チーム天狼院

現実を見ろよと言われても、就活で大事にしたいことはやっぱり一つしかない。


記事:河野ひかる(ライティングゼミ・平日コース)

大学4年生の時、ほとんど就活をしなかった。
ピータパンかよ、と言われても、大人になんてなりたくなかったし、何者になるのかもわからないまま、どこかの会社に入るのが心底嫌だと思った。

私の通う大学は、芸大にしては珍しく、口うるさく「ちゃんと就職しろ」と言われる。
アーティストを育成する、というより、アートやデザインの視点をもって社会とつなげたいという教育理念が強いらしい。
大学3年生のころにはキャリアデザインという、将来設計を考えなくてはならない授業が必修になる。
自己PRがどうちゃらとか、グループディスカッションがどうちゃらとか、その授業の先生には申し訳ないが話の内容はほとんど覚えていない。
授業を受けながら「なんかうさんくさいな」とぼんやり思っていたことだけは思い出せる。
とにかく、その授業で教わることよりも私のキャリアデザインを考える上で大切なことは他にあるだろうと思っていたのだ。

だけど、その授業で一つだけ、強烈に思い出せることがある。

とある日の授業の出席表にあるコメント欄に、こう書いたのだ。

私は、この人と働きたいと思った人と働きたい。
就職する上で、職種でも、給料でも、場所でもなくて、人を大切にしたい。
社会に出る上で何を一番大切にしたいか考えたけれど、結局そこだった、と。

2年前の私は、自分の気持ちにまっすぐ、そう書き留めていた。
わざわざコメントカードをiPhoneで写真に撮っていたのだから、よほどの気持ちだったのだろう。
そして、今もその気持ちはなんら変わっていない。

先日、久しぶりに東京に行った。
大学時代の友達と、とある展示を見に行くためだ。

今まで東京に行くと大抵、体調を崩して帰ってきていた。
それが今回はというと、体調を崩さないどころかめちゃくちゃ元気なのだ。

今まで体調を崩すたびに、田舎者の私には東京の空気は合わないのだろうと決めつけていたし、こんなに合わないのだからと、就職するにしても東京は外そうと思っていた。
京都が居心地が良すぎるせいもあるが、東京に対する憧れが皆無なのだ。
別に、今の時代東京じゃなきゃ手に入らないものもないし、東京が一番かっこいいみたいな考えが超ダサいと思っている。

とはいえ、東京じゃないと見れない展示会は数多くあるし、そのために私は「1日で○件の展覧会を回る」というノルマを課しながら、毎回一人で過密スケジュールと言える件数の会場数を回っていた。

そりゃ、そんな思いつめたようにギャラリーを歩き回っていたら体調も崩すよな、と今ならわかる。

それが今回、大学時代の友達と一緒だったから東京にいるのに、京都にいるようだった。
展示を見終わり、夜ご飯を食べる頃にはすっかり街に馴染んでいて、危うく京都への終電を逃すところだった。
駅まで必死に走って、どうにか新幹線に乗り終えホッとした時に気づいたのだ。

あれ、私、東京にいたのに体調崩さんかったわ、と。

そして同時に、その日1日を、楽しい思いで終われたのは一緒に過ごしたのが大好きな友達だったからだ、と思う。

やっぱり、何をするにも場所やお金のこととか、時間とか、大切なことってたくさんあるけど。
私にとって一番大事なのは「人」だな、と改めて思った。

苦手だと感じていた東京を楽しめたように、一緒に働く人のことを尊敬できたり、少しでも好きだなと思えれば、きっとどんなに大変な仕事も本当の意味では苦にならないだろう。

なに青臭いこと言ってんだ、とか現実見ろよ、とか言われそうだがやっぱり私は一緒に働きたいと思える人たちと一緒に働きたい。

私が授業のコメントでわざわざ働きたいと思える人と働きたいと書いた時、頭の中には「この人の元で働きたい」という思いがあった。
その人にはことあるごとにそのことは伝えていたが、きっと冗談だと思っているだろう。
今の私にはそこで働けるだけの専門的なスキルがないが、逆に、その人にはない部分を伸ばせばいいと思っている。

その過程で、他の「一緒に働きたい」と思える人に出会えるかもしれないし、やっぱり「この人」以上には出会えないかもしれない。
社会に出る上で、もっと他に重要視しなければいけないことが出てくるかもしれない。

どうなるのか今はわからないが、今はまだ、大事にしたいことは変えずに、もう少し走り続けたいと思う。

***

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