チーム天狼院

メンヘラには賞味期限というものがあってだな《深夜3時の処方箋#8》


恥ずかしながら、メンヘラというものの中に私は分類されるだろうとの自覚がある。誤解のないよう言っておくが、鬱やその他の精神疾患を患っている人は、「メンヘラ」なんて言葉でまとめてはならず、しかるべき医療機関にて治療を受けた方がいい。ここでいうメンヘラとは、弱い自分を切り売りすることにより注目を集め、承認欲求を満たそうとする人々のことをさす。

正直なところ、メンヘラというのは困った存在である。自分で言うのだから、間違いはない。およそ常識から外れた行動をとっても「恥ずかしい」とも思わないし、何より「メンヘラである自分」と言う存在が愛おしいのだ。
病みたがり、傷つきたがり、泣きたがり、そんな可哀想な自分を「どう? 私って可哀想でしょ!?」というのである。
それはSNSであることもあれば、面と向かって話す場面でもあるし、あるいは夜中に電話をかけてくることや、もしかしたら家の前でしゃがみこんで泣いているなんて場合もあるだろう。とにかく「可哀想だね」と言われることに関しては執念深い。メンヘラと関わったことがある人なら理解してもらえるだろうが、その努力と行動力には関心するほどである。

誰しも多かれ少なかれ承認欲求はあり、特に中学高校時代などは自分を表現する術を使いこなせておらず、メンヘラ状態になっている人もいるだろう。
ただ、考えてみてほしい。
18歳のメンヘラは、許せる。
21歳のメンヘラは、まあ許せる。
24歳のメンヘラは、そろそろ大人になってほしい。
28歳のメンヘラは、ただただイタい。
31歳のメンヘラは……

どうだろう? メンヘラに賞味期限というものがあるとすれば、ギリギリ20代前半なのではないだろうか。そして、その期限の切れたメンヘラには誰も「可哀想だね」なんて言葉はかけず、満たされない承認欲求をさらに振り回して周りが引くという悪循環に陥ってしまうのではないかと思う。
実際のところ、20代後半で型通りのメンヘラと化していた私は、それは面倒な奴だった。Twitterを隅から隅までチェックし、彼氏が仕事に行くと言っては泣き、電話にでなければ出るまでかけ続け、返ってこないLINEを連続して送り、人前ではほとんど食事をせず、ひたすら弱い自分であることに徹していた。
その努力と行動力は、今考えるとかなり「元気」な人間のする量だったと思うし、同じことを今やれと言われても、できる自信がない。
それほどまでに、メンヘラというものは力を蓄えた存在なのである。

そう、弱くなんかないのだ。

弱い自分を演出する力がある。でも、その演出は、決して大多数の人間に評価されるものではない。その摩擦が、さらにメンヘラを加速させるのである。

ここまで読んで、もしかして自分は賞味期限の切れたメンヘラなんじゃないかと思った人がいたら、私はあなたの味方だ。決してメンヘラを批判するためにこの記事を書いているわけではない。メンヘラには、普通の人が持たない爆発的なパワーがあり、それはコンテンツを作る上で重要な武器になるのではないかと思っているからだ。

まず、メンヘラのリサーチ能力をなめてはいけない。
TwitterやFacebookをはじめとするSNSの投稿をチェックし、その情報を整理することで、どこで誰と誰が会っていたのかを特定することなんて難しいことではない。ネットを使って何かを調べる上で「パソコンよくわからなくて……」なんていうメンヘラはほとんどいないと思うし、必要とあれば紙の文献も探しに行くことだろう。

承認欲求の強さも、実は大事な武器である。メンヘラは、その欲求が満たされた時の快感を知っている。中毒になっているとも言えるだろう。それゆえに、承認を得るためにはどんな努力も惜しまない。ただ、努力の方向が間違っているだけなのだ。何十回も電話をかけたり、LINEを送りつけたりする必要なんてないのだけれど、それを説明してもおそらくわかってはもらえないだろう。

コンテンツメーカーはある意味「こども」の部分を持っていないといけない。雑念にとらわれず、一心不乱に創作に打ち込む力と自由な発想は、この「こども」の心を持っていなければ生まれてこないのである。

しかし、メンヘラが良質なコンテンツメーカーになるために1つだけ欠けているものがある。
それは、正しいアウトプットだ。
武器を発動するために必要なコマンドを、知らないだけなのだ。

これまで私はTwitterで10,000をゆうに超えるツイートをしてきたが、そのうちおそらく3割程度が「死にたい」「消えたい」「生きている意味がわからない」と言った趣旨のものだろうと推測できる。
主に初期のツイートであるがゆえ確認は難しいが、完全にメンヘラだった私は、そう言った類の言葉を連発していた。
だが、「可哀想だね」なんて誰も言ってはくれない。言ってくれたとしても同じメンヘラ気質のアカウントからのリプで、その言葉の中には数%の「私にも言ってよ」という圧力が含まれていたように思う、もちろん無意識の下で。
そんなやり取りの中で、承認欲求が満たされるはずもなく、数打ちゃ当たると思っていたのか、そんな闇ツイートは加速するのである。

だが、今はその必要がなくなった。
賞味期限切れのメンヘラも卒業したし、闇ツイートを連発することもない。

そう、文章という形でアウトプットするようになってから、私の生活は一変した。賛同してくれる人は明らかに増えたし、「可哀想だね」という言葉もいらなくなった。だから、「可哀想な私」を演出する必要も無くなったし、結果「死にたい」なんてツイートも無くなった。

なんだ、方法を知らなかっただけか。
自分の何かがおかしかったわけではない、無知だっただけなのだ。

私は、自分がメンヘラであることを、いや、メンヘラであったことを恥ずかしいと思っている。他人に迷惑をかけたし、大切な人を困らせてきた。
でも文章を書くための、ライティングというコマンドを手にいれて、少しずつではあるが、誰かの力になるものが発信できるようになってきたのではないかと思う。
ここまで読んでくれた人のうち何人かは、もしかしたらメンヘラである自分から卒業したいと思っているのかもしれない。
だとすれば、私の手にいれたコマンドは、あなたを自由にすることができるのではないかと、それさえ伝えられればこんなに幸せなことはない。

記事:永井里枝

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