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チーム天狼院

紅白の予習として、竹原ピストルという男。


記事:前岡舞呂花(チーム天狼院)
 
 
そこにあるすべての体が、彼を五感で焼き付けようとしていた。
表情から、指の動き、滴る汗、かき鳴らされるギターの音、響く振動、共有する空気感に至るまで、すべてを。
過剰な演出は必要ない。どの歌番組で見かけるときとも同様に、ここでも、ただバックライトだけが、歌うたいとしての彼を引き立たせている。
ただし、これはどこでだって言えることだが、「生」というのはやはり五感で触れられる点で迫力が比ではない。
力強い歌を歌い続けるには、その人となりも力強くなくてはいけない。
「走り出し続けろ 変わり続けろ」と歌うには、その人自身がそのようにしていなくてはいけない。
その点、彼の歌は、まさに彼の生きざまそのものを削ったものだった。
と、突如、歌い始めた声が止まる。噛んだのか。
戸惑いが生まれようと一瞬の静寂が起きたが、彼はそれに向けて、マイクを通さずに言った。
具体的には、私たちと、その奥にいる音響さんやライトを操作していた人に向けて。
「悔しくて眠れなくなるので、もう1回初めからお願いします!」と。
静から一転、会場は彼に対する惜しみない拍手に包まれた。
指笛や、「がんばれー!」という直接的な激励も生まれた。
悔しくて眠れなくなるというのは、恐らく比喩ではない。
竹原ピストルとはそういう男なのだと、会場にいた誰しもが知っていたからだ。
平成29年12月12日、福岡イムズホールでの夜のことである。
 
竹原ピストルといえば、来る大晦日12月31日、紅白歌合戦への出場が決定しているアーティストだ。
よく知っている人には今更ながら、まだよく知らない人にも紅白の予習として、1ファンから竹原ピストルを語らせて頂きたい。
 
さて、近年の活躍には目覚ましいものがあった。
まず、住友生命「1UP」のCMソング「よー、そこの若いの」は彼の代表曲になった。
TVを付けていれば、あなたも最近も耳にしたはずの、あの曲である。
「よー、そこの若いの 俺の言うことを聞いてくれ」がサビのその歌は、
決して説教臭い何かではなく、その後「俺を含め 誰の言うことも聞くなよ」と続く。
若者がゆとりだと言われる世の中、出ていくには肩身が狭そうな社会の中でこんな上司がいたら、きっと相談事がある度に涙腺が緩んでしまう。
並行して歌番組への露出も増えた。歌うたい歴18年。少し前までは小さな箱も含め、年間ライブ250本をこなしてきたド根性の人である。「ドサ回り」と称し、確実に地盤を固めてきた。そんな近い距離でも見られた人が、家でテレビを付けたら映るようになった。しかもそれが天下のMステだなんて。タモリさんと話しているなんて。更にはその日のトリを飾るなんて! なんといっても年間250本である。同じ思いをしながら見ていた視聴者はたくさんいただろう。そんなこともあった。
テレビ東京系のドラマ「バイプレイヤーズ」の主題歌も歌った。
缶コーヒーBOSSのCMにも出た。
そして極め付けが、今年の紅白出演決定である。
竹原ピストルの年だったと言っても過言ではない、まさに花開き飛ぶ鳥を落とす勢いがあった2017年だったと振り返る。
 
その風貌を見たことはあるだろうか。
彼は役者としても評価されており、西川美和監督「永い言い訳」では、アカデミー賞助演男優賞を受賞している。作品の中ではトラックの運転手役だった。まさにその役柄がぴったりな感じだ。トラックの運転手やってそう、といったら語弊が生まれるだろうか。うん、でも、そんな感じの40歳のおじちゃんに見える。
歌っているときは正直イカツイ印象もあるかもしれない。あんなに汗をかきながら歌うのか! と驚かされるし、ライトに照らされてとび散る唾も光る。一言でいうと「男臭い」。それも魅力だ。
しかし歌番組でのトークやライブの閑話に入ると、物腰の柔らかさや柔和な笑顔にまた心を掴まれる。その笑顔の裏に、歌のなかに見えるような強さ(強かさとも言える)があるということが、とてもかっこいいのだ。もちろん、優しく寄り添ってくれるような歌もあるのだけれど。
気になった人はぜひ、検索して歌っている姿を見てみてほしい。
彼自身が、「お世話になった人のために売れたい」思いが強いことが、応援したくなる気持ちを加速させる。
曲は何でもいい。何でも、良いのだ。
 
音楽が持ち歩ける時代になって久しい。
私たちは、気分に応じて音楽を選ぶことができる。
私が竹原ピストルの曲を聞きたくなるのは、
まだやれるから、誰かにけしかけてほしい、そんな気持ちのとき。
つまり、調子のいいときだ。
BGMではなく、MM(メインミュージック)ぐらいの気持ちで曲を流す。
そうすると、その背中の大きさに、よし頑張ろうと思える。
叩かれても立ち上がれない状態で聞くと落ち込んでしまう原因にもなるから、
その力強い歌を摂取して、常に力にできる自分でありたいとも思う。
 
紅白出場歌手になったということは、
彼は今、よりはっきりと世間に求められているということだ。
今の日本には、あんなふうにかっこいい背中を見せてくれる人が必要なのだ。
これからももっともっと、その姿を見せてほしい。まずは、紅白で。
 
 

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