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【世界一早い!?京大生書店員による「騎士団長殺し」感想※ネタバレなし】 村上春樹も、きっと不安になる時はあるけれど。《リーディング・ハイ》


のっけから村上春樹の話でなくて恐縮ですが、うちの実家にはとある家訓がありました。
12月になると毎年発令される家訓です。
家訓。それは、「サンタさんを信じない子のもとには、サンタさんは来ない」という家訓でありました。

小学生くらいになると子どもも知恵を付けるものでして、なんとなく、サンタさんはお父さんお母さんではあるまいかと疑い始めます。そして少し意地悪めいた顔で母にわざとこう聞くのです。
「ねえ、サンタさんって、ほんとはお母さんなんやない?」
我が家の三人兄弟の誰かがこの台詞を発すると、うちの母は、決まって真顔になりました。そして母はこう言うのです。真顔で。
「サンタさんを信じない子のもとには、サンタさんは来ません」

そう、三宅家では「サンタさんっていないよね」という発言をした途端に「サンタさんからのプレゼントをもらえない」というシステムになっていたのです。
さすがにそれは子どもとしても本意ではありません。横にいる兄弟の二人がもらっているのに、自分だけプレゼントがないだなんて! すぐさまサンタさんを一瞬疑うような発言をしたことを後悔し、「や、今の発言なしで」と苦笑していました。
かくして三宅家のサンタさんは無事存在を疑われることなく、子ども時代を卒業するまで毎年クリスマスを楽しませてくれたのでした。

 

と、ご紹介したのはわたくし三宅の実家でのほほえましい(?)思い出なのですが。
この思い出、どこかで今の私に影響を与えているんですよね。
「サンタさんを信じる子のもとにだけ、サンタさんはやって来ることができる」ということ。それはつまり「それを信じている人のもとにだけ、それは効力を発揮することができる」ということなんです。
サンタさんが実際いるかどうかとか、そんなことは問題じゃないんです。サンタさんが今までサンタさんとして私にプレゼントをくれていたことが大事なんです。
そして、サンタさんが存在してるってことを疑わないことこそが、サンタさんをサンタさんたらしめているのです。

 

……はい、そろそろ村上春樹の話をしましょう。
けど別にこれは全く関係ない話な訳ではないんです。
今日発売された『騎士団長殺し』を読み終わった後、私はこのクリスマスの思い出について考えてしまったんです。

 

※この記事にネタバレというほどのネタバレはしないつもりですので、ご安心ください~※

 

いやー、実に村上春樹小説の新刊としては七年ぶりらしい長編小説でした。

感想としては、うん、面白かったです。
題名から察するに父殺しの話かなーと思ってたのですが、こう来たか~! と最初の一頁を読んだ時はにやにや。『ねじまき鳥クロニクル』以来の……っとここはネタバレ。ピー。
副題の「顕れるイデア」とか「遷ろうメタファー」ってなんやねん! と発売前はツッコミを入れていたのですが、読み終わってみると、ああ、うん、なるほど、ねえ、と思ってしまいました。大丈夫、ラノベやなかったで。
村上春樹ファンの皆様もご安心ください、ちゃんとパスタも出てきますしベッドシーンもございました。美人さんもでてきたよ!

天狼院書店は発売初日からネタバレすることを推奨する書店ではございませんので、まぁ、内容については多くを語りませんが。

 

だけど読んでいて思ったことを言うとすれば……それは、「ああ、あの世界的な作家である村上春樹でさえ、不安になる時はあるんだなぁ」という当たり前のことでした。

当たり前ですが、人間、だれだって不安になる時はなるんですよね。
不安になるって要はどういう時かっていうと、「自分にとって大切なものが揺らぐ」時。
揺らぐというと抽象的ですが、たとえば自分の恋人や家族に裏切られた時、たとえば普通に従来通り存在すると思っていた未来がいきなり変えられた時、たとえば自分が今まで疑ったことのなかったものを疑うようになった時。
そういう時、人って、不安になるんですよね。
「え、この先、私どうすんの?」って。

疑ったことのなかったものを思いがけず疑うようになった時、人は不安になります。どうしていいかわからなくなる。
その時、普通の人はどうするかっていうと……「信じることをやめる」んですよね。
「とりあえず、信じられるかどうかわかんないから、信じるか信じないかの判断はまず置いとこう、とりあえず心のどっかで疑っとこう」って。
それは、よし信じるのをやめよう~なんて決意する間もなく。無意識に、半ば本能的に、信じるのをやめるんです。

信じることをやめると楽です。傷つくことも少ないし。
だけど同時に、どこかでぶくぶくと暗いものが増えていきます。信じていた頃には受け取っていたものをどっかでなくしてしまいます。
例えば、サンタさんを信じなくなった子どものところに、サンタさんが来なくなる……みたいに。
例えば、夢を信じる覚悟も決まらないまま、時間だけが過ぎてって結局夢を叶えられなくなる、みたいに。

するとどんどん信じるものが減っていって、いつのまにか、本当に信じなきゃいけないものも信じられなくなる。目に見えるものしか信じられなくなる。
いやー大人になるのって嫌ですね。
本当に大事なものは、いつだって目に見えないのに。(ほんとですよ!)

だけどそんな風に信じることが揺らいで不安になった時、地面が崩れ落ちそうになった時。
村上春樹は「これがあるよ」って『騎士団長殺し』の中で言うんです。
僕も不安になることはあるけれど、こうしてるよ、って。

 

それは、「思い出す」こと。

 

何を思い出すか?

それはあなた自身の物語を、信じることのできるものを、思い出すんです。
昔の幸せな記憶とか、昔ほんとうに見たことのあるものとか、大切に思った人のこととか、ようは自分が「信じられるもの」を思い出すんです。
自分が本気で信じられる、あたたかい「ほんとう」を思い出すことで、私たちはまた何かを信じることができるんです。
『騎士団長殺し』の中で、村上春樹は、そう言うんです。

 

たぶん村上春樹大先生も変わらず、私たちも変わらず、不安や世界の闇や影を抱えて生きていて。みんなどっかで病んでるし、病んでないと思っていた自分が一瞬にして崩れ去る時もある。
けどそれを、超えてかなくちゃいけない。
そんな時、あなたの「あたたかい記憶」やこういう「善き物語」は、効力を発するんです。

いつか見た美しい景色を思い出して、私たちはまた生きてゆく。
そうやって「あれ?」っていう不安を越える。
自分が自分でなくなるような闇を、夜を、乗り越えていく。踏みとどまる、こちらで。
いつだって村上春樹はその踏みとどまり方を描いてるんだよなぁ、と今回の作品を読んでもつくづく思ってしまいました。

 

ここまで読んでくださったあなたにひとつ、ネタバレをすると……。

「心は記憶の中にあって、イメージを滋養にして生きているのよ」

これは『騎士団長殺し』のなかに出てきた台詞です。私、とても好き。
この世の中はたくさんの疑いや搾取に満ちているし、まじかよって言いたくなるような事態も否応なく起こる。見えないところでいつも影は伸びてくる。そしてそれは大抵予告なく私たちを襲う。
けど、でも、そんな時に思い出すだけであたたかくなるような記憶や物語があるから、なんとか私たちはこちらで踏みとどまれるのです。
そしてそれは、何らかの想像力を養分にして育つんです。

 

……『騎士団長殺し』は今のところ、私にとってそんな物語です。

うーん、村上春樹作品をネタバレなしに語るのってむずかしいですねえ。なかなか。

 

まぁでも、別に、小説なぞ読みたい時に読めばいいんですよね。
何かを信じられなくなった時、ふっと世界が崩れてしまうような瞬間、どこかであなたが『騎士団長殺し』のことを思い出して、そして本屋さんに足を向けてくれれば。
それが一番いいんだと思うんです。私は。

 

私ももう少し読み込まねばちゃんとした感想は言えないんですけど……でも読んだ方いたらぜひ京都天狼院で語りましょうっ。
おそまつさまでしたー!
………
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