チーム天狼院

【カラフル】本をあまり読まない母へ、母の日と託つけて書店員の娘から《直接は伝えられないからこの本を君に贈る》


カラフル2

 

お母さんへ

 

今日は、わたしが生まれてから二十回目の母の日ですね。でも、わたしが「ありがとう」とか「感謝」とか「労い」とか言う言葉を覚えて、母の日に何かできた回数はそれの半分以下な気がします。

お母さんに気持ちを伝えるこの日に、自分は何かしたことがあったでしょうか…… 特に記憶に残らないくらい何もできていないようです。でも実家に帰ると、以前わたしが母の日に贈った似顔絵付きのマグカップや、手紙、造花のカーネーションを目にすることがあります。ずっと持っていてくれていることが嬉しいけれど、一方でそんな小さなことしかできていない自分が情けなく思うのです。

娘は今年で二十一歳になります。お母さんがわたしを生んだのが二十六歳だから、わたしがあと五年で母親になるという計算です。最近、そのことを考えると「いや、わたしには無理だ」そう思います。もちろん、あと五年で結婚相手を見つけられるかという問題もあるけれど。そもそも自分のことで頭がいっぱいで、わけがわからなくなることも多いし、まだまだ精神的に子どもから大人になれていないのに。もし、五年後に子どもができたとしてもちゃんとした人間に育てる自信がありません。

わたしは長女で、お母さんにとって初めての子どもだったから、何もかもわたしが初めてだったから、赤ちゃんの頃からずっと迷惑をかけてきたと思います。抱っこしていないと寝てくれないし、保育園には泣き叫んで行ってくれないし、お昼寝をしてくれないと先生に怒られるし、すぐどこかに行って迷子になるし、英語やりたいとか留学したいとか、東京の大学に行きたいとかお金のかかることばっかり言うし。こう文章に起こしてみると、本当に何してるんだこの子はって感じですね。

 

思えば、お母さんはわたしにたくさんの本を読んでくれました。シンデレラや白雪姫、三匹の子ぶた、長靴を履いたねこ、ジャックと豆の木…… わたしが初めて丸暗記した桃太郎もお母さんが何回も読んでくれた本でした。文字が読めなかったときからお母さんの声で聞いていた物語の世界は、どれもキラキラ輝いていて大好きでした。それからもずっと「みはる、ほしい本ないの?」と言ってくれて、たくさんの漫画や小説を買ってくれました。ここぞとばかりに読みたい本をいっぱいレジに持って行って、お母さんにお会計をしてもらうなんてこともありましたね。

「最近の若者は本を読まない」なんてことが言われているけれど、わたしは本が大好きです。高校までは漫画や小説しか読まなかったのが、大学生になってビジネス書や研究の参考資料として難しい本も抵抗なく読むようになりました。それもこれも、全部お母さんが小さい頃からずっとわたしに本を読んでくれて、買ってくれていたおかげだと思っています。

 

本好きが転じて今は、とても一言では言い表せないような面白くて、楽しくて、勉強になって、成長できる本屋である天狼院書店で働くことができています。

 

上京して三年目、料理も掃除も苦手なわたしは日々お母さんのありがたみを感じています。友達が何かに付け「お母さんに相談するわ!」と言っていたり、街中で母娘が一緒に買い物をしていたりする姿を見ると羨ましくも思います。でも、東京に出たいと言ったのは自分だから、忙しいからという理由で頻繁に帰省しなくなったのは自分だから、連絡をしないのも自分だから……

親の心、子知らず
という言葉があるように、まだまだ母になんてなれないわたしにはきっとお母さんの気持ちなんてわからないのだと思います。

だからこそ

上京して三回目の母の日は、カーネーションとか手紙みたいなありきたりなものじゃなくて『わたしにしかできないことを』『そんな娘だからできることを』『遠くにいても気持ちが伝わるものを』と思い

「カラフル」を贈ることにしました。

 


「カラフル」の主人公はある罪を犯し、物語の冒頭で死んでしまいます。犯した罪とは一体何なのか、彼は生き返る権利を手に入れるため、あるひとりの少年の体にホームステイしてその罪を探し、償います。彼が死ぬ前に見ていた世界はどんなものだったのでしょうか? ホームステイ中に見た世界とは違ったのでしょうか?

 

 

きっと、彼には死んだからわかったことがあるのでしょう。でも、わたしは今すぐ死ぬことはできないし、たとえ死んだとしても彼のように誰かの体にホームステイするなんて体験はできないのだろうと思います。

 

わたしは初めてこの本を読んだとき、わけもなく涙しました。何が悲しくて泣いているのかは全くわかりませんでした。もしかしたら、自分も「カラフル」の主人公のように、何か罪を犯しているのではないかと怖くなったのかもしれません。

実家に帰らなくなったことは罪でしょうか? 自分から連絡をとらないことは罪でしょうか? 母の日なんて特別な日にしか感謝できないことは罪でしょうか?

たとえそれらが罪だとしても、わたしは彼のようにその罪をやり直すことはできません。そう、死んでしまってから「ああ、やっておけばよかった」と後悔することだけは嫌なのです。「お母さんに、ちゃんと気持ちを伝えておけばよかった」と後になってから思うのは嫌なのです。

 

母の日に、お母さんに伝えるべき言葉はきっと

ありがとう

なのでしょう。

でもわたしは、「ありがとう」なんて言葉では片付けられないこの気持ちを伝えたいです。「カラフル」と共に。

 

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