心感に溢れたデート。
天狼院書店に連れてきてくれたのも彼だった。
彼はトキメキと安心感を与えてくれるスポットをたっくさん知っている。
……今さら楽しい思い出を語っても、さらに虚しさが増すだけである。
それでもそればっかり考えてしまう。
ああ、どうしてフラれちゃったんだろう。
そんなこと、問い直すまでもない。分かりきったことだし、仕方のないこと。
彼は悪くない。
2月7日。彼との最後の日、彼はこう言ったのだった。
「ずっと今日って決まってたんだ。だって、
今日が僕の有効期限日なんだよ。」
そう、彼は都電の「紙の」定期券である。
それまでSuicaに都電の定期券を付加して、JRと同様にタッチして都電に乗っていたが、
定期の期限が切れたその日に、Suicaを家に忘れてしまった。
今日1日分もったいないけど、現金で払って明日から定期にするしかないか……
そう思っていたときに、紙の定期券が親切にも助けてくれたのである。
紙の定期券が手に入ったとき、それはそれは舞い上がった。
IC機能のある「きまってる!」Suicaとは違い、柔らかくてぬくもりのあるデザイン。手にしているという実感。
彼に頼れば、
音無親水公園や飛鳥山公園のある王子駅前、夏に夕顔市の開かれる鬼子母神、都会のオアシス甘泉園のある面影橋、ジョイフル三ノ輪のある三ノ輪橋、そして天狼院のある都電雑司ヶ谷。どこへでも連れて行ってくれる。
あ、通学定期のはずが大学のある早稲田を忘れていた。
もちろん定期券でなくても、あれもこれも、都電はどこまで乗っても165円。
大学と、天狼院書店と、そのほかのトキメキと安心感溢れるこれらの素敵な場所は、
都電の線路で全部つながっている。
天狼院に初めて来るお客さんの多くが「駅から遠い」とおっしゃる。
池袋駅からは確かに遠くて、なかなか着かないから、道があっているか不安になる。
でも都電雑司ヶ谷で降りて、ミニストップの方に向かって歩けば、道の左の甲州屋さん(蕎麦屋さん)の2階にすぐ見つかるはずだ。居酒屋とみーさんの向かい。パンプキンさん(パン屋さん)の手前。
それに、初めての方でなくても、もし天狼院で何か本にときめいて、買っていただいたときは、都電に乗ることをお勧めしたい。
だって、一刻も早く読みたいですよね? 歩いている時間がもどかしいですよね?
お休みの日は、「天狼院プラスどこか」という過ごし方も素敵だろう。
都電沿線のの素敵な場所で素敵な時間を過ごし、感度が高まってから天狼院に来たら、いい本を見つけられる直観的な力が強まるかもしれない。
天狼院で買った本を持って、次の目的地まで都電ののんびりした雰囲気の中で読み、晴れている日は公園に降りて、野外で読むのもいいかもしれない。
そんなわけで、
天狼院にお越しの際は、是非都電も使ってみてください!
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