チーム天狼院

はんなり京都案内物語 ~清水寺・1~


「ほら、はようはようっ」

俺はぜえぜえ言いながら着いていく。
はー、と前にいる彼女は口をため息をつく。

「しょーちゃんは体力ないなぁ、相変わらず」

 

俺の前を軽やかに歩いてゆく彼女は、俺・西山祥太の幼馴染だ。

ちなみに幼馴染といっても仲が良かったのは中学生までで、高校も大学も別だった。
大学に至っては、彼女は東京の大学に通っていた。
俺はてっきりどちらも地元の京都の大学に進むと思っていたものだから、
母親から『そういやお隣さんのななちゃんは、東京の大学行く言うてたで』と聞いた時には驚いた。

そんな幼馴染が、何の因果か大学一回生の夏、地元に帰ってくるなり俺のところに会いに来た。
そして久しぶりに会ったかと思いきや、『京都案内してやー』と駄々をこね始めた。

そんなん、さんざん知ってるやろ、と思ったけれど。

 

**

「どこ行きたいん」と聞いた俺がバカだった。

ななの口からあふれてくるのは、金閣寺に銀閣寺、八坂神社に清水寺……
「なんやねんその王道観光コースはぁ!」
るるぶでも持ってきたろか、と思った。
京都生まれ京都育ちの俺らが行くとこやないやろー、ぜぇったい混んでるでー、と俺は口を尖らせた。
ななは、えぇー、とむくれる。案外うちら王道観光コース行ったことないで、と。

それはたしかに正論だ。京都にいるからといって、寺社仏閣をよくまわるかと言えば、実際そんなこともない。近くにあるからこそ、案外行く気にならなくて、こんな風に「京都案内して」と言われて初めて京都観光スポットに行くことはままある。

言葉を詰まらせた俺に、ななはもう一度ダメ押しをきめる。
「今やから行ってみたいのに」

……そういわれると俺は何も言えない。

「じゃあせめて一カ所に決めてくれ」
ため息をついた俺に、「さっすがしょーちゃん!」と言いながら、ななは笑った。

 

「じゃあやっぱ、清水寺かな!」

 

一番王道スポットかよ、と俺は笑った。
行ってみたいんやもーん、と言ったななは、くるりとまわって白いスカートを翻した。

「それに、この体やから、混んでてもだいじょぶやって!」

そう言ったななは、いぇい、とピースした手を俺の前に突き出した。

(明日に続きます)


2016-05-20 | Posted in チーム天狼院, 京都天狼院, 記事

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